レオンの嘘と真実
———誰もいない放課後の教室。冬が訪れる季節の乾いた空気。
夕日を背に輝く2人の美しい女性。
そんな彼女達の視線は1人の男子学生に注がれていた
「———レオン君。貴方は一体何者ですか?」
とヴァレンチーナ先輩に突然迫られ、一瞬だが心臓が飛び跳ねた。
しかし、顔にも態度にも出さずに平静を装う。
「———普通の男子学生ですよ‥‥‥一体どうしたんですか?2人してそんな顔をして怖いですよハハハ」
「———レオンそう言うのはいい。お前は私達に何を隠しているのだ」
俺の言葉を怪しみ、苛立ちを見せるレベッカ先輩。腕を組み、猫目の眼孔が鋭く細くなる程に睨まれている。隣のヴァレンチーナ先輩も目を光らせて俺の体を隅々まで注視している始末‥‥‥さてどうしたものか‥‥‥
そして、一瞬の沈黙と静寂が俺と先輩達の間に訪れる。どちらも探りを入れようと思考を巡らせているのが、俺には分かる‥‥‥‥
そして俺は言葉を発しようとした時、レベッカ先輩の鋭い瞳が消えていった‥‥‥‥
「———レオン‥‥‥お前はいつだってそうだ。湖底監獄の時も‥‥‥ゼフの時も‥‥‥そして、対抗戦の時も‥‥‥」
俯き、悲しそうに話すレベッカ先輩は俺と出会ってからの事を懐かしく思うように語る。
その意図がどういったものか知らないが、レベッカ先輩のこんな複雑そうな顔を見るのは初めてだった———
「———お前は必ず私の“側”にいた。意識が途切れる糸のような瞬間でも私の瞳に必ず映っていた‥‥‥‥そして、地下道で見つけた時、お前の身体はもう2度と治らないと思ったっ!いくら回復魔法を唱えても、医療で直しても必ず傷跡も後遺症も残る程の傷を負った!なのにっ‥‥‥レオン!お前はどうして無傷でいる?!何事もなかったかのように私の病室を訪れ、見舞いまでして‥‥‥‥今の私は理解が追いつかないのだ。レオン、もう一度問おう‥‥‥‥お前は一体何者だ?!」
「‥‥‥‥」
講堂に流れる不気味な空気。無言の圧力が全身を襲う感覚。互いの思想が交差する糸。レベッカ先輩の強い瞳は、俺の瞳の奥底をのぞいているようだ。
きっとレベッカ先輩も‥‥‥そしてヴァレンチーナ先輩も俺の不気味さと異常さに疑惑を持っている。俺の答え次第でこの後の展開も道も変わってくるだろう‥‥‥‥
先輩達はとても誠実でとても正義が溢れ、国を世界を守る事のできる強さを持っている。
世界から集められ選ばれた学生の最上位に君臨する2人。
そんな彼女達に俺は信頼され、ここまできた‥‥‥‥
しかし、俺はそんな彼女達の質問に真実を語る事はない。
裏切ることになっても今はまだ、彼女達は何も知らない方がいい‥‥‥
俺の一部だけを知れば今はまだ十分だ‥‥‥‥
「———何者でもないですよ。この体に魔法が宿っている限り俺は死にません。幼い頃に森で魔獣達に何度も何度も何度も足や腕を奪われても痛みに耐えて、回復しました。この頃から異常だったのかもしれないですが、そのおかげで頭や心臓がなくならない限り、俺は回復するでしょう‥‥‥今は分かりませんが対魔法を唯一宿す副作用なのかもしれません‥‥‥それに誰もが使用できる下級魔法もろくに使えないのも副作用なのでしょうね」
俺は大体丸めて答えた。嘘と真実を交えながらの回答だが、果たして2人はこれで納得してくれるのだろうか‥‥‥‥彼女達の瞳は常に俺の瞳を射抜き、隙を探すように見ている‥‥‥‥
「———レオン。お前は我々軍にその対魔法、反魔法の実験に協力してくれている。体を隅々まで調べて‥‥‥まるで実験動物のようにな。私もかつて実験された身だが、今のお前は余りに見ていられない。それに加わりレオンをこれ以上疑いたくないのだ‥‥‥私の命令以外にも、上層部からの命令にも行動しているだろう‥‥‥なぜだレオン。なぜ、そうまでしてお前は戦う?何の為にその命を犠牲にしている」
‥‥‥‥何の為にか
この俺の命を犠牲にしてでも守るものは一つしかない
「———守る為‥‥‥‥はっきり言って世界や国や市民はどうでも良いです」
「———な?!」
「———ええ?!」
と俺の発言を聞いて驚く2人。口が開いて、キョトンとしている先輩達を見ると、何とも面白おかしくて、先程までの空気が一変する。
