三章 闇に蔓延る者達
いつもの日常‥‥?
「———もう朝か。そろそろ準備するかな」
現在時刻は朝8時を回る。俺はいつものように制服に着替えて部屋を後にする。
寮から学園校舎までの登校路を欠伸をしながら歩く。周りには同級生や上級生が楽しそうに歩いていた
そんな中、木々が並んでいる端に綺麗な女性が寄りかかっていた。
周りの男子達は声を掛けるのを躊躇い、遠くから眺めている事しかできず彼女に見惚れていた。俺はその男子たちの間をすり抜けて自然と彼女の元まで歩み寄り、声を掛けた。
「誰を待っている?」
この俺の言葉を聞いた彼女は頬を赤ると、プイッと顔を避けられ歩き出してしまった。
「冗談だって、悪かったよファシーノ!今日も一段と可愛いよ」
「か‥‥!可愛い‥‥なんてっ‥‥」
そう待っていたのはこの超絶美少女のファシーノである。冗談を言ってしまったが結果オーライだな!
ふっふっふ、俺以外の男子共が可哀想で仕方がないわ!
いつもクールで大人びているあのファシーノがこんな緩んだ表情と仕草を俺といる時だけ見せてくれるなんて‥‥‥そう!俺といる時だけな!
ああ、なんて可愛らしいのだ‥‥‥並の男ではこの数秒で5回はあの世行きだ。
と、俺を見つめる男子共の視線が突き刺さるな。そんなに悔しがっているのなら玉砕覚悟で声を掛ければいいものを‥‥‥
あと、その他の視線はファシーノだな。とうの本人が幸福に満ち溢れて気にしていないのか、ファシーノを見つめる視線には妬みや憎悪が含まれている。ファシーノの才色兼備な可愛らしさと大きな胸、引き締まった腰を見ては同性の女子達も嫉妬もするだろう。
俺が同性なら確実に嫉妬している‥‥‥
「それとファシーノ。奴らの動きはどうだ?」
周りの視線が突き刺さる中、俺は表情を引き締めファシーノに問いかける。
本人も俺の雰囲気を察し、緩んでいた表情をいつものクール美女に変えて答えてくれた。
「———はい。デリカートに情報を探らせました。そして報告からするにあの謎の空間では100年に一度咲く花があったそうです。しかもその花は永遠の肉体と不死を与えると言われ、バラトロはこの情報を前もって得ていたか‥‥‥もしくは、“知っていのか”。魔障壁を貼り、Sランク魔獣を待機させておいたことから後者でしょう。それと、世界各地で我々の名を語り、町を襲う不届き者がいるという報告です。現状ではまだこの程度の情報ですが、如何いたしましょう‥‥‥」
なるほどな。あの謎の空間はそういうことか。それに‥‥‥もうあれから二週間は経つのか。
あの後、教師達に囲まれたが転移でなんなく逃げれた。そして俺と入れ替わってくれたファシーノだが、俺の魔法で俺の姿、レオンになっていた。傷もしっかりと本物と遜色ない程に完璧に。
そしてファシーノの話を聞くにあの後、エルフのジルが俺の元まで駆けつけて医療班まで運んでくれたらしい。まあ、魔法なので傷ではないのだが一応治療を施されたとか。
その後、港に設営された大規模医療テントのベッドに運ばれ寝ていたと。それで見舞いにアザレア達に俺が庇ったジルとエリザも来てくれたと。ファシーノには俺の口調とか態度を無理にさせて申し訳ないと思っている‥‥‥隙を見計らって本物の俺と入れ替わった時の彼女は相当疲れていた。
いや、うん、本当にすまないと思っている‥‥
その後、教師達や学生の間では色々な話が飛び交っていた。
Sランク魔獣を討伐したアザレアの話だ。命を犠牲にしてまで皆を守り抜いた事。そしてそこに現れた謎の女性。まあ、その謎の女性はファシーノだが‥‥
アザレアが命を犠牲にしてまで皆を守った話を聞いた時は流石に驚いたな。自分の体よりも俺の心配を真っ先にしてくれたアザレア。あのファシーノが魔力を分け与えて生死の狭間から蘇らせたのも驚きだが‥‥‥何より無事でよかった。
あとはあれだな、まさに俺についてだな。何十人もの教師達の前に姿を曝け出してしまった。そして虚無の統括者としてあの事件を俺が主犯だと確定している。
