闇に蔓延る者達
「———ここは何処だ‥‥?」
———夜なのか、はたまた朝なのかも分からない闇の空間。俺が気づいた時には何故かそこにいた。そして動けないように腕や足をビクともしない程にきつく縛られて、椅子に固定されている。
いつまでこの闇の空間にいるのか‥‥誰も来ないのだろうか‥‥しかし、腕や足を縛られていると言うことは誰かに拉致されたに違いない。一体何処の誰が俺を拉致したのか‥‥今は考えたくもない。
だが、心当たりはあり過ぎる——————
—————コツッコツッコツッ‥‥
と闇の空間に響くある音。それは女性物のヒールのような音で俺の正面から聞こえて来た。その音は近づくに連れて大きくなり、やがて止まる。
すると突然、神々しい程の光が舞い降り、闇の空間を照らした。突然の輝きで視界がぼやける中見た物はまるで地下牢の監獄だった。どう考えても歓迎されて来た訳では無いのだと再認識した。
そして俺の目の前にいたのは、見たことのある女性だった。体のラインが浮き出る程に密着している黒いスーツを纏い、拘束されている俺を見下ろしていた。
「———ガイ=ヴァンピール。貴方の素性は調べ尽くしたわ。貴方の事ならなんでもお見通し‥‥‥例の“女性を探している事もね」
目の前にいる女性は俺の事を知っていると言う。そんな筈は無い、と考える事自体が愚かだろう。なんせ俺を拉致したのは、あの月下香なのだから。
今、俺の目の前にいる女性はあの方の隣にいた‥‥‥そして俺があろう事か目を付けてしまった“ファシーノ”という女性。薄々勘ぐっていたがやはりというべきか‥‥‥
「———数日前の決闘で貴方は過ちを犯した。知る事のなかった“あの魔法を知ってしまった。貴方の魔法はとても面白い。けれど相手が悪かった‥‥これまで散々罪を犯し続けてきた貴方に降った罰は‥‥‥」
そう言うと彼女は手を翳してきて、俺の胸に魔法を掛けた。一体どのような魔法を掛けたのかわからないが、大方予想できる
「———貴方に掛けた魔法‥‥‥それは我々の秘密を部外者に漏らそうとした瞬間に発動する死の魔法。助けなんて期待しない方がいいわ。まあ、秘密を漏らさなければ死にはしないのだけれど。あと、紙なんかに書いても発動するから気をつけて」
美しい顔と笑みで俺に死の魔法を掛けた“ファシーノ様。俺の自由を奪い、未来をも奪った。これが今まで犯してきた俺の罰であり、どうしようもない俺に最後の慈悲を下さった”ファシーノ様。
死よりも我々の為にその命を持って働け、そう言っている。
俺のこれまで犯してきた罪を思い返せば、至極当然の事。何百人、何千人と無理矢理女を奪い、泣かせてきた。男からは恨まれ、復讐してきた者も何人もいた。そして強引に従者にさせて玩具に‥‥寂しさを埋める為だけに大勢の同族を汚してきた。
俺は生きる価値の無い屑。ただ、親の力を利用してきた薄っぺらい魔族の恥。俺の人生は幕を閉じた。もう、やりたい事はやり尽くした。あとは、俺に向けられる憎しみや恨みを受け入れるだけ‥‥
「———貴方には利用価値がある。7つの大罪、シン=ヴァンピールの息子として魔族帝国の情勢を報告してもらうわ。所謂スパイをして、親も兄弟も祖国も裏切ってこちらに情報を流しなさい。貴方はいつもの様に振る舞うだけでいいわ。ただ、女性を傷つける事をしたらタダじゃおかないわよ?貴方は24時間監視されている事を忘れないように」
ただ冷たくあしらう様にそう話した彼女は背中を向けて去っていく。
俺は去っていく彼女の背中を見つめていた。すると今まで閉ざされていた声が戻り、遠くへと行ってしまう背中に尋ねた。
