禁書の棚 ある魔法の真実

——時は遡り、湖底監獄奇襲事件当日。レオンが所属することになった極秘魔法部隊などが緊急要請を受け、バラトロの幹部二人に多くの命を奪われた夜。

湖底監獄に収容されていた囚人はバラトロの奇襲により城壁や内部を破壊した事で大勢の囚人が脱走してしまった。軍は市民の安全を守るため、総動員しほとんどの囚人を捕らえた。


しかし、たった一人だけ‥‥


———逃してしまった囚人がいた——


「———ははは‥‥何百年ぶりのシャバだぁ!」


その男は無数の死体や瓦礫の上に立つと空に浮かぶ月を見上げながら“盛大に吠えた。

男の衣服はボロボロのズボンのみで、肌を晒す上半身には深い傷痕が刻まれていた。

その胸に刻まれたバツ印の傷痕を指で撫でると男は再び夜の月に向かって語りかける。


「——遂に俺にも運が来やがったか!永く永い地獄の牢獄にぶち込みやがって‥‥許さねえぞっ‥‥俺の大切な物を奪った怨みはどれほどの時が経とうと消えることはない。偽りの王共にその報いを受けさせてやる‥‥っ!」


そう言うと男はその傷だらけの拳に力を込めて地面を勢いよく殴った。殴られた地面には大きなクレーターができ上がり、その男の力を象徴していた。


「———さあ、復讐の時だっ」


背中に生える“大きな翼を広げ、男は夜の空へと羽ばたく。灰色に汚れたその大きな翼は、ある白く美しい翼を思い起こさせる。男が羽ばたく夜の空をこの日見上げていた者達は大きな鳥が飛んだと目に焼き付けていた。



◊◊◊



「——ここが禁書の棚ですか。どれ程の時をここで眠っていたのでしょう‥‥」


ここは天族国の中心に位置する空中都市エーテルの王城。そして彼女が現在いる空間は世界のあらゆる事が記載されている大書庫の一室‥‥禁書の棚。この禁書の棚はある仕掛けが施されており、その仕掛けを解かなければ一生開く事のない禁断の一室。


代々、王に君臨した者だけが知ることの出来る世界の歴史。しかし、この禁書の棚を開けば一代の王はもう二度と開く事はできない。一度開けば数日で閉まり、次に開けるのは次の王のみとなる。この禁書の棚に触れた今代の王‥‥天族長ミカエルはある事について調べていた。


そのある事とは‥‥



———私は手を伸ばし、ある一冊の本を棚から取り出す。黄金で包まれている本を捲りながらある単語を探すこと数分。私の知りたかった内容がこの本に記されていました。


「どの属性にも位置付かず、この世界に突如現れては突然消え去り忘れられる程の魔法。誰も扱わず、誰も扱う事の出来ぬ最弱の魔法‥‥?一体どう言うことでしょうか‥‥」


私は混乱し次々にページを捲るが、それ以上の情報は出て来ません。あの魔法についてこの禁書の棚なら何かわかると思ったのですが‥‥ここでも記載されていないとなるともう手の施しようがありません‥‥。私はその場で地面に座り、方の力を抜く。


「はあ、一体どう対処すれば良いのでしょうか‥‥先日の湖底監獄の件もありますし‥‥世界は破滅へと向かってしまうのでしょうか———神よ、我らをお救い下さい‥‥」


最後に神に祈りを捧げて目を開くと、目の前では信じられない光景が映し出されました。

なんと一冊の黄金の本が光を放ち、私の前にやってきたのです。


「——!?これを読めというのですか?」


黄金に光る一冊の本を手に取り、最初のページを捲るとそこには私の思う疑問の全てが映し出されていました。


「な、なんて事でしょう?!この本は私の頭の中を読んでいるのですか?!これが禁書の棚‥‥という事ですか」


そして私の知りたかった疑問の数々が解き明かされて行くうちに、ページも終盤へと差し掛かる。


「ここからが真の目的‥‥これで全てが解き明かせるっ」


本を持つ手が震え出しながらも次の1ページをゆっくりと捲る。私はその一文一文を声に出して読み上げる。その内容がたとえ世界の真実だったとしても‥‥


「それを扱いし者はその罪を背負い、死してなおも冥府へと続く。かつて“それを扱いし者は死に絶え、後継者へと‥‥次の時代へと”それは受け継がれていく。そして幾千の時を越え、灯火は消えずその罪を全て背負い、世界に抗う者が現れる。世界で最弱にして最強‥‥それは神に近づいた者の罪を象徴する。全てを無に帰し、世界を造り替える。魔法と呼ぶには余りにも愚かで魔法の枠組みから逸脱した“それを我らはこう呼ぶ——“虚無”——と」


——罪‥‥それは一体どのような罪なのか私には理解できませんが、想像も付かない程の様々な痛みが襲うのでしょうか‥‥。それに魔法とは呼ぶにも行き過ぎた代物ですか‥‥2年前に見たあの魔法がきっとそうなのでしょう‥‥厄災の魔獣を一振りで滅したあの魔法が‥‥罪の象徴‥‥


何故受け継がれていき、世界に抗うのでしょうか‥‥どうしてそうするのでしょうか?幾千の時が流れようと受け継がれた者はそのような事をなさるのでしょうか? 一体何の為にそのような事を。


考えてもこの文章だけでは理解できそうにありません。次の一文に視線を移すと最後の一文にはこう記されていました。


「——最後に、この黄金の本を見つけ、呼んだのならば“それはその時代に現れているだろう。”それの後継者が虚勢ならばその者は死に絶え、次の時代へと渡る。しかし、真実ならばその世界は終焉を迎えるであろう。その終焉がその世界にとって正しいのならば真実の歴史を知る事になるだろう」


と読み終えると黄金の本は光を失い、文字が消え白紙のページへと変わっていきました。


「真実の歴史を知る‥‥」


この一文が頭から離れず、悩みます。この言葉にどのような意味が隠されているのか、はたまたそのままの意味なのか今の私では理解できません。しかし、何かあるはず‥‥


「真実を知りたいのならば行動しろという事ですね‥‥この本は世界の秘密も歴史も全て知っている。ならば“上の事も知っているはず‥‥しかし、やはり隠されていますね」


私はそっと本を棚に戻して他の本を全てとるが‥‥


「やはり全て白紙になっていますか‥‥禁書の棚」


再度本を戻し、禁書の棚を背に歩く。その一室から出ると扉は勝手に閉まり、蜃気楼のように消えていった。

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