想いと想い
————レオン様とワルドスさんが出ていかれた講堂に残った私たち。
私‥‥‥いいえ、デボラは思います。ワルドスさんは助け舟を出したのだと‥‥‥あの状況でレオン様が不意なのは事実。レオン様が決してボロを出すことはないでしょうが、少々ヒヤヒヤしてしまいました。私、デボラが話に加わろうかと思いましたが、杞憂に終わりました‥‥‥
このSクラス、そして先輩の2人がいる中でレオン様の正体を知っているのは私だけ‥‥レオン様がどれほど眩しく気高いお方か、神をも上回る崇高なるお方か、私の拭きれぬ罪を許し、奪いさった最愛なるお方‥‥‥
この場で私しか知らないと言う優越感はたまりません‥‥‥悪に堕ちても構わないと想ってしまう‥‥‥そんな考えをしてしまう危険で甘いお方‥‥‥
あのお方の事をもっと知りたいと、もっとそばに居たいと、そう思ってしまうのはあの方の邪魔にしかならないのでしょう‥‥
月下香の主にして、虚無の統括者と恐れられている人物がまさか、こんなに近くにいるなんて誰も想像つくことの出来ないことです。
あのお方の月下香なる組織‥‥‥あそこに私も‥‥‥そうすればあのお方を崇高している者達と共に、あの方の事をもっと‥‥‥!
ふふふ、レオン様。いずれは‥‥‥
とそう考えている内にワルドスさんの行動に呆気に取られているのも束の間、静寂に音を加えたのはレベッカさんでした。
「———全く。嘘の下手な奴だ。私達の事を信用していないとはっ。紅月がそう簡単に扱える代物ではないと言うのに‥‥‥アイツは今まで扱い続けてきたと言うのか。一体いつから‥‥‥クソっ!なぜだ‥‥‥相談くらいしてくれてもいいだろうに‥‥‥」
「———レベッカ‥‥‥」
レベッカさんはレオン様に対して疑いと怒り、そして悲しみを思っています。あのお優しいレオン様の事です、きっと心配をかけない様に、そして自身の正体が明るみなら無い瀬戸際でバランスを保っていたのでしょう‥‥
レベッカさんはレオン様の事を何処かで師弟としてではなく、後輩先輩としてではなく異性として見ている‥‥‥同じ女性ですから分かってしまいました。そんな異性に嘘を疲れている、信用されていないと思ってしまったら悲しみと怒りが襲うのは必然でしょう
そんなレベッカさんに隣のヴァレンチーナさんは優しく声をかけます。傷を癒すようにヴァレンチーナさんはレベッカさんの肩に手を置いています。
そして、2人は扉を目指して、取手に手をかけて最後にこう言って講堂を後にしました
「———それでは皆さん。お邪魔しました。レオン君の事はあまり気にしなくても大丈夫ですよ。極刑になんてなりませんから。後、近々獣族国から使者が送られてくるそうです。勿論、覇王五剣を回収にです。そして、学園都市から獣族国までの護衛は森に詳しい腕利きの冒険者と軍で再編された部隊になります。もしかすると、私達も任務に当たるかもしれませんので、心に留めておいて下さい」
そう言い残してヴァレンチーナさんとレベッカさんは講堂を後にしました。
再び残された私たちは互いに言いたい気持ちがある様子で全員黙っています。
差し出がましいですが、それを見かねた私は一言話させていただきました。
「———一つよろしいでしょうか?もし、”レオンさん”が悪の道へ歩んでいたとして、それが自身の正義であり、何かを守る為に行っていたのだとしたら、あなた方は咎めますか?それとも、見て見ぬふりをしますか?」
「「「———っ!?」」」
私の発言によって皆さんは虚を突かれたのように、視線を私へと集中します。なぜ、この場でそんなことを?と言ったような反応を示しますが、これは私個人としての意見であり、聞きたい内容‥‥‥
「———デ、デボラっ!そんな事、そんな事あるわけないじゃない!あのレオンがそんな事をするわけないわ!悪の道にレオンが?確かにレオンは強くなったわ!昔に比べれば大きくなったし、声も変わったし、それにカッコよくなったわ!けれど、決して彼は道を踏み外したりはしない!悪の道に行っても私が必ず引きずり出すまで!」
アザレアさんは困惑と苛立ちで、荒々しく声を張り上げました。それもアザレアさんはレオン様の幼馴染でレオン様の事を大好きな乙女です。聞く話によれば、昔はレオン様と一緒に2人で毎日、遊んでいたとか?