あのジルとエリザが事件の後、上層部に真実を言おうが言うまいが彼らにとってはどちらも敵であり、どの道都合が良いと踏むだろう。学生達を殺しかけたとして、またさらに悪名が付いてしまったな。
まあ、何あれその後学園に戻り俺の傷も完治するといつもの日常が戻っていった。いつもの‥‥‥うん。いつもの‥‥‥学園生活に戻ったなうん。
とまあ、こんな感じで時間はすぎるのが早い。奴らが攻めてくるのか、またどこで何を企んでいるのか分からないがこのひと時は大切にしたいな‥‥
「ねえ?人の話を聞いているかしら?」
と、記憶を振り返っていたらファシーノに注意をされてしまった。
「あ、ああすまない。少し考え事を。そうだな、今はまだ待つべきだろう。名を語り暴れ回っている奴等にはそのうち制裁を喰らわそう」
そして俺とファシーノは1学年校舎に登校し、あっという間に午前の授業が終了しお昼の時間がやってきた。
◊◊◊
「おい‥‥レオン」
「ん?なんだレオナルド?」
「なんだ?じゃない!これはどう言う状況だぁぁああ!?」
大食堂で昼食を共にしているレオナルド君が柄にもなく突然騒ぎ出した。
「おいおい。どうしたんだ?柄にもない」
俺は騒ぎ出すレオナルド君を不思議に思う。静かにさせようとしても彼はこの状況に納得がいかないようだった。なぜなら‥‥‥
「お前‥‥‥この状況分かっているのか?!エルフ族の姫と魔族の姫と人族の英雄達だぞぉ?!」
そう、この昼食にて俺たちは非常に目立っていた。それもその筈、一箇所だけやたら高貴でバラの花が咲いていそうな雰囲気漂うテーブル。そこでは種族関係なくお互いの立場も全て平等に接している人物達。それもなんとお姫様が二人も同じテーブルに腰を下ろしているのだ。それはもう、誰が見ても「え?どう言う状況‥‥」となるのも必然であった。
「アザレア‥‥‥貴方もっと品良く食べられないの?」
「ええ〜美味しいからつい‥‥‥!そういうカメリアだって夜中お菓子いっぱい食べてるし?」
「ちょっ!なんで知っているのよ!?」
アザレアとカメリアこいつらはいつもと変わりなくて安心した。それよりも変わったと言えば‥‥‥
「そういえば何でエリザとジルが私達と一緒にいるの?もしかして寂しいの?」
アザレアがニヤニヤと二人に直球的な質問をした。実際アザレアの言う通り、いつの間にかいて、いつの間にかこれが普通になってきてしまってから二週間。まあ、何となく察してしまうのは多分、俺の気のせいだろう‥‥
そんなアザレアの質問に二人は包み隠さず答える。その内容が俺の隣に座る彼女を怒らせるとも知らずに‥‥
「ええ、そうね。それはもちろん“レオン様”に興味があるからよ。初めてお会いしたのは入学試験での事ね。そこの坊ちゃんがレオン様をイカサマ呼ばわりしたから私が場を鎮めたのが始まりね。それに私サキュバスですからぁ‥‥強い男の人を見ると興奮しますわぁ」
「グフッ‥‥!」
エリザの言葉に刃物などの魔法が掛けられていないのだが、ある一人が胸を苦しんでいる。まあ誰とまでは言わないでおこう。
「ええ!そうだったの?レオンあんた私の知らないところで何しているのよ?!」
「いや、え、俺が悪いの?」
アザレアからは怒鳴られ、カメリアからは睨まれ、隣のファシーノからは足を踏まれ、俺は一体どうすればいいんだ‥‥
「それでジルはどうして?‥‥‥まさかレオンの事を?!」
「——ああ、そうだ。強い男として見ている。それに姫ではない。周りが呼んでいるだけだ」
「「「———!?」」」
おっと‥‥‥心臓が痛くなってきた‥‥‥このまま席を立ってベッドに寝たい。
しかし、俺がどこかへ逃げるのを全力で阻止しようとする隣のお方。非常に怖いです。その、目が笑っていない笑顔は何なのでしょうか。俺はもうここで死んでしまうのでしょうか‥‥それに俺はこのジルが姫様なんて最近知ったばかりだぞ?
