女を賭けた決闘を申し込まれる
「———そうか。そのようなことが‥‥‥まさか学生が被害を被るとは、一層警戒を強めるべきだな」
———ここは人族国首都チリエージョの人族軍本部。そのある一室にて軍の上層部が集まり、課外授業で学生達が襲われたという報告を挙げていた。
そして内容を聞いていた人族軍総司令パエーゼ=プレチーゾはその美しい顔を歪めていた。共に同じ席に着いている上層部の軍人達はパエーゼ=プレチーゾの圧に圧倒され、顔をしかめる事しかできずにいた。
上層部は彼女の真の恐ろしさを身に沁みている。美しい顔とは裏腹に冷酷で目的の為ならば手段を選ばず、国に仇なす者を確実に殲滅する器。
そしてたった一人で上層部を踏み躙る圧倒的な力。彼ら上層部もまたパエーゼ・プレチーゾと戦い、敗北している。だからこそ彼らは恐れていた。怒りの矛先がどこへ向かうのかと‥‥
「まあまあ、総司令。皆さんを威圧しても何も得られませんよ」
緊迫した空気の中、唯一一声をあげたエミリア・ローマ。S Sランクにして最高幹部でもある彼女はこの状況を見兼ねて同性であるパエーゼ・プレチーゾを和ませる。
「それに‥‥‥数年前にあのキメラを討伐したと言う
「な、何と?!あの娘がそこまでの成長を?!」
「学園の‥‥‥同年代の中では彼女が一歩先を行かれてるな」
「ああ、しかも今年の新入生は他国の強者共が勢揃い、さらには王族が何人もいる。人族の未来を担う人材だな。これは我らもうかうかしていては足元を掬われますな」
先日の事件について報告するエミリア・ローマ。その報告を聞いてた萎縮しきった上層部は急にその話題へと乗り掛かる。しかし、上層部の驚きは本物であり過剰な反応では無い。
それを裏返すのは総司令の反応を見れば明らかだった。
「まさか‥‥‥それ程までに成長を遂げているとは。私と張る逸材だ。今すぐにでも欲しい人材だな」
この発言に上層部はひどく驚いていた。あの冷酷なパエーゼ・プレチーゾが認め、その才能を買うなど信じられないという表情を作る。一室に響めきが生じると、パエーゼ・プレチーゾは一瞬で全員を睨む。睨まれた上層部は悶える心臓を鷲掴み、弱者は気絶していった。
「弱者は要らん————それで、王族の娘達を人質にした例の人物。奴で間違いないのかエミリア」
場を掌握したパエーゼ・プレチーゾはエミリア・ローマを睨み、ある内容を確認する。
「はい。”虚無の統括者”で間違い無いかと。それに何十名もの教師が目撃し、対象は自ら名乗ったそうです。しかし、不可解な点が一つ‥‥‥周辺を調査中に大量の死体が発見され、どれも首が綺麗にはねられていたそうです。それに王族の姫達に何があったのか問いただしても黙秘を続けるばかり‥‥‥また大量の死体を彼女達は認知しておらず、”虚無の統括者”とは別の勢力の可能性が浮上しました」
「何だとっ‥‥‥」
確認の筈がエミリアの報告を聞いていたパエーゼ=プレチーゾの眉間に皺を寄せる。
「この報告は我々だけではなく他国も知っている筈だ。どう対処するのかは他国のあいつらと決議しよう。それともう一つ‥‥‥‥アザレアともう五人の若者達の報告では学園は楽しいという事だ。私も学園生活をもっと楽しむべきだったな‥‥‥」
「「「‥‥‥え」」」
誰もが予想だにしない発言をしたパエーゼ・プレチーゾ。上層部は口を開けたまま石のように固まり、エミリア・ローマは顔を顰めて隠れて腹を抱えて笑っていた。その反応を見たパエーゼ・プレチーゾは自分の発言を後になり思い出すと屈辱した表情を作る。上層部の彼らに非はなくこれは彼女の落ち度である。
