夜に暗躍する2人
「いや〜驚いたな!まさかあのエミリア様が現れるなんて‥‥‥それもこの学園の教師も担われるなんてな。やはりあの事件が原因なんだろうな‥‥‥」
「ああ、それしか考えられないだろう。あの“人族の天才軍師”と他国から恐れられた程の人物だ。数年前、厄災の魔獣が現れた大戦で各国は『同盟軍』と組織を変えたが、それまでに名を轟かせていた人物達の評判はそうそう変わる事はない」
「だよな〜それにこの前の事件で生まれて初めてあんな近くで見たしよ〜」
「ああ、俺も同意見だ。まるで天にまで登る黒い柱だった。会場から例の監獄まで数キロも離れているのにその存在感は凄まじい。あれが頂きの魔法であり、我々全種族の求める至高の魔法‥‥‥その魔法の所有者が世界の反逆者であり、厄災の魔獣を一振りで滅ぼした最強で最悪の存在—————虚無の統括者と呼ばれる憎き存在なんてな」
「ああ、違いねえ。世界中のあらゆる町や村を襲って一体どんなクソ野郎なんだ。弱者を痛ぶる臆病者が‥‥‥何が頂きの魔法だっ。何が厄災の魔獣を滅ぼしただっ!選ばれし者が真の力を発揮すれば敵うわけがねーんだよ!」
————と大食堂で俺とファシーノ、ガイ、レオナルド、ロゼ、アシュリーで昼食を取っていた所、背後を歩いていた同級生達がそんな会話をしていた。見るからにAクラスではないが‥‥‥なるほど。魔法試験の後、エミリアは他のクラスにも顔を出していたのか。
今日の大食堂はやけに活気にあふれていると思えばそういう事なのだろう
「———虚無の統括者ですか‥‥‥‥弱者ほどその名をよく口にしますね。私達の立場からはその名を口にする事すら恐ろしいというのに。無知な者ほど哀れな存在はいないです」
と様変わりした魔族のガイが言葉を挟んだ。また言葉を聞いていたレオナルドも食事を止めて、水を一杯飲み込む。
「ガイの言うとおりだ。“あの魔力”を見て、肌で感じていたならあの言葉は出ないだろう。あいつらはまだ“こちらの領域”まで来ていない。言わせておけ」
ほうほう、レオナルドとガイの2人はいつからそんなに仲良くなったのだ。俺は嬉しいよ。それにレオナルドやガイくらいのレベルになると虚無の統括者って口にする程恐れられているのか‥‥‥?
「まあ、いいじゃないかしら。怖くて堪らないから言葉で強がっているのバレバレなんだもの。とても可愛いじゃない。ねえロゼちゃん」
「あ、アシュリーは意外に抉る言い方するよな」
エルフのアシュリーとトラ族のロゼが肉を食べながら楽しげに会話する。アシュリーも対抗戦以来仲良くなり、Aクラスでは主にこの6人で行動するようになった。ファシーノと俺も入れて。
対抗戦では偽物月下香の襲撃で試合がなくなってしまい、そのまま3年Sクラスの優勝という流れに落ち着いた。我らが特待生のアザレア達は準優勝、そして3位がレベッカ先輩達の2年Sクラス。俺たちは4位という事になり、申し分ない順位だった。
不戦勝だが、1年にしては大いに検討した事だろう。ウルティア先生が泣きながら喜んでいたしな。
だが、1年Sクラスはともかく3年2年のAクラスを差し終えて1年のAクラスが上位に組み込んだ事で、さまざまな噂やありもしない嘘が飛び回っている。
まあ、先輩達の嫉妬などどうでもよくて気にはしないが、俺達が被害を被った時は相応の仕返しをする。
「そういえば例の現場は未だに立ち入り禁止だよな?軍が何やら魔力の痕跡を調査しているって話だが‥‥‥あの魔法の残滓で人物を特定できれば一気に前進するだろうな」
レオナルドが不意にそんな話を持ちかける。例の現場とは俺が魔法を使った湖底監獄近くの地下道だろう。今はその地下道の一角が丸見えになっていてとても大きな落とし穴のようになっている。
軍が調査しているみたいだが、俺の痕跡などないに等しいだろうな
「そうね。見に行きたければ見られるわよ。立ち入り禁止エリアの外からでもその凄まじさが分かるわ。先輩や同級生の大勢は見学ツアーのように毎日見に行ってるわよ」
「へーそうなんだ〜」
ようやく会話に参加してきたファシーノがそんなこと言うので、俺はテキトーに流した。
まさか見学ツアー見たくなり、大勢の学生が溢れかえるなんてな。
ふふふ‥‥‥俺の魔法のすごさに圧倒され、焦がれ、感極まる事だろう!
