学園序列NO5 レベッカ先輩と模擬演習

「———では、今日の講義はこれで終了です。放課後はクラブへ見学に向かっても良し、寮に戻っても良し、皆さんのお好きな様に。それではまた来週お会いしましょう!」


「「「はーい!!」」」


ウルティア先生の講義も終わり、明日からは週末の休日。今週の初めはクラブ勧誘に、久しぶりのリリーとの再会と濃い一週間だった。


「ねえどこ行く〜?」


「ええ〜私は剣術をもっと磨きたいから“あの有名な流派”に見学行こうか迷ってる〜」


「私は火魔法研究会に見学行く!」


と、講義が終わったAクラスの女子達は放課後のクラブ見学を楽しみにしている様子。皆それぞれの考えを持って見学しに行く事は大変向上心があってよろしい‥‥



なんて上から目線なの!っと思った事だろう?

俺だって見学に行きたいクラブだってあるのだが‥‥‥



「ファシーノは何処へ行くんだ?」


いつも隣で講義を受けているファシーノに声をかけたが、俺の声はある3人に掻き消されてしまうのだった‥‥しかもその3人と言うのが‥‥‥



「お姉さま!何処へ見学に向かうのですか?!」


「姉御ぉ!面白そうなクラブがありました!」


「いいえ姉様!こっちのクラブの方が面白そうですよ!?」



俺の声を遮り、ファシーノに詰め寄る3人の彼女達。その彼女達とは、ガイ=ヴァンピールと決闘した当日にファシーノと対峙した魔族の女子達だ。あの日、ファシーノが一体何をしたのか詳細までは分からないが彼女達の態度といい、見ていると随分と慕われてしまった様だな。ああ、何をしたのかとっても興味があるぞ?何かもう別人じゃないか‥‥



「———そうね。私少し興味があるクラブがあるの。そこへ行ってみましょ?」


「「「は、はい!!」」」


ま、まるで飼い慣らされた獣を束ねる主人だな‥‥。ファシーノを先頭に背後に並んで歩く魔族の女子達はさながら圧巻だ。威圧的なのに4人とも凄まじく綺麗な為、自然に目が追ってしまう‥‥‥


そんな、教室を出ていくファシーノ達を眺めていたらレオナルド君が話しかけて来た


「なあ、レオン。“また”来ているぞ」


「またか‥‥今週毎日つけ回されているな」



俺はそう言って席を立ち、教室の入口の方へと歩いていく。ここ最近、と言うよりも今週毎日、俺はストーカーされている。それもあろう事か目を付けられると面倒なお方に‥‥‥


そんなお方は教室の入り口付近で壁に背もたれして、腕を組みながら此方を睨んできているのだ。その特徴的な“猫目で睨まれると背筋が凍りそうな程、寒気が押し寄せる。


少し緊張しながらもその“お方の正面にまで歩くと、俺はそのお方に道を遮られた。




「———何処へ行くと言うんだ?」


「は、はは何処にも行きませんよ。“レベッカ先輩”」



ここ一週間俺のことをストーカーしていたお方とは、黒い毛並みの猫耳、尻尾を生やす猫獣族の彼女レベッカ先輩だ。初めて会ったのは休日明けの放課後でクラブ勧誘が解禁された日。俺を生徒会に勧誘してきた女性がレベッカ先輩だった。それから毎日こうして放課後は出待ちされているのだが‥‥


「そうか。なら、少し付き合え」


顎でクイッとしたレベッカ先輩は場所を伝えずに歩き出す。俺はその後ろを従者の様について行くことになったのだった‥‥。またいつものように周囲の視線はとても厳しいものだった事はこのレベッカ先輩は知る由もない‥‥






◊◊◊







———そして周囲の視線に晒されながらついた場所は2年生専用演習場だ。一体どうしてこの様な場所に来たのか大体は察しがつく。あまり考えたくも無いが一応レベッカ先輩に聞いてみよう。


「ここへ連れてきたという事は今から決闘でも始める気ですか?レベッカ先輩」


俺は未だ歩いているレベッカ先輩に向かって問いかける。しかし、レベッカ先輩は歩くだけで何も答えようとはしなかった。そのままの流れで演習場の中央まで歩くと、背中を見せていたレベッカ先輩は此方に振り向いてようやく口を開いてくれた。


「少し、手合わせ願おうレオン。それを見て判断する———」


そして何処から取り出したのか、模擬用の刀剣一本を俺に投げた。投げられた刀剣は空中で掴み取るとレベッカ先輩もいつの間にか刀剣を握っていた。



「色々此方で調べさせてもらった。入学試験での異形や、決闘中での魔法の事も。初級魔法ですら使用できないお前が何故ここまで評価を受けているのか。その“剣技に隠されているのか知りたいのだっ!—————」





