入学試験 I


———四日後、時刻10時を回る



現在、俺とファシーノは住居地区から学園地区に向かって歩いている途中


四日前に入学試験の説明を受けた俺たちはわざわざ組織の本部に帰還するのは面倒と思い、住居地区に向かって宿を取った。話し合った末に一部屋の同室を取る事になったが‥‥‥間違いを起こしてはいないぞ!


そして、この四日間はファシーノと一緒に学園都市を観光した。湖に浮く島という観光フレーズは大いに期待できるものだった

都市の外側に行けば、城壁も何もない晴れたところがあり海のように砂地が一面に輝く。そして先が見えないほどの湖が視界を覆う。湖版ビーチが存在し大勢の人で賑わっていた

商業地区では衣服、防具、魔道具、などの店舗だけで数百種類。高級レストランに食べ歩き店舗などあり過ぎて全て回ることができなかったな‥‥‥



次回、観光するときは食べ歩き店舗を全て回りきるつもりだ!



———さてそろそろ学園の正門が見えてきた。学園地区の外にいるというのに中からは大きな歓声が聞こえてくる。そんな学園地区の入り口である正門の前に佇む護衛。そのイカツイ護衛に整理券を見せ正門を開けてもらいさっそく中に入る



「確か、俺たちは第3演習場だったよな?」


「ええ、そうよ。第3だから〜‥‥‥右ね!」


俺の腕を強引に引っ張り道案内してくれるファシーノ。なんだかいつもよりも積極的になっているのは気のせいだろうか? 


ファシーノに引っ張られて着いた第3演習場は見たことのある造形だった

そう、これはコルッセオ闘技場だ


エルフ大国にも獣族国にも全く同じ形が建設されている。どこの国もこの丸い形をメインにしているということか‥‥‥確かにこの構造以上の設計、見栄え、観客から闘技台の見やすさ、どこを探しても見つからないだろう


何箇所も入り口があり、どこを通っても闘技台へと続いている。通路を通り晴れた先には大勢の人、人、人と闘技台上に乗らない程の受験者で一面を埋め尽くされていた


数にして数千人。そんな数千人が一人また一人と騒めきだせばそれはやがて騒音になる———



「———ええ〜皆様お静かにお願い致します。これより試験を実施致しますが整理券をご一緒にお持ち頂いてこちらの魔力測定器にお並びください。それでは9000番からお願い致します」


とても美人な受付嬢が声を闘技場全体に拡張し終えると、ゾロゾロと受験者が魔力測定器という魔道具に並び出した。魔力測定器というものは初めて聞くが、大方自身の魔力値を計るためだろう。そんな魔力測定器の傍には数十人の試験官と思わしき者達が受験者に睨みを飛ばしている事から一人一人を見定めているに違いない



———そして試験開始から数時間後———



「———ん〜次‥‥2890。次‥‥3384。次‥‥2500。次‥‥3763。次‥‥3333———はぁ〜どれもぼちぼちね」


受験者の魔力値を一人一人書面に映し取っている受付嬢は落胆していた。落胆する原因は恐らく魔力値の低さ。今年の受験者は平均を取っても魔力値が低く、その他の試験官でさえもガッカリしている



「今年は不作なのかしらね‥‥‥毎年なら5000や6000代がいたんだけど‥‥」


そんな中遂に俺の番号が呼ばれた。闘技場台の中心に魔力測定器が置かれているので、歩いていき観察すると丸い水晶のような見た目をしていた。如何やらこの水晶に手を翳して測定をするそうだ。ファシーノからは本気を出すなと念を押されているので勿論加減する‥‥‥!


「すみません。一つお聞きしたい事があるのですが?」


「はい?答えられる範囲なら構いませんよ」


「ありがとうございます。ではこの魔力測定器ですが、上限はあるのですか?」


俺は受付嬢に一つ気になっていたことを質問する。それは、魔力測定器はどの程度まで測れるのかという点だ。先程から2000、3000と言っていた事から少なくとも上限はあるのだと予想できる。しかし俺は普通を出したいので敢えて質問させて貰った


数十人の試験官に睨まれながらも質問してきた俺に一瞬驚きはしたが、受付嬢は清く返事をしてくれた


「上限は10000よ。まあ、10000を超える種族は今までいなかったわね。事実上の最高値は9000代よ。それ以上は未だ誰も到達していないわ。私からすれば9000代も人知を越えた領域‥‥‥化け物ね」


「そうですか。ありがとうございます。ではさっそく‥‥‥」


受付嬢に上限を聞いたところで俺は水晶に手を翳す


その瞬間、水晶が輝き出し闘技場内の辺り一面を光が包み込んだ———


「———え?キャッ!!」


「「「な、なんだ!?」」」


水晶が輝き出し驚愕する受付嬢とその傍に佇む試験官までもが光に目をやられ腰を抜かす。他の受験者までもが呆気に取られ辺りは静まり返ってしまった


光がだんだん収束すると受付嬢はすぐさま水晶にその焦った顔を近づけ‥‥‥


「うぅ‥‥一体‥‥水晶が輝くなんて初めて見たわよ‥‥‥貴方はどれ程の魔力を持っているというの?!」


しかし、その水晶に浮かび上がった数字は予想を大いに裏切るものだった



「———”1000”‥‥え?如何いう事?水晶の故障?でも、あの光は一体‥‥?」


「如何やら水晶の故障かもしれませんね。先程の光は故障の予兆だったのかもしれないので新しい物に交換した方がいいと思いますよ。ふむふむ‥‥‥”1000”ですか。自分もまだまだですね」



ふふふ、俺の迫真の演技には気づかないだろう。なんせこの数字は俺が意図的に操ったのだからな!こっちだって驚いているんだ。手を翳した瞬間に光のは反則だろう。急いで跳ね上がっていく数値を1000にまで落としたのだから偉いぞ俺!



「なんだよ。故障かよ!ビビらせやがって」


「全く”1000”とか雑魚にも程があるだろう!ミジンコですか〜」


「あいつ確実に落ちたな!”1000”では絶望するわ」


「さっさと帰んなガキ!料理人でもなってな!」



とまあ、そんな期待はずれの俺には受験者から罵声の嵐が飛んでくる

こいつらにいちいち反応しては面倒くさいからな。直ぐに闘技台を降りよう


「———あら、魔力数値”1000”のレオンじゃない。クスクス」


「ファシーノ‥‥‥結構難しいぞ」


「それでも1000はやりすぎよ?バランスという言葉を知らないの?あら、次は私ね。行ってくるわ」


ファシーノに揶揄われた俺は渋々反省する。闘技台に行ってしまったファシーノだが、男達の恨みの篭った視線は俺に注がれていた。一方で色付いた視線を向ける男はファシーノへと注がれていた


俺は察する


これまたあのパターンじゃない?

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