目覚めと秘めた想い
『———貴方の仇を取ってきますよ。休んでいてください』
いいや‥‥‥行くな‥‥‥
行ってはダメだっ‥‥‥!
レオン‥‥‥‥!!!
「———はぁはぁ‥‥‥‥夢‥‥‥か」
目を覚ますと目の前は真っ白な天井とフカフカのベッドにフカフカの布団が私の体にのしかかる。そして全身から汗が吹き出していて気持ちの悪さを感じていた。
「———そうか、病室か‥‥‥」
辺りを見るに私は病室に運び込まれた様子。
しかし、頭がボーっとして思い通りの動きも思考もままならない‥‥‥
だが、先程の夢も‥‥‥そして月下香と名乗る男に斬られたことも覚えている‥‥‥
————何故か魔法が使えず、敢えなく斬られた私は意識が朦朧の中、ヴァレンに運ばれていた。とても‥‥‥とても冷たく‥‥‥激痛と暗闇が襲ってきた。
そして、暗闇の深く‥‥‥深い底まで沈んでいくと私しかいない空間‥‥‥
どこまでも広がる闇の底に私の1人だけがいる絶望と恐怖の世界
いくら前へ走っても、あるのは闇の世界
ここが地獄なのだと認識させられ、私は走る事をやめた
寒く、冷たく、何も感じない空間
孤独が精神を殺し、肉体を殺していく
もう、死んだのだと‥‥‥もう、生きていないのだと理解した時、私の瞳からは涙が流れた
出来ることならもう一度学園の友に‥‥‥強さを求めて無我夢中で剣を振るっていたあの時に‥‥‥
そして出来ることならもう一度あいつの顔を見てから‥‥‥‥
監視の為に近づき無理やり引き込んだというのに‥‥‥情でも湧いたのだろうかと思った
‥‥‥優秀な後輩で、少し生意気で力もないのに他人を心配する
危険で戦いばかりの日常に引き摺り込んだというのに‥‥‥あいつは嫌な顔をしないどころか、この私に着いてくる‥‥‥
今まで私の下に着いた者は精神が折れ、キツいといい去っていく。それが当たり前で私の下に着こうと思う奴は頭のネジが飛んでいると言われる。
それが、どうだ‥‥‥‥
あいつはあの男は弱音など吐かずに着いて来ているではないか
レオン‥‥‥‥
もう一度お前に会いたい‥‥‥
そう願った時、世界に広がる闇は瞬く間に消えていき、私は地下道で微かに意識を覚醒させることになる。
そして微かに開いた瞼から見る背中‥‥‥それは片足と片腕のないレオンの姿だった
なぜ、レオンが立っているのか。その体になってなお成し遂げる事が彼にはあるのだろうか。私よりも酷い傷を負ってなお片足で立つその精神の強さ
————一体お前は誰なんだ‥‥‥?
「レ‥‥オ‥‥ン」
きっと先程の戦いの場へと行こうとしているレオン。そんなレオンに今出せる声の限りを振り絞って呼び止める。そんな意識が朦朧と、思考もままならない状況で私の耳に届いた微かな音‥‥‥
『———貴方の仇を取ってきますよ。休んでいてください』
その音を聞けただけで私の心は安堵していった。瞼がゆっくりと落ちていき、意識も深い底へと沈んでいく。最後に見た彼の背中‥‥‥暗闇の中たった1人戦場へと歩んでいく弱々しい背中‥‥‥
だが、何故か安心できる‥‥‥理解できない‥‥‥意味もわからない‥‥‥けど、安心できた‥‥‥不思議な男だ‥‥‥
—————そして再び目覚めれば病室。どれほど眠っていたか分からないが、私はゆっくりと枕から頭を上げていく‥‥‥‥
しかし、私のベッド横の椅子に座っている人物を見て私は驚きのあまり声を漏らした。
「———!?な、なぜお前がそこにいる‥‥‥‥」
私の瞳は大きく開かれていき、これはまだ夢なのだと自身の頬を叩く
だが、叩いても痛みだけで一向に目覚めようとしない
それではこれは現実なのか?ありえない‥‥‥だって‥‥‥こいつは‥‥‥‥
「———おはようございます。レベッカ先輩。3日は眠っていましたね。体調は大丈夫ですか?」
驚愕で固まっている私をよそにこの男は笑顔で話しかけてくる。まるで何事もなかったかのように‥‥‥
「———こ、これは‥‥‥夢なのか?なぜ、なぜお前はそこに座っている?腕は?足は?一体‥‥‥‥これは現実なのか?」
目の前の彼のその姿は私が最後に見た姿とはかけ離れていた。私は恐る恐る彼の頬に手を伸ばして、つねる。
「———痛いですよレベッカ先輩。夢じゃありません」
指先からの感覚、空気の流れ、体温‥‥‥その全てがこれは現実なのだと
これは夢ではないのだと‥‥‥‥教えてくる
