四章 御伽噺のお姫様

天族の彼女は‥‥


———休日明けの朝。ベッドから重い体を起こし、学生服に着替えるいつもと変わらない日常を送る。この学園都市へ来てもう数ヶ月程経つ。学園生活も慣れて、案外悪くはないと思っている。


まあ、様々な揉め事と出会したのだが‥‥

それも学園に通う者の定めなのだろうと自分に言い聞かせる。そんなこんなで学生服に素早く着替えて、1学年大食堂に朝食を取りに向かった。



そして到着すると目の前に広がるのは大勢の同級生がトレーを持って朝食を取る姿。ここは全世界の豊富なメニューがバイキング形式で毎日食べられる至高の場所。食べ放題、飲み放題と朝からガッツリ食べたい人には最高だ。


大食堂に入ってすぐ横にあるトレーを持ち、種類豊富な料理を取る。ついでに俺は朝からなんでも食べられる派である。また貴族達にとってはバイキング形式に最初戸惑っていた。


料理を運んで来るかと思えば自ら装うのだから驚いた、と三大貴族であるレオナルド君が言っていたのを思い出した。


その後トレーいっぱいに料理を取り、空いている席に座った。しかし、なんだ。同級生達の視線がいつにも増して矢鱈多い。



チラチラと俺を見ては、小声で何かを話す同級生達。休日の前に行われた俺とガイとの決闘を見て噂をしているのだろう。そんな周囲の視線に晒されながら俺はトレーに取った料理を黙々と食べていく。



そこへ魔族の男子学生数人が俺の元まで来てこう言った、、、




「レオン君。この前の決闘、同じ男としてかっこよかったよ!あのガイを降参させるなんて初めて見たよ!そしてありがとう。これでガイはもう好き勝手できないよ!男達から恨まれていたからね!」



そう言って俺の腕を取りブンブンと激しく振る魔族の男子学生。目を輝かせて憧れています、と言わんばかりの眼差しだ。そんな中、周りを見渡すと他の魔族達も互いに頷いていた。


また魔族の女子達は俺に向かって手を振ってくる。こんなにもガイは周りに恨まれていたのかと思うと虚しいものだ。



と、肝心のガイは食堂にいない。そしてファシーノも食堂にいない。

何となく察してはいるが、一人で朝食は悲しい。


名も知らない魔族の同級生達はその後いなくなり、俺は急いで朝食を済ませて教室へと向かった。





◊◊◊







「———あら遅かったわね。良い夢でも見ていたの?休日は随分と“お楽しみだったわね」


「‥‥‥おはようファシーノ」



俺は教室へと向かうとある意味機嫌の良いファシーノが席に着いていた。話し方からするにどうやら休日の事は知っているらしい。



これは妬いているのでしょうか?誰か教えてください。ファシーノが目を合わせてくれないです‥‥



なんて思いながらファシーノの隣に座ると、タイミングを見計らうようにクラスの女子達が俺の元へと駆け寄ってきた。


「レオン君!凄くかっこよかったよ!初級魔法なんて使えなくても充分過ぎる程に強いよ!」


「うんうん!あんな魔法初めて見たよ!」


「それでファシーノちゃんにさっき聞いたらはぐらかされちゃって‥‥レオン君なら教えてくれないかなーって!」



ものすごい勢いで詰め寄ってくる女子達。彼女達のほのかに甘い香りが鼻を擽り、花の女子達に囲まれている。この状況を見て、ファシーノはどう言った反応をするのかと俺は横を見た。



しかし、等のお姫様はそっぽを向いていらっしゃる。これは妬いているのでしょうか?誰か教えてください。何だか少し可愛いとさえ思ってしまう自分がいます。



「———皆さんおはようございます。ホームルームを始めますよ!」



そこへ丁度いいタイミングでウルティア先生が来てくれた。女子達は残念そうに席へと戻り、ホームルームが始まった。






◊◊◊






「———という事で学園に入学して数ヶ月の皆さんにはこの時期は大変になるかと思います。まず最初に“クラブを決めてもらいます。クラブとは講義以外の時間に大多数で研究したり、運動したりして上級生や下級生と交流を持つ場です。様々なクラブがありますので、皆さんが魅力的だと思うクラブを見つけてください。そして二つ目は試験があります。夏の長期休暇前に合わせて、この数ヶ月の間で皆さんの成長を見ます。今回は実技と学科の二つです。実技が良くても学科がアウトでした皆さんの楽しい夏休みは補講で潰されてしまいます。逆も然りですので、皆さん頑張りましょう!」


そしてウルティア先生は教壇から降りて、別教室で行われる講義へと先に行ってしまった。残されたAクラスの俺達はというと‥‥



「‥‥嘘だろ。学科試験なんて‥‥終わった」


「ああ、今までありがとよ兄弟」


「次会う時は飲もうぜ‥‥」



男子諸君は新たなクラブよりも試験について絶望している。ここにいるのは魔法測定値で優秀な成績を収めた者と実技試験の成績で決められた者達。入学試験では学科の科目などなかったから少々勉学のできない者は焦りを出している。



そして俺も同感する。一方の女子達は盛り上がりを魅せていた。



「クラブか〜、かっこいい先輩達のいる所に行きたいな」


「それ分かる〜!見学にいこ〜!」


「あと、有名な流派にも見学行きたいね〜!」



キャッキャウフフな話で花を咲かせている女性陣。周りの同級生達は年相応の反応を示す中、俺は余り感情を出せないでいた。それもこれも“あの声のせいによるものだろうな。



5歳の時から脳に直接響いてきた謎の声。その声がある意味で第二の親代わりだった。それも10歳を境に突如消えてしまった。あの声のお陰で俺は強くもなれ、精神も鍛えられた。



一体あの声は何だったのか自分でも分からない。亡霊の囁きなのだろうか‥‥

これについてはあの夜でアザレアにしか伝えていない。ファシーノでさえも知らない事だ。


いつか聞かれたら答えるとしよう、、、





それよりも別教室へと移動を開始しよう



そしていつまでもそっぽを向いているファシーノを何とか説得して教室を出ると、Sクラスの教室の前で大勢の人集りができていた。俺とファシーノは今日初めて目を合わせて、人集りが出来ている隙間を縫い原因を探ろうとした。



「ちょっとごめん!」



掻き分けてその先へと辿り着くと、答えがあった。


学園に入学して今まで不思議に思っていた事がある。それは、ある種族だけがいなかった事。どうしていないのか今まで分からなかったが、あまり深くは考えないようにしていた。



しかし、瞳に飛び込んできた人物を見てようやく疑問が晴れた。


金色のような白い髪、真っ白の大きな翼を持つ“彼女はアザレア達に囲まれながら楽しく会話をしていた。



「ファシーノあれは“天族”だよな」


「ええ、そうね。予定よりも早く帰ってきてしまったわね‥‥‥計画を変更しないといけないわ」


「ああ、そうだな‥‥‥‥ん?」



あれ、おかしい。話が噛み合っていないようで噛み合っている?え、何?計画ってどういう事ですかファシーノさん。それにあの天族の子が来ることを知っていた口振りはどういうことでしょう。


あれ、また俺だけ何も知らされていない?



「———各幹部に報告しないと‥‥」



そう言ったファシーノは思い詰めた表情で人集りを抜けた。

俺はというと、また省かれたようなのでその悲しみを堪えるのだった。

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