ほぼ全員が俺の魔法を目撃したはずだからな、一度はその現場を見たくもなるだろう。
「さて、もう午後の講義が始まる。午後は座学の試験だから気合入れようみんな」
◊◊◊
「———そうか。コンタクトできたか。それでどうだった?」
「そうですね‥‥‥とても“普通”でした」
————私はモニターに映る人物にそう伝えました。彼女は我々人族軍のトップにして世界最強の5人‥‥‥‥選ばれし者の1人。
パエーゼ・プレチーゾ様とモニター越しで通話をしています。
そしてパエーゼ様の言うコンタクトできた人物とはテオドーラ魔法剣士学園の1年A クラス在籍のレオン・ジャルディーノ君。
学園に来る前、パエーゼ様と話していた際に見た彼の異質な情報。魔力測定で史上最低点を叩き出し、人族三大貴族の1人を試験で倒し、魔族7つの大罪の1人を決闘で倒した信じ難い事実。
魔法座学も魔法の習得方法も剣術も知らない一般市民が、幼少より英才教育を施してきたた貴族に勝利するなど、あまり前例がありません。勿論、一般市民の中でも魔力量が高く魔法の座学や剣術を習った事なくとも、貴族の御子息に勝利する時もあります。
しかし、それは一般市民でも13歳から軍の入隊試験を突破した選ばれた存在に限ります。
レオン君のように何も情報がなく、軍に所属していた経歴も、養成期間もない本当の一般市民が貴族に勝利すると言うことは“普通”ではありません。
そして数刻前に見たレオン君の行動をパエーゼ様に話します。
「———数刻前、Aクラスでは魔法試験を実施していました。私は物陰に隠れてレオン君順番が訪れ、魔法を的に向けて放ちましたが、威力が弱く、魔獣すら傷つけることのできないまるで子供のお遊びのような魔法でした。勿論、結果は補習で残念がっていましたが、周りの反応を見る限りあれが“彼の普通”なのだと感じました」
「———的すら破壊できない魔力の少なさと魔法で一体どうやってそのAクラスで生き残れていると言うのだ?はっきり言えばAクラスは世界中から集まった優秀な貴族。所謂エリート集団だ。軍の養成期間を通過していない一般の学生がAクラスに入れる事自体奇跡。————剣術にでも秀でていると言うのか?」
「———話を聞く限り彼は剣術に長けています。そしてもう一つガイ・ヴァンピールに勝利した魔法‥‥‥‥それがアンチ魔法と言うものです」
「———アンチ魔法だと?」
これまで話した内容と最後に話した言葉でパエーゼ様は意味のわからないと言う表情をしています。私もアンチ魔法を聞くまでは意味が分かりませんでしたが、ある者からの情報で理解が追いつきました。
「———はい。アンチ魔法、魔法に対抗する魔法というべきでしょうか。展開された魔法、そして魔法そのものを破壊する代物です。故にアンチ魔法を魔法研究者の学者らが仰っていました。誰もが実現できなかった魔法を一般の学生である、彼がどうして?となったとこと、レオン君自身『突然変異』と言っていたようです。これでようやく、同盟軍が彼を引き込み、監視しているか理解できました。彼のアンチ魔法を利用する事と研究の対象でしょう」
「———なるほどな‥‥‥‥魔法に対抗する魔法か。やはり、何か引っかかるな。魔法が使えない変わりにそのような魔法が使えると‥‥‥それともそのアンチ魔法の所為で自信の魔法や魔力が奪われているのか‥‥‥謎の多い少年だな」
「———はい。とても謎の多い少年でした。話をしてみてもいたって普通でこれといった突出しているものは何もなく。その代わりでしょうか‥‥‥‥女子からはとても好意を寄せられている様です。男子からは敵扱いでしたけど、ふふふ」
「———ラッキーな少年だなエミリア。レオン・ジャルディーノだけではなく他の怪しい人物の監視も頼む。お前のことだから大体は目星がついていると思うが、良い報告を待っている———————ブツ」
これにて一時の報告は終了です。やはり少しは緊張しますね。