私は不意に感極まってしまい、彼の前で涙を流してしまった。今までの絶望感、孤独感、安心感が一気に流れ込み、彼の頬に手をかざしたまま俯いてしまう
———こんな私を見て弱い女だと、かわいそうな女だと思っているだろうか。
面倒くさいとつまらないと思われてしまっていないだろうか‥‥‥
こいつだけには嫌われたくないと心から思ってしまうのだ‥‥‥‥
「———レベッカ先輩。助けてくれてありがとうございます」
「———馬鹿‥‥‥当たり前だろ‥‥‥お前が生きていて良かった‥‥‥」
涙が布団に落ちていきゆっくりと染み渡っていく。
「———私を1人にしないでくれ‥‥‥」
溢れる涙と共に溢れた本心‥‥‥‥私の弱さが曝け出されどう見られても、もうどうでも良いと思ってしまった。
しかし、レオンは何も言わずにただただ、私の手を優しく握り続けてくれた
「———自分はまだ死にませんよ」
そして無言の時間が続くにつれて、私の中で気づいた事がある‥‥‥それは今まで隠し続けてきたある感情の正体‥‥‥口がモゴモゴとして今言ってしまっていいのか?もし拒絶されたらなどと考えてしまい言葉が出ない。
「———レベッカ先輩?どうしました?何か顔についていますか?」
レオンが私の様子を不思議そうに伺ってくる。
だが、考えろ私。ここでモジモジとしているなど、桜月流のこの私が、クールで通っているこの私のイメージが崩れてしまう。
では、つっ強気でいくしかないだろう!
ああ、大丈夫だ。これくらいこの私ならやって見せよう!自然な感じで、「だからなんだ?」と強気で!
「———レ、レオン。実は、私はお前のことが好きになったようだ」
————————ガラララ!!!
と私の告白と同時に病室の扉が突然開かれ、
「「「「————先輩!!!目を覚ましたんですね!!!」」」」
と後輩達が続々押し寄せた。極秘魔法部隊に所属する学園の後輩、そしてヴァレンの姿‥‥‥
「———レベッカ!良かった!目を覚ましたのですね!」
「———あ、ああ。つい先程な」
そうして何人もベッドの周りに集まって、涙を浮かべながら私の目覚めを喜んでいる。これが仲間というものだろうか。
とても暖かく、嬉しいな。仲間というものは
「———レオン!どこへいく!」
「———大勢来たみたいなので自分はこの辺で」
と言って行ってしまった‥‥‥‥私の告白を聞いて逃げ出してしまったのだろうか。面倒だと思われてしまったのだろうか‥‥‥
いままでの関係が崩れるのならいっそ心にしまっておけば‥‥‥‥
「———レオン君はレベッカが目を覚ますまでずっと隣にいたのです。それも数日間ですよ。とても後輩に慕われていますねレベッカ?」
「そ、そうだったのか‥‥‥レオンが」
ヴァレンの話を聞いてレオンがずっと見守っていたのだと知ると、なんだか心がいつもよりも激しく脈動した。私のために‥‥‥私だけのために数日間も‥‥‥
そのことを考えると体が熱くなり、思考がぐるぐると回ってしまう
「あら?レベッカ熱あるの?顔が赤いわ」
「なっ!なんでもない!気のせいだヴァレン!」
顔を覗き込んでくるヴァレンを必死に止めて、深く息をする。
そんなヴァレンとのやりとりを見ていた後輩のアザレアは私を睨むように見ていて‥‥‥
「なんだろう‥‥‥ライバルが増えたような気が‥‥‥匂いがする」
「ん?ライバル?」
と意味の分からない事を言っていたが‥‥‥気のせいだろうか
まあ何より、みんなも無事でいて良かった。
そして、あのレオンの最後の言葉‥‥‥あの真相も聞き出し、あの姿も気になるので後で問い詰めよう。逃げても縛り上げて聞き出すとしようか
◊◊◊
————続々と見舞いの客がやって来たのでレベッカ先輩の病室をそそくさと出ると、廊下に背を預けているファシーノを見つけた。
「———もういいの?とても良い雰囲気だったじゃない」
「タイミングが良いと思ったらファシーノの仕業か。まあ、まさかあの流れになるとは思わなかったな」
「貴方ってもう少し女心を理解した方がいいわよ。それに貴方を好きになってしまう程の地獄は存在しないわ‥‥‥いずれ傷付くのは貴方では無く女性の方なのだから」
「そうだな。こんな俺に好意を寄せてくれているんだ‥‥‥今はまだいいが、この先危険なのは彼女達だ。いずれは俺の正体がバレる。その時の為に