厄災の魔獣 開戦

———そして時は遡り、レオンがアザレア達の前に現れる少し前。魔族帝国首都デモナートでは動乱が起きていた。厄災の魔獣が突如出現したことにより国民は慌てふためき逃げ惑い、首都モデナートの外に逃げようと城壁に押し掛けた


しかし、逃げ惑う人々が城壁の外で目にした物は凶暴な魔獣が軍勢になり、犇く地獄の光景だった


外にも逃げ場がなく、城壁内部に急いで戻る国民達。走る気力を失い、表情は絶望し、魂が抜けたように歩く国民達はただ希望を抱く事しか出来なかった


そんな国民を抑制し、城壁に群がる魔獣を撃退するためすぐに魔族軍が駆り出された

しかし、城壁の外で目にする光景にはさすがの軍と言えど絶句する。湖側から厄災の魔獣が出現し、海側から魔獣の軍勢が押し寄せ四方八方囲まれた絶望的な状況。すぐにでも逃げ出したい思いを押し殺し、国のため民のため、その砕けそうな心を篩い落とし魔獣に立ち向かう魔族軍


また城壁の外も内部も動乱が起きている中、魔王城の屋上にて各国の王達並びに護衛である軍の重鎮達も混乱していた‥‥‥



「———魔王様!このままでは城壁が魔獣により破られてしまいます!」


「くっ!厄災の魔獣と共鳴しているとでもいうのか‥‥‥魔将の3人サタン、マモン、アスモ!お前達は城壁に行け!こちらはなんとかする、魔獣を一匹たりとも内側に通すなっ!」


「「「———はっ!」」」


魔王ルシフェルは城周辺を自分たちで食い止め、七つの大罪である3人を城壁に回す指示を出す。魔将の3人は魔王城の屋上から飛び降りて各城壁の守りに急いで向かった


また厄災の魔獣が現れた事により魔獣の軍勢は魔族国だけではなく各国の主要都市で勃発していた。その各国の軍部からは被害報告が後を経たず、修羅場と化していた


「———くそ!どうなってやがる!?女王陛下、ベスティアからの報告では魔獣の軍勢が押し寄せ首都はパニック状態だ!俺たちがいない時になんだってんだよ!」


「なっなんだと!妾の国と民は無事なのか?!すぐにでも向かいたいがここからでは‥‥っ」


獣族国ベスティアからの報告を女王ストレニアに伝えるイゾラート・ルーペ。イゾラートは自国の悲惨な報告を受け、自分がその場に居ない事を悔やみ怒りを露わにする。その怒りは女王も同じ気持ちだったが、到底間に合わないと悟り『自国にいる自軍に託す事しか出来ぬ』と顔を顰めるしか出来なかった‥‥‥



「———っ!ララノア様!我々のエルフ大国首都も魔獣に包囲され、攻撃を受けているとの報告が!冒険者並びに兵の負傷者が大勢を占め、城壁を守る人手が足りず突破されそうとの事です!」


「な、なんですって!?一体どうなっているというの?!」



「———こちら人族国より報告!魔獣の軍勢が押し寄せ動乱が起きています!城壁を攻撃され訓練生まで出撃している次第です!」


「———っ!それは本当パエーゼ?!」



獣族国、エルフ大国、人族国の3カ国も魔獣に襲撃され王の耳にまで報告が届く


その悲劇のような報告は全て魔獣によるもの。王達が不在の国では防御が精一杯で突破されるのも時間の問題だった。唯一魔獣の被害が及んでいない空中都市エーテルの天族長ミカエルは4カ国の被害報告を聞き、何か出来ないかと思考を巡らせる‥‥‥



「———こうなっては已むを得ません。我らの仲間を地上に送らせ、各国に配置しましょう。ガブリエル、エーテルに報告を。そして我々はあの、“魔獣”をどうにかしなくては‥‥‥」


天族長ミカエルは各国に同胞を配置させることを指示すると、未だに空高く飛び回っている厄災の魔獣に視線を固定する

そして各国のSSSランクである5人も先頭に立ち王達を背後に移動させ、空高くにいる厄災の魔獣を睨む。SSSランクである選ばれし者セレツィオナートの5人は無言の怒りを露にし、厄災の魔獣と視線が交わると空気がピリピリと張り詰めた


嵐の前の静けさのようにいつ誘発するのかわからない緊張感の中、獣王が火口を切る‥‥‥



「———どうやらこちらから攻撃するまで待っているようだ。気に食わんなっ」


獣王の言う通り厄災の魔獣は一向に襲って来ず空高くを飛んでいるだけだった。まるで獲物を見据えているかのように空高くに飛び、時を待っているかのように


「———獣王、私も同じ意見だ。エルフ族の力、とくと味合わせてやろう。”ウンディーネ”準備しろ。『了解よ』」


「———この我の国に現れた事後悔させてやる。厄災の魔獣がなんだっ魔王の力を侮るなっ」


「———空を支配する我ら天族の領域に踏み込んだ事。その罪は死を持って償わせてもらいます」


「———まさかこの4人と肩を並べられる日が来ようとは。人族国を代表して戦場に参ろう」



———そして5人は最大限の魔力を体内から体外へと解放させる


その魔力は世界の5人選ばれし者セレツィオナートだけが顕現できると言われる至高の代物であり、絶対的な力を秘める人類最高峰の力


その名を可視化できる魔力ヴィズアリタ


獣王ストレニアは火の色を、エルフ族のディアナは水の色を、魔王ルシフェルは黒と白色を、天族長ミカエルは光の色を、人族のパエーゼは風の色をそれぞれ顕現させた


天にまで登る魔力の柱は5人の偉大さを象徴させるのに十分なほどに人々の瞳に焼き付かせた。5色の違わぬ色は一つの柱となり、すぐそばに佇む王やSSランクの護衛達に深く、深く心に刻み込ませた‥‥‥



「なんて美しい魔力だ‥‥5人が共に戦うとはっ」


「ああ、これだけの魔力をどうやって身につけたと言うんだよ。しんじらんねーよっ」


「凄まじい圧。なんて神々しいのでしょう。選ばれし者セレツィオナート、その真のお姿を目に焼き付けなくては勿体ないっ」


「あの方々5人揃えば厄災の魔獣を倒せるのでは‥‥‥私たちの希望と未来を託します」


王と一緒に背後に立つ各国の護衛達。普段自分たちが知るSSSランクの司令や王の面影はなく、その瞳に映るのは真の選ばれし者セレツィオナートの姿


普段見せることのない5人の本気を前に引き気味に身震いする護衛達。修羅の如く形相と獅子のような体勢をする5人の選ばれし者セレツィオナートはその時、一斉に声を荒げた‥‥‥



「「「———行くぞ!」」」



その合図とともに、後世に語り継がれるであろう歴史の一ページが幕を開いた

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