「俺にはそんな大層なことはできないので、俺は俺を信じる者を守る為に戦います。‥‥‥俺の居場所がこの世界からなくなったとしても隣にいてくれる者の為に俺は戦い、守ります。それが、俺の戦う理由です」
「そっそうか‥‥‥それがレオンお前の答えというわけだな」
「守る者の為に戦うですか‥‥‥‥あの人と同じ言葉を言うのですね」
2人は納得してくれたと言うよりも何か別のところを見ているように感じた。
俺に向けていた疑惑は本物だったが、事実彼女達はもっと別の地を見ていた。
2人は一体‥‥‥‥
「———レオン。もう良い1学年の校舎へ戻れ。わざわざ呼び出してすまなかったな。そして疑って悪かった。お前のその魔法も強さも自らが掴み取ったものだ‥‥‥なのに私はお前を疑ってしまった。“奴ら”と何か繋がりがあるのではと‥‥‥あの生命力を見ては疑うしかなかった‥‥‥許してくれ」
と深々と頭を下げるレベッカ先輩のその行為を見て俺は必死に止めようと動く
「レベッカ先輩が疑うのも無理はありません!この自分自身でさえ、この魔法が不気味だと理解しています。頭を上げてください‥‥‥」
「後輩であり、部下でもあるお前を私は疑ったのだ‥‥‥奴らの仲間ではないのかと‥‥‥内通者ではないのかと。もし、もしそうだった時の事を考えるだけで私は‥‥‥胸が張り裂けそうになる‥‥‥」
「レベッカ、あなた‥‥‥‥」
胸を強く握りしめるレベッカ先輩と心配そうに見つめるヴァレンチーナ先輩
そんな2人を見て俺はなんて声をかけたらいいかわからなかった‥‥‥
きっとここで声をかけられる男こそが魅力的で優しさに溢れ女性達から好かれるのだろう。
だが、今の俺にはその資格も声を掛ける権利も持ち合わせてはいない‥‥‥
こんな嘘に塗れている俺では‥‥‥‥
「————それでは失礼します」
そして2人から逃げるように教室を出ようとした時—————
「———待て、レオン!」
と不意にレベッカ先輩が俺を呼び止める。
どうしたのかと思い、後ろへ振り返ると真剣な面持ちで俺の顔を見ていた。
そして、若干頬を赤く染めているレベッカ先輩は口を開いてこう言う‥‥‥
「———お前の言う、守りたい者には“私も”入っているのか‥‥‥?」
「———!?」
その言葉を聞いて俺は心臓がまたも跳ね上がった。今度は違う意味で不意を突かれてしまい、久々に動揺が走る‥‥‥
守りたい者に入っているのか?—————と
一体‥‥‥どうしてレベッカ先輩はこうも俺を信用するのだ‥‥‥‥
貴方に気付かれないように俺は騙していると言うのに‥‥‥
なぜ‥‥‥貴方はそんな瞳ができる‥‥‥
なぜ、俺を‥‥‥‥‥
「———ええ、貴方も俺にとっては大切なお方ですから」
そして、俺は再び振り返り教室の扉を開けて廊下を歩いた。
最後に見えたレベッカ先輩の顔は何処か幸福に満ち溢れたように、とても女の子の表情をしていた。
あの厳しくクールで常に冷静な先輩があんな表情をすると、こちらも戸惑ってしまう。
「———あんな表情まで溢して‥‥‥俺は本当にクズだな」
いつか彼女を‥‥‥そして彼女以外の人達を裏切る時がくる。その時が来るまでは優しい男を演じよう。決して裏切らず、信頼され信用され、友情を分かち合えるレオンを演じよう
そして時が来たら、皆が俺を殺そうと必死になり、裏切っていたことが明るみになる。
恨まれ、妬まれ、呪われ、皆の心を弄んだと、利用したと、決して許せないと、
殺してやると‥‥‥‥俺を狙う。
なんて無様な最後だろう‥‥‥‥
だが、これでいい
最後は皆に世界に恨まれた方が、彼女達も決別しやすくなるだろう‥‥‥
下手に要らぬ感情を少しでも持つよりも‥‥‥‥
「———俺は誰も悲しませない世界を作ろうとしているのに、そこに至るまで誰かがその全ての悲しみを背負う。俺は全てから拒絶される‥‥‥‥なんて悲しいのだろう」
ボロっと出た俺の言葉。それは胸の内に秘めた本心に変わりない
きっと心の奥底で俺は幸せを求めている。
たった1人、こんな俺でもついて来てくれる人を心の何処かで望んでいる。
————ほんと嫌になっちゃうな
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