その姫様の体を俺は‥‥もう死刑だよなこれ‥‥
「二週間前、サバイバル授業での事だな。皆も知っていると思うが私とエリザは奴と戦っていた。手も足も出ずに私は敗北し、死を覚悟した時だ。レオンは自らの命を顧みず私を庇ってくれた。胸に深い傷を負ってな‥‥今まで私の中の男は弱く体格だけで圧倒する実力もない動物と思っていた。しかし、レオンのおかげで‥‥‥いやレオンだからこそ私はお前に惹かれている。お前はもっと強くなれると私が保証しよう」
え、ちょっとジルさんかっこ良すぎやしません?!何でそんなに堂々と皆がいる前で発言できるんだ?!すっごく見られてるし、その熱く真っ直ぐな眼差しで俺を見ないで‥‥‥隣のファシーノが怖い。
「な、な、なんでこうもライバルが増えちゃうの〜?!」
「はいはい〜可哀想なアザレアね〜」
何故か悔しがるアザレアとそれを宥めるカメリア。そして永遠にご飯を食べているベラ。それとワルドスとコキン、テルは何だか呼び出しがあったらしく今はいない。いや、あいつらに今のこの状況を見られると恥ずかしくてたまらない。
周囲の視線も突き刺さっているのに‥‥これ以上は胃に穴が開きそうだ。
「それはそうと話題を変えますが最近、世界各地で月下香を名乗る集団が町や村を襲っているらしいです。私の住む魔族帝国の近辺も被害に遭っています。皆さんもお気をつけください」
「「「‥‥‥‥っ」」」
エリザの出した話題に顔を顰めるアザレア達。悔しがっているのか激怒しているのか‥‥俺には彼女達の心を読む事はできない。月下香という名前を出せばこういう反応をするのだと改めて確認できた。やはり、俺たちは‥‥‥
「———それは違うと思う」
「「「———!」」」
そろそろ空気も悪くなり席を立とうとした、しかし彼女だけは否定してくれた。
「一体どういう事アザレア?それは一般に訊かれれば重罪ですわっ」
エリザはアザレアを睨む。それでもアザレアを話を続ける。
「誰が何と言おうと私は違うと思う。彼らがそんな簡単に住人や町を襲うような人達には感じられない。私は彼らを知らないけれど、厄災の魔獣から世界を救ったのは紛れもない“彼。上がどう言おうが救われた事に変わりない‥‥私の命も‥‥」
そう言い放つアザレアを見定めるように睨むエリザ。少しするとエリザはクスクスと笑い自身のトレーを持ち上げた。
「‥‥‥私も貴方と全く同じ事を考えていますアザレア、貴方とは良い友達になれるわぁ」
「ああ、私もだ。アザレアこれからもよろしく頼む」
ジルもまたエリザと一緒にトレーを持ち上げて席を立った。二人は「お先に」と言い大食堂を背に歩いていった。
「え、え?私、友達になっちゃった?!」
「いや、前から友達でしょう!」
カメリアに鋭いツッコミを入れられたアザレア。一部始終を見ていた俺から言わせれば一体全体、女性とは恐ろしい存在であると理解した。
ジルとエリザの真意は確かではないが、アザレアとの会話からするに二人も俺ではないと信じているのだろうか?
エリザからは殺意剥き出しに睨まれて「近寄るな!」なんて言われたからな‥‥まああれか、ジルを助けた事で若干緩和になったのだろうか?
まあ、それでもあの瞳は今でも鮮明に覚えている。サキュバスは男を魅了する瞳やスタイルが生まれつき備わるとは言うが、あの瞳は憎悪に満ち溢れていた。心に蔓延る瞳だった。
「じゃあ、俺たちもそろそろ行くか‥‥‥おい、レオナルド行くぞ」
会話中、ずっと顔を伏せていたレオナルドを呼び起こしてテーブルを離れる。そして会話中終始俺の足を踏み続けられたせいでぎこちない歩きになっているのは彼女のせいだ。
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