「貴様らっ‥‥覚悟はいいな?」
◊◊◊
「———さあ!それでは皆さ〜ん、あの的目掛けて魔法を撃っちゃってくださ〜い!自分の好きな魔法で構わないのでさあさあ!あ、あと今回の記録は成績に関係ありませ〜ん‥‥‥ニヤッ」
「先生〜それ絶対関係あるじゃ〜ん!」
———日々の日常が戻り、ただいま絶賛魔法の実技授業中だ。今回Aクラスの俺達は1学年練習場に移動している。あの遠くにある的を撃ち抜けという至極簡単な授業。周りの同級生達は次々に魔法を放ち、遠くの的に命中している。
そしてここはAクラス。いわば一年のナンバー2のレベルを誇るエリートクラスでもある。そんなエリートクラスならば全属性の初級魔法は使えて当然。その中でも一つの属性を極限まで極めた強者達が在籍するそれがAクラス。
貴族も平民も関係なく全ては実力によって序列が決定する。
初級魔法を使えない奴なんているわけもない。全員がそう思っていた‥‥‥‥
「おいおい!レオンお前冗談キツいぜ!なんで初級魔法ですら真面に使えないんだ?!」
「レオナルドを二度も倒したってのに、魔法の方は雑魚にも程があるだろう?!」
「期待して損したぜ‥‥‥ん?ってことはそれに負けたレオナルドって‥‥‥‥プッ」
———そう、俺は初級魔法ですら簡単に扱えなかった。魔法を発動し、的目掛けて放っても途中で消えてしまうあまりにも貧弱な魔法。何故、初級魔法すら真面に扱えないのかこの数年で理解していた事がある。
俺の魔力が原因と見て間違いない。この魔法が余りにも異質で強大な為、他の属性に魔力が集中出来ない。いいや、どんな属性よりも遥かに凌駕し、この魔法に全てを持っていかれている。どの属性にも属さない魔力、そして魔法。
俺はこの魔法を無属性魔法と呼んでいる。
先天的な代物なのか、後天的な代物なのか、はたまた呪いなのか‥‥あの精霊女帝であるヴァルネラに聞いてみても分からないと言われ、全てを解明できてはいない。
まあ、俺を期待していたのは構わないが同級生達は魔法を見た瞬間に拍子抜けして嘲笑っていたな。こうなることは大体予想はしていたが実際にされると不愉快だ。それに元取り巻き達でさえレオナルドを馬鹿にしている。
こいつとは入学の際に色々あったが今では友達だ。
俺は馬鹿にされようが嫌われようが構わない。だが、友を馬鹿にしている奴らを俺は許す事ができない。
「おい、レオナルドを馬鹿にするとはいい度胸だな。ならあれか、お前らはレオナルドの最上級魔法と張り合えるってことか?そうだよな?」
「「「クッ‥‥」」」
彼らのあの反応を見れば明らか、口では何とでも他人を侮辱できるがいざ行動を起こさせれば何も言い返せない。何もできない。弱い奴ほど群がり、僻み、優越感を得る。滑稽もいいとこだ‥‥‥
「———おいおい、それは人族同士の戦闘だったからだろう?俺たち魔族と一緒するんじゃねーよ?」
と突然俺たちの話に割り込んできた魔族の男がいた。
「最近、Sクラスの連中と仲良さげに話してるじゃねーか、ああ?お前みたいな魔法を使えず剣技だけが取り柄の雑魚が身の程を弁えろ。それにそこにいるファシーノちゃんよ〜?そんな初級魔法もろくに使えないやつより俺らといた方が楽しいぜえ?あんなとんでもねー魔力があるってのに何でそんな雑魚と一緒にいるんだあ?あ、そういう関係〜」
こいつ‥‥‥口だけの奴らとは違うな。纏う雰囲気も魔力も他の奴等に比べて頭一つ抜いている。それに紅髪か‥‥‥まるでヴィーナスと同じ色だな。
まあ、こんな奴相手にした所で面倒だ。早々に離れよう‥‥‥‥
—————グイッ!?