「————っ!?」





言葉を交わしている最中、レベッカ先輩は何の躊躇いもなく刀剣を振り下ろしてきた。一瞬で俺との間合いを詰めてきたレベッカ先輩の速さは尋常では無い。今まで剣を交えてきた人達の中では、上から数えた方が早いだろう。


それもその筈このレベッカ先輩は生徒会のNO5なのだから。この学園で五番目の実力者にしてヴァレンティーナ先輩と同じく2年生。そして同じSクラス。レベッカ先輩も同様にアザレア達と同じく、毎日この学園都市での犯罪、暴行など俺たちが見えないところで護ってくれている一人。


そんな彼女がどうして俺なんかを生徒会に引き入れたいのか疑問だ。



「———どうして俺を生徒会に誘うんです?!」



俺はレベッカ先輩の凄まじい猛攻を間一髪でいなしながら問い掛ける。するとレベッカ先輩は攻撃を中断して答えてくれた。



「少々説明不足な私も悪い。生徒会ではなく、『私の下に来ないか?』という意味だ。それを今決める。拒否権はないと思えっ————」


「え、ちょっ————!」





ギィィィイイン!!







模擬用の刀剣が重なり、火花をちらつかせる。レベッカ先輩の速すぎる剣技は俺を一瞬怯ませた。


「何をしている?攻撃してこい!」


防戦一方だった俺を見兼ねてレベッカ先輩は声を張りあげる。そして先ほどよりも速く、重い太刀筋が次々に振り下ろさせる。流石にこのままでは俺が押し負けるだろう。そう思わせる程彼女の剣技は魅了されるものだった。


そんなレベッカ先輩に対してこれ以上の防御は失礼に値する。俺も攻撃へと転じよう‥‥



「行きますよレベッカ先輩」



そして防戦一方だった俺は徐々に攻撃も加え始める。レベッカ先輩の左肩から斬り込み、足にかけて剣捌きを上げていく。演習場に響き渡る金属の音と、空気を斬り裂く音、そして二人の刀剣が交わる衝撃波。


そして二人の研ぎ澄まされた体捌き、稲妻のような剣捌きは常人では決して辿り着くことのできない領域だった。



「お前は一体どこの流派だ?その剣筋は今まで見たこともないっ」



互いに刀剣を交えながら、決して他人では見る事のできない速さで斬りつけながらレベッカ先輩は問いかけてくる。その口調と瞳は先程までよりも一層、強みが増していた。


「何処の流派にも入っていないですよっ!」


「そうか———」



俺が答えるとレベッカ先輩は急に攻撃をやめて、距離を取った。


「しかし、お前のその剣は実に“普通だ。何も色がなく、何も突出している部分もない。普通だ。それなのにどうしてお前は私の剣筋が視える?」





———俺は彼女の、このレベッカ先輩の剣筋に覚えがある。あれは凡そ5年前に初めて敗北を味わった男の剣だ。あいつとレベッカ先輩の剣はとても似ている。





確かその流派の名は—————






「いいや、お前はこの剣を知っている。初めてだ、この剣を受けて擦りもしない奴は‥‥この世界最強の流派、“桜月流継承者である私の剣をお前は何処で知った?この世界に私含め数人しかいない世界最強の流派を何処で‥‥‥———————っ?!」


突然レベッカ先輩は会話を途中で詰まらせ、俺に向けていた警戒心と剣先をおろす。


一体どうしたのかと思い、レベッカ先輩の元へと歩よる。


「一体どうしたんですか?」


俺より少し身長の低いレベッカ先輩の顔を見ながら問いかけると、彼女は勢いよく見上げてこう話す。


「いつもの事だ。私達の出番がきたと言うわけだ」


そういうレベッカ先輩の表情はとても険しく、とても悲しそうだった。


「いいだろうレオン。お前を認めよう。そして私の下に尽きたければ来い」


「拒否権はないんじゃなかったですか?」


「ああ、そうだ。そして今からお前は、私の部下として来い」


そう言ってレベッカ先輩は駆け足で演習場を出て行った。

そして俺は本当について行くべきか悩む。きっとレベッカ先輩が言いたいことは、この後の軍事機密を目撃すれば俺はもう一般学生ではなくなるからだろう。


まあ、レベッカ先輩は拒否権がないと言っていたけど‥‥いいや行くべきだろう。これは願っても見ないチャンスと言うべきか。何か軍の情報が掴めれば儲けだ。


それに何故、Aクラスごときの俺をレベッカ先輩は指名したのか謎のままだ。そこをしっかりと教えてもらおうか‥‥





「‥‥それに”桜月流”か。これも運命とやらなのか?」

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