なんとも羨ましい‥‥‥
幼き頃のレオン様を知っている数少ない女性‥‥‥
幼き頃のレオン様を知っているからこそ、アザレアさんは疑わないのでしょう。
レオン様の事を心から信じている‥‥‥純粋な気持ち
「———意地悪みたく言ってしまってごめんなさいアザレアさん。やはりアザレアさんはレオンさんの事を心から信用しているのですね。とても素敵です」
「———もお!デボラったら!私は別にレオンが何をしてようといいの、ただ幸せになって欲しいだけ。そこに私もいれたらなーってただそれだけよ!」
ふふふ、頬を膨らませて顔を少し赤めてとても可愛いです。アザレアさんの照れている表情はとても愛くるしい。
これが幼馴染の威厳と言うものなのでしょうか
ふふふ‥‥‥アザレアさんのお陰でこの場も少しは緊張が溶けて肩の荷が軽くなったに違いありません。ジルさんもエリザさんも表情が和らぎ、アザレアさんと会話を始めました。
しかし、カメリアさんはどうも浮かない表情のままです。
何を考えているのか凡そ察しは付きます。彼女はレオン様を疑っている‥‥‥それもここ最近というより前から怪しんでいる。彼女は警戒しておいた方がいいでしょう。
今はまだレオン様のお目にかかりませんが、いずれはこのデボラがお役に立てる日がくるかもしれません。それまで、私は私だけのレオン様を端から眺めていましょう‥‥‥
大罪人と謳われる彼のお姿をこの目で‥‥‥
◊◊◊
———そう、それは俺が寮の自室へ戻ってしばらく経ってのこと。
ワルドスと別れてから寮に帰り、夕食を済ませてベッドで横になりいつもの考え事をしている最中の事————
————ギシ————ギシ————
と薄暗い部屋の中で微かな物音が聞こえた。
そして人影を感じても俺は警戒する事はない‥‥‥
なぜなら———
「———もう寝てしまうの?まだ寝るには早いんじゃないかしら?」
部屋に来た張本人は俺の学園でのパートナーでもあり、月下香最強の女性ファシーノだった。そんなファシーノだが、毎回忍び込んでくるのでこちらはプライベートもあったもんじゃない。まあ、別に見られても恥ずかしい事はないので、いいのだが‥‥‥
なぜ、ネグリジェ姿なのかな?
「———ファシーノ‥‥‥どうした?何か問題でも起こったか?」
取り敢えず、部屋に来た訳を聞こうとファシーノに問いかける。
そんなファシーノは少し疲れた様子で腕を組んで話し始めた。
「———まず、今回の覇王五剣が発見された騒動で獣族国から使者が来るわ」
「———ああ、確かそいつは‥‥‥」
「———ええ、ガブリオレのご兄弟‥‥‥現S Sランクのイゾラートが覇王五剣の回収に来る。まあ、弟を半殺しにした貴方には何かあるでしょうね?もしかしたらだけれど」
と不気味に微笑むファシーノの表情は小悪魔のようで少し可愛いい。
その小悪魔気質で話はまだまだ掘り下げられていく。
「———それと、あの覇王五剣が発見されたことは学園中に広まっている。勿論、貴方が所有していたなんていうのはごく僅かな人に限定されているけど、この朗報は間違いなく、バラトロにまで伝わっているはず‥‥‥凡そ4年前に貴方がバラトロ幹部のバッコスから奪った刀剣を取り返しにね」
「———だろうな。この機会をバラトロが見逃すはずはない‥‥‥乗じて戦力の大幅ダウンを狙ってくるのだろう。バラトロの真の目的は未だに謎だがな‥‥‥」
「———ふふっ」
とファシーノは微笑んだ。まるで、『私は知っているのに、貴方は知らないの?』と言わんばかりの小馬鹿にするような目付き‥‥‥
悪い気はしない‥‥‥
「———ふっ貴方が知らないのも無理ないわ。この数ヶ月でようやく詳細が見えてきたもの。隠密諜報部隊のデリカートと腕利き冒険者を束ねるヴィーナスさんのおかげでね」
「———何!?」
ファシーノの発言はまさに俺の闘争心を駆り立てた。何年もバラトロの詳細な目的が分からぬままだったと言うのに、よもや遂に知ることになるとは。
「———詳細を教えてくれても?」
そう言うとファシーノはため息を吐いて、今知れている情報を話してくれた。
「———未だに世界中で街や村が襲われ、死者が耐えないわ。それは何故か‥‥‥奴らは殺した相手から魔力を奪っていくの。その魔力は何に使われるかは凡そ察しはついている。厄災の魔獣を蘇らせる事。そして、バラトロを従える主‥‥‥奴の真の目的は世界の玉座の奪還。世界中に散らばる月下香がもたらした情報よ」
「———玉座の‥‥‥‥奪還?」
ファシーノの話してくれた内容‥‥‥バラトロの真の目的‥‥‥‥
玉座の奪還とは一体どう言う意味だ?五種族の王たちの事を指しているのか?