「生かされた俺は‥‥‥組織の一員なのですか?」
そう彼女に問いかけたが、やっとの思いで発した声は自分自身でも弱々しいと思うものだった。そしてゆっくりと背中から振り向く彼女は最後にこう話す。
「———それは貴方の働き次第よ。また学園で会いましょう“ガイ君”」
その言葉を最後に、瞼が閉じていき俺は何者かによって意識を刈り取られたのだった‥‥
◊◊◊
———ここは誰も知らず、誰からも“忘れ去られたある領域。この世界から遠く離れ、魔獣はおろか草木の一本も生えない領域。大地は干涸び、森は枯れ、砂漠と”黒い大地があるだけの不可侵の領域。
魔獣も、五つの種族さえも近寄らない不可侵の領域にある建造物があった。白く美しい岩を削り、建てられたその建造物はまるで御伽噺の神を祀った神殿。砂漠と黒い大地だけが残る領域で白く輝き続けるその神殿にはある者たちが住み着いていた。
白く美しい柱を何本も通り抜け、様々な壁画の長い通路を抜けた神殿の最深部。
その最深部の先にある玉座に居座る者は何万という種族を従えていた。大きな階段の先に位置する玉座から見下ろしていたその者の前では何万という種族が頭を下げ、地面に膝をつける。
そして先頭で頭を下げていたある女性が静寂を破る。
「———如何いたしましょう‥‥我らの王よ」
静寂の中に響き渡ったその言葉は、玉座で居座る者に発したもの。
そして王と呼ばれたその者は閉ざされていた口を動かしてこう言う‥‥
「———永く、永い時を私は待っていた。忘れもしないあの大戦から永劫とも思える5000年。同族を滅ぼし、最愛の人を奪った忌まわしき者共」
そして玉座に座るその者は立ち上がり、首を垂れている種族達に向かって階段を降りていく。
「———5000年の永い時の中で私はもう疲れた‥‥もう待つのは苦しい‥‥ならばいっそこちらから始めよう」
階段を降り、行き着いた場所は女性の目前。女性は緊張の中、重い口を開けて語る。
「準備は出来ております王よ‥‥‥また、虚無の統括者と呼ばれる者は如何いたしましょう?あの者もまた“あの力”を持っております」
「———虚無の統括者‥‥‥次の”継承者™はそう呼ばれているか。だが、今回も外れるだろう‥‥‥5000年も待ち続け、誰一人として“成れなかったのだ。今更、希望を持っても儚いものよ」
そして“その者は再び考えるように天井を見上げる
「———しかし、古き友”ヴァルネラ”が復活し、虚無の統括者と名乗る者と一緒にいる。これは偶然か必然か‥‥‥何よりも“数奇な運命を持たされた者よ。その運命は覆す事のできぬ鎖。いつか自らの運命を恨む時がくるだろう‥‥そして今までの者達と同様、力に呑まれ死んでいく」
その者は再び階段を上がり、玉座を目指して歩いた
「———時はきた。我らが向かうはただ一つ。葬られた真の歴史を、世界を操る偽りの王共を引きずり落とす時だ!———そこで待っていろ偽りの王共。神の罰はまだ終わってはいない!」
そして玉座の前で振り向き、下にいる者達に宣言する
「———戦争だ。世界を‥‥‥偽りの王達の玉座を取り戻す!いくら犠牲が出ようともう悲しむ心も廃れた‥‥‥情は捨て、我らは望ままに突き進む!もう隠れも怯えもしない!こちらから行くぞっ」
—————おおおぉぉぉぉおおおお!!!!
宣言と共に震え上がり、雄叫びを挙げる者達。それぞれの思いを‥‥恨みや憎しみ、愛を胸に秘めて世界は再び動き出す。
そして、全世界を巻き込む戦いの幕開けはそう遠くないのだった
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