男と男の決意
————学園での1日の講義が終わり、放課後の時間がやってきた。部活動に行く者、寮に帰る者、学友と一緒に出かける者と様々だが、俺は今危機的状況に陥っている。
朝にアザレアに呼び出されてSクラスに向かった俺だが、そこには1年Sクラスの全員とレベッカ先輩、そしてヴァレンチーナ先輩までいた。
そして俺は一つの椅子に座らされて尋問じみた事をされていた—————
「———それでレオン。一体どういうことか説明してくれるかしら?なぜ、貴方が覇王五剣を持っていたのかを!」
「———は、ははは‥‥‥これには、わけがありまして」
と俺の目の前には今にでもくっつきそうなほどの距離にアザレアの顔がある。
その表情は少し‥‥‥ではなく結構怒っている。
俺はそんなアザレアに対して冗談交えて話すことにした————
◊◊◊
「———そう。老人がくれたものねぇ〜?なんだか凄く怪しいわ。国宝を老人が持っていた事もそうだけれど、それを渡すというのもおかしな話‥‥‥レオン!嘘吐いていないわよね?!」
と再びアザレアの顔が近づき瞳が険しく俺を覗こうとしてくる。他の皆もアザレアと同じく眉間に皺を寄せて疑いの念を抱いている。
俺はアザレアの問いに対して全力で首を左右に振る。嘘なんて一切付いていませんと、瞳で訴えかける。まあ、嘘を付いているのだが、今はバレる訳にはいかない。
真面目に話して、あのバラトロの幹部を殺して奪ったなど言えるわけもない‥‥‥
「———レオン。あの国宝は紅月という国宝でもあり、桜月流の起源でもある至宝だ。何十年前かに盗まれて以降、行方を暗ましていたものが、老人が持っていてレオンに授けたという話は信じようにも信じきれない。あの紅月一本で一国と同じ価値がある代物だ。一学生が持っていて良い代物ではない‥‥‥レオンお前は危うく国家反逆罪で牢獄にぶち込まれていたところだぞ」
「———はい」
レベッカ先輩が壁に背中を預けながら冷静に解説してくれた。俺は危うく反逆罪で罪に問われていたらしい‥‥‥それほどにあの紅月という代物は一般人が持っていて良いものではなかったようだ。
いや、俺最近まで知らなかったんだけど?
誰か教えてくれても良くないですか?
絶対ヴァルネラとか知っていただろう。何千年も生きている精霊なら気づいていたに違いない。久しぶりに顔を見るがてら問い詰めよう。
とアザレアに胸ぐらを何度も揺らされながらそんなふうに考えていると、ジルとカメリアが2人揃って俺に質問をしてきた。
「———レオン。国宝の事はもういいわ。どうせこれ以上聞いても話してくれないのでしょう?私は国宝よりもあの夜の出来事について聞きたいわ。どうやってガブリオレに勝ったの?私はあの現場にいて草むらから覗いていたのに、途中からの記憶が抜けてしまっている‥‥‥気づいた時には部屋の天井を見つめていた。レオン‥‥‥もう一度聞くわ、どうやって勝ったの」
「レオン‥‥‥貴様は不思議なやつだ。素性がまったくわからない。それにどんな奴か知らないが仲間がいるだろう?」
カメリアからの疑問とジルからの質問‥‥‥どちらも違うようで同じ質問。
幸い彼女達の記憶の一部は消えているので、誤魔化せるのは誤魔化せるが
一時凌ぎといったところか‥‥‥
「———俺は魔法が苦手だからな、近距離で使っただけ。それと仲間だが、冒険者で活動していたから仲間は沢山いる。こないだのも影から何人かに手伝ってもらったんだよ。これで知りたかった回答は聞けたかな?」
とカメリアとジルに笑顔で答えた。ニコニコ笑顔の俺は誰がどう見ても無邪気な青年そのものだろう。
カメリアとジルはそんな笑顔を見て、呆れたかのように額に手をつけていた。
「———そういうことにしてあげるわ。けれど、もう隠し事はなしよ?」
「———ああ、了解した」
カメリアに念を押されてしまったので、仕方なく承諾することにしたものの、この後俺はどうしたら良いのだろうか?