選ばれし者達を殺して玉座を奪うと‥‥‥?
それではただ単に全種族の頂点に立つと言うことになる
厄災の魔獣復活のために街や村、殺人などを世界中で起こしているが、玉座の奪還ならば一国を集中的に攻めればいいのでは?
そして次々に他国へ攻めていけばいいと思うが‥‥‥‥
厄災の魔獣がそれほど大事なのか?
本当に厄災の魔獣にのみ魔力を集めているのか?
「———何か引っかかるな。玉座の奪還とは選ばれし者と王達を意味している。厄災の魔獣復活の為といえ、本当にそれだけか?確か、前にバラトロは昔から闇で蔓延る悪と言っていたよなファシーノ」
「———ええ、そうよ。いつかは知らないけれど、相当昔から存在するわ。なのに、この数年で表に現れてくる頻度が増えた。伝説の厄災の魔獣もそうだけれど、玉座の奪還という言葉は世界の奪還という意味ではないかしら?」
「———ああ、そう捉えた方が分かりやすい。普通は奪還なんて言葉は使わない‥‥‥世界の奪還という事は、バラトロの主はこの世界を統べる王だったのだろうか? 」
とファシーノに投げかけてみる。俺の考えた事はきっとファシーノも同じく考えているに違いないからな。
「———そうかも知れないけれど、そうではないかも知れないわ。まだまだ情報は少ないもの‥‥‥それに」
「———それに?」
とファシーノは最後に口を閉ざして、何やら言いずらそうにモゴモゴしている。
その仕草が少し可愛いので、ジロジロと見ていると甘い吐息で誘惑してきた‥‥‥ように見えたが、少し戸惑っている感じだった。
「———放課後にワルドスくんと話していた会話‥‥‥‥わ、私は貴方だけよ。貴方だけのもの‥‥‥いくら口説かれても、優しく囁いてくれても貴方以外に靡く事はないわ‥‥‥貴方を決して1人にはさせない」
薄暗い部屋でもその頬が赤くなっているのを俺は見逃さなかった。
放課後のワルドスの会話を一体どこで聞いていたのやらと聞きたいところだが、答えてはくれそうにないだろう。
心配で俺の周りを付けていたのかと思うと、さすがファシーノだよ
それにさっきからモジモジしているけど、俺が声をかけるまでそうしているのかな?少しからかってみたくなってきたけど、後日が怖いのでやめておこう
「———そんなとこで立ってないで、もう夜も遅いし寝るぞ。ほら————」
「———あっ、ちょっと‥‥‥っ」
ファシーノの腕を引っ張って半ば強引にベッドに引き込む。
冬の夜は恐ろしく寒いから、肌と肌が重なって暖かい。
すべすべな肌とシャンプーの匂い、ネグリジェ姿のファシーノ。最近、布団に一緒に入る機会が多いような気もするが、まあ彼女の望みなら断るわけにもいかない。
それに‥‥‥
「———誰にも渡すわけがないだろう」
「———その言葉を聞いて安心したわ‥‥‥っ」
さて、夜は冷えるしこのまま寝させてもらおう‥‥‥
まあ、ファシーノさんが寝させてくれればいいのだが‥‥‥
「———ふふ、暖かいわね」
寝させてくれはしないらしい‥‥‥
あ、明日は休みだから久しぶりに冒険者ギルドに行くか‥‥‥
あれ、そういえば学園都市に冒険者ギルドってあったけ‥‥‥
「———寝かせないわよ」
俺の考え事など知らずファシーノさんは今日もスイッチが入ってしまったらしい‥‥明日、学園都市を見て回るかな
虚無の統括者 〜両親を殺された俺は復讐の為、最強の配下と組織の主になる〜 サメ狐 @foxmilk
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