袖を誰かに掴まれ、何故か俺の背中から殺気がビシビシと伝わってくる。
「貴方、随分とお喋りなのね、鳥かしら?この人を悪く言う人には躾が必要みたいね?」
あああ、ファシーノさん‥‥‥お相手の口角がピクピクしています。
「はっはっは!いいぜえ、気の強い女は壊しがいがある‥‥‥Aクラスのトップであるファシーノちゃんよぉ。俺らと試合してくれよお?俺らが負ければ退学でも何でもいう事聞くし、勝てば俺らがファシーノちゃんを好きにできる。どうだ?いい条件じゃないか?」
この下衆野郎‥‥‥下心丸出しで隠す気もないな。俺らに絡んできた本当の理由はファシーノ目当てと言うわけか‥‥‥
「さあ、それを決めるのは私ではなくて‥‥‥彼よ」
と言って俺を突き出すファシーノ。あれ、俺が決めていい流れ何ですね。
「おいおい、雑魚。ひよってんなよ?前々からお前が気に食わねーんだよ‥‥‥Sランク魔獣を討伐したアザレアとか言う女も、俺ならあんな無様な姿を晒さずに片付けた。調子に乗りやがって、何なら今度あいつに決闘を申し込んで泣いて謝る姿でも見てえなあ?俺の言うことを何でも聞くペットにしてさあ?どうせ毎日暇してんだろう?最高だなあ、他人の女を奪う快感はたまんねぇ‥‥‥‥ぜっ!?」
平然と笑い、余裕の表情が消える。そして練習場を覆う程の殺気を感じ取った魔族の男。呼吸は乱れ、血の気が引き、後ずさる。腰を抜かし、地面に倒れていく同級生達を見渡した魔族の男はこれ程の殺気を放つ男を睨み返す。
「———お前は俺を怒らせた。いいだろう、やってやる。こっちは俺とファシーノだけでいい、お前らは全員でかかってこい?いいな?逃げるなよ?」
「ハハ、いいねぇ‥‥‥その殺気‥‥‥ゾクゾクするぜぇ。その案乗ったぜぇ?二人で後悔するんじゃねーぞ?泣いて土下座しようがボコボコにしてやるっ‥‥!一週間後、学園地区森林演習場だ。それまで精々ファシーノちゃんと仲良くするんだなあ?ハッハッハッハッハ!!」
日と場所を言い残し、授業を後にする魔族の男。その後ろには魔族以外の同級生も連なり、俺たちを敵視していた。
「おい、レオン。お前なら大丈夫だと思うが‥‥‥あいつ絶対何か企んでいる」
と、そこへレオナルド君が合間を見計らって声を掛けてきた。どうやら一応は心配してくれるらしい。しかし、レオナルド君の言ってることも馬鹿にできない。絶対に何か仕組んでくるだろう。
それに‥‥‥
「ふふ、楽しくなってきたわね?貴方に喧嘩を売る、あの男。“私達”が後で遊んであげようかしら‥‥‥」
笑っているのにとても怖いファシーノさん。相当頭にきていますねこれは。あのファシーノがここまで怒るのも珍しい‥‥‥まあ、十中八九アザレアのことだろう。俺も相当‥‥‥キテいる。
無様な姿を晒した‥‥‥どうせ暇‥‥‥か
———あの魔族の男は何も分かっていない。あの現場にいて一体何を思ってその発言ができるんだ?なぜ、暇だと断言できる?
あいつらは毎日、あんなクズの為にもこの学園を影から守っている。それを知らずにあの魔族はっ‥‥
「一週間後だ、ファシーノ。あいつらに格の違いという物を見せてやれ」
そう言って俺は時間まで授業を続けた
———そんな初級魔法もろくに使えないレオンを見ていたファシーノは誰にも聞こえない陰で密かに想いを巡らせていた。
「———あの魔法のせいで初級魔法ですら扱えない。けれど、私は全ての属性を扱えてしまう‥‥‥きっと私たちのせい。彼も分かっている‥‥‥それでも私たちを責めないのは彼には必要ないから。初級魔法も、そして最上級魔法も使えない代わりに彼は、それら全てを凌駕する魔法の持ち主だもの。世界一の男‥‥‥私の愛する世界でただ一人の男。私自信を貶すのは許せる。けれど、彼を侮辱し、嘲笑う者共を私は‥‥‥”私達”は決して許さないっ」
◊◊◊
———そして日はあっという間に過ぎ去り、一週間後の森林演習場。
噂はたちまち広まり、一年生のほぼ全員が観衆として見学し、教師陣もこの決闘には異議を唱えず、学生の判断に委ねていた。
また、この決闘を聞きつけたSクラスのアザレア達も観衆に混ざる。
そしてこの決闘ではレオンの秘めた‥‥‥ほんの少しの実力をアザレア達に見せつけるのだった。
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