「まあ、レオンは知らなかったわけだし。それに国宝も無事見つけたし、レオンは男をみせて学友達を救ったしで万々歳だな」
「ワルドス‥‥‥友よ」
なんとワルドスが場を和ませてくれたおかげで、皆表情が緩んできたぞ。
さすがはイケメンだ。その笑顔と言葉でどれだけの女性を口説いてきたのか‥‥‥
「———まあ、そう落ち込むなよ。レオンまた一緒に剣を交えようぜ!そして、レオンにピッタリな剣でも見つける為、今度の週末にでも剣でも見にいくか」
「———ああ、ありがとうワルドス」
そうして、俺はワルドスに連れられて講堂を出た。
他のみんなはポカンとしていたが、これで良いのだろうか‥‥‥‥
「———なあ、ワルドス良いのか?出てきてしまって」
歩きながらそう言うとワルドスはただ真っ直ぐに前を見つめて話した。
「———レオン‥‥‥今はまだ話さなくてもいい。だが、時が来たら教えてくれ。お前の事を‥‥‥じゃなきゃ悲しいじゃねーか。お前の事を友だと想っていたのは俺だけか?アザレアはお前を心から信じている、例え軍を敵に回してもお前の味方でいる覚悟だぜ。ほんとお前のことが羨ましいよ‥‥‥アザレアもファシーノさんもお前の事ばかり見ている」
そんな言葉をワルドスの口から聞いたのは実に初めてだ。やはり、ワルドスは昔も今も変わらず、マルゲリータ町の、俺たちのリーダーだな。そして、ワルドスの心の声も‥‥‥男同士でなければ決して今の話題を出さなかっただろうな‥‥‥
ワルドスも年頃の男であり、いくら軍人と言えど、いくら英雄と言われても心は青年そして俺も同じ‥‥‥
「———ワルドスお前‥‥‥」
そんなワルドスに言葉を返そうとした瞬間、再びワルドスの言葉で遮られてしまい‥‥‥
「———レオン。お前はなんの為に戦う?誰の為に強くなる?俺はみんなを、幼馴染のアザレアを守る為に戦う‥‥‥そして、一目惚れしたファシーノさんの横に並ぶ男に俺はなりたい‥‥‥」
「‥‥‥‥‥え?」
余りの唐突な発言に思わず、声が出てしまった。
アザレアはまあ分かる。食堂で見るワルドスの視線からアザレアに好意があることは知っていた。多分昔から好意を寄せていたのだろう。だが、リーダーとしてチームを揺さぶらない為にその感情をしまっていた。
ああ、分かる‥‥‥
だが、最後の一目惚れ?え?ワルドスはそう言う奴だったっけ?
「———何かおかしいか?」
とワルドスに問い詰められそうになる。全力で首を横に振るが、ワルドスは至って真剣だと言わんばかしの表情を保っている。
「———テルにもコキンにも言っていない。レオンにだけしか言っていない。お前にだけは知っていて欲しいからな。俺も男だから、分かるよなレオン?俺は好きなものには嘘は付けないし、好きなものはどこまでも突き進む。俺はどちらも好きになってしまった。アザレアは昔から、ファシーノさんは対抗戦の時に‥‥‥あの冷たい視線と研ぎ澄まされた剣技を受けて俺はビビッと来てしまった」
とワルドスは熱く語っている‥‥‥というかファシーノに一目惚れということ自体が驚愕で今でも若干混乱している。
あのワルドスが女性に興味をもった事にも意外だし‥‥‥
イケメンで優男で高身長で透き通る声で白馬の王子様のような見た目なワルドスが相手では俺の勝率は極めて低いだろう‥‥‥
一年の中でトップのイケメンが目を付けられた女性は落ちるに決まっている‥‥‥こんなに紳士で頼りのあるワルドスに好意を向けられたら全員が即答するだろう
「———レオン。俺は負けない。この気持ちに嘘はない。俺は2人を守れる強さを得る。レオン負けないからな!これは男の勝負だ!」
ワルドスは自身の拳を前に出して、俺に拳を出せと言うような視線で待っている。俺は一瞬躊躇いもしたが、男の勝負であり、ワルドスの男としての気持ち、そして秘密にせず俺に伝えてくれたその覚悟を買って俺はワルドスの拳に拳で返した。
「———よし!それじゃあなレオン!これでスッキリできた!また明日な!」
「———ああ、ありがとうワルドス」
そしてワルドスは歩いてきた廊下を戻っていった。きっと先程の講堂にもだったのだろう。
「はあ〜‥‥‥‥」
深くため息を吐いて、廊下を歩いていく。ワルドスの衝撃の発言から時は経っていないのに時間が長く感じる。
宣戦布告?という奴なのだろうか。男としてワルドスはやはりカッコいい‥‥‥堂々と自身の意思をハッキリ言えるなんて俺には無理だな。
それにアザレアとファシーノか‥‥‥随分と強欲だな‥‥‥
って俺も人のこと言えないな。俺の方がよほど強欲だ
「———そういえばファシーノってめっちゃ人気じゃね?!この前も先輩から告白されたとか言ってたし!返事はどうしたのと聞いたら保留とか言ってたな‥‥‥」
そして俺はそのまま寮の部屋へと早歩きで帰っていった。途中、胸がソワソワして落ち着けなかったが、無事部屋に戻れて安心した。
そして、その夜にどういう訳かファシーノが俺の部屋にきたのだった。
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