それにしてもレオン君の情報はおかしな点ばかりあります。対魔法なんて一体どうして彼は実現できたのでしょう‥‥‥魔法を壊すと言うことはその魔法よりも上位の魔法ではなければ実現できないはずです‥‥‥
まさか、彼は———————いいえ、そんなはずはありませんね。虚無の統括者のあの魔法とどこか似ている雰囲気がありますが、全くの別物です。
それに今日話したレオン君はとても優しく、とても真っ直ぐな瞳でした。周りからも信頼されているようで、とてもではありませんが極秘魔法部隊に所属して悪人を斬っている様には見えませんでした。
それでも、あのような少年が悪人を斬っている‥‥‥悪人であろうとその手を血で染める行為を彼は行っている。
とても悲しいものです。
我々軍は強さを求めるあまり、学生であろうと戦場の場に立たせてしまう。時代がそうさせているのか‥‥‥
今はまだ、レオン君の動向を陰ながら監視しましょう
彼にも私と同じように守りたいものはきっとあるのですから
◊◊◊
————そして時刻は深夜2時を回る頃、俺は寮の自室で月を眺めえていた。
秋から冬に変わる季節の節目は風が冷たく、窓を閉めて空を見上げていたが、徐に窓の取手をつかむ。
そしてゆっくりと開いて部屋の空気と入れ替わると、着ていた黒いコートがバサバサと靡いた。
「———さあ、時間だ」
俺以外誰もいない真っ暗な部屋で空に向かって呟いた。月明かりが窓から差し込み、黒いコートを着る俺を淡く照らし出す。
すると、背後からコツコツとヒールの様な足音が聞こえ、部屋を回る風がその甘い匂いを鼻に運んでくる。
そして甘く、麗しい声が背後で鳴った
「———ええ、ご命令は」
という彼女は背後に立ったまま、俺の命令を待っている
俺は星々が煌めき、汚れのない夜空を見上げたままこう告げる
「———一瞬で片付ける。誰にも見られるなファシーノ」
「———了解」
そう言って俺とファシーノは窓から勢いよく飛び降りた。
そして寮から1学年校舎まで疾風の如く駆け、標的を見つける。
「———だ、誰だ?!」
「———き、貴様達はっ!?」
凡そ4〜6名の標的が俺たち2人に気づいて剣を構えようとする。だが、標的が俺たちを視界に捉えるよりも早くに、俺たちは標的の目の前にまで迫っていた。
———————キィィンっ!!!
と俺とファシーノの刀が標的の剣を砕き、その勢いのまま首筋に狙いを定める。
———————ドスっドス
と首が宙を飛んで地面に打ち付けられる音が鳴る。そして1人、2人と流れる様に首を飛ばして、標的を全員始末した。残された体の方は首から大量に血が吹き出し、斬られたことも分からず、数秒間立っていたが膝から崩れ落ちて、地面を赤く染め上げる。
この時期に奇襲となると、俺とファシーノが斬ったこいつらはこないだ襲撃してきた偽物月下香だろう。偽物を名乗る以上、こちらも手加減も慈悲もない。
「———この俺の領域に奇襲など生きて帰れないと知れ」
そう死体に言葉をかけるが、死んでいるので返答はない。あるとすれば、血の匂いと返り血位だろう
「———夜は冷えるしもう、戻ろうかファシーノ」
「———ええ、そうしましょう」
と、言って戻ろうとした瞬間、近くから足音が聞こえてきたので咄嗟に近くの建物の屋上に飛ぶ。
そしてファシーノと屋上の物陰から、下を除くとそこに居たのは同級生のワルドスとカメリアだった。
「———一体‥‥‥‥誰がやったんだ?俺たちよりも早くに気づいたと言うのか?」
下ではワルドスが死体を見ながらありえないと言った表情でカメリアに話す。そんなカメリアは死体を調べながら地面に転がる頭部と体、砕かれた剣を見て、冷静に分析した。
「————血の温かさから遂先程ね。それにこの斬り方‥‥‥‥首がとんでもな体は首が斬られた事に気づかず数歩歩いて膝から崩れ落ちた。なんて繊細な太刀まるで芸術だわ‥‥‥とてつもない剣術の持ち主ね。この死体の剣すらも砕きながら首を持っていったのでしょう‥‥‥‥一体この学園にその様な芸当できる人物はいるのかしら」
————おお、なんて分析力だ。カメリアのその分析力と解析力は凄まじいな。100点満点じゃないか。しかし、ワルドスもカメリアもよく侵入者に気付いたものだ。
だてに極秘魔法部隊に所属していると言うことか
流石の勘の鋭さと、魔力探知は学生からかけ離れている。
「———そんな人物はこの学園にいないだろうあのヴァレンチーナさんやレベッカさんだったら必ず報告か現場に残り回収させる。このように放置することは絶対にない」
「———ええ、その通り。では一体誰がこの様な真似を‥‥‥‥私達以外に他の部隊が加勢でもしたというのかしら。いいえ、厳重な警備を掻い潜ってこの校舎まで辿り着いた時点でこの死体たちは相当の実力者の持ち主だったはず‥‥‥それを一瞬でなんて‥‥‥」
カメリアは驚いた様子で、死体のあちこちを触る。何度も確認しながら、話し手を口を動かしてようやく手を止めた
「———この期間から見てこの死体は月下香ね。数人を送り込んだは良いもののあっけなく他の者にやられるなんてね。それにやはりおかしい‥‥‥私の知る月下香と世界中で襲撃を繰り返している月下香が同じなんておかしいわ。単独‥‥‥‥いいえ、偽物の可能性も視野に入れておいた方がいいわワルドス」
「———ああ、そうなれば新たな勢力か“バラトロ”の仕業ってことになるな。そしてもしこの死体が偽物の月下香なら、この偽物を死体に変えた奴は‥‥‥‥」
「———もしかすると、この学園に月下香がいる可能性‥‥‥それも私たち以上のかなりの実力者になるわ。学生に紛れているのか、それとも学園に紛れているのか、学園都市に紛れているのかの三択ね。こないだの虚無の統括者と言い、この学園都市にまだいる可能性は高いわ」
————と下ではそのような会話がなされているが、カメリアさんの推理力といい‥‥‥すごすぎじゃありませんか?勘と言うかもう色々とすげーよ。参謀とかやった方がいいよ。
もう、ハラハラドキドキで寒い夜なのにあったまったわ!
「———死体は報告して回収してもらいしょう」
「———そうだな、それじゃあ俺たちは帰るとするか」
そう言ってワルドスとカメリアは走って帰っていった。屋上にいる俺とファシーノは周囲を警戒しながら下に降りる。
そして回収班が来る様なので俺たちも寮に素早く戻って、窓から部屋に入った。
————返り血を浴びた服を脱ぎ、頬の血をファシーノに吹いてもらって。俺はそのままベッドにダイブした。
「———ふう、これで寝られるな、夜は冷えるから風邪ひく。ファシーノも早く部屋に戻らないと風邪ひくぞ」
そうファシーノに言って俺は枕に頭を乗せて目を閉じる。しかし、真っ暗な部屋から一向にファシーノが出て行こうとしないので、目を開けると—————
そこにいたのは下着姿のファシーノだった
「———おい、何脱いでんの」
「‥‥‥ん〜寒いから温めて?」
————————バフ
と俺の上に覆い被さってきたファシーノ。黒い髪が俺の顔に垂れて、視線が交差する。目が暗闇に慣れてファシーノの大きな胸と柔らかい肌が視界と、感覚を刺激する。
そんな格好されたら流石に男としての俺も我慢できないんですけど‥‥‥‥
え、いいんですかファシーノさん?
「———そんな姿しているからだろう。ほら、布団かけて一緒に寝よう」
「———ふふ、ありがとう。心から愛しているわ————————チュッ」
と布団を掛けて俺の上に乗っていたファシーノが俺の口に柔らかい唇を押し付けた。
「———ん‥‥‥ぅん‥‥‥チュ‥‥‥‥ハアハア。肌同士が1番温かいわぁ」
そう言ってファシーノを温める事になってしまい、男ならここで逃げはせずに優しく相手をしよう。布団の中ということもあり、余計興奮して頭がトロけてしまいそうになるが、
それもまた気持ちよく、最高の夜になりそうだ。
「———寝かせないわよ“レオン“」
「———久しぶりに俺の名前を言ったなファシーノ。嬉しいよ」
———————チュンチュンチュン
そしてそのまま朝を迎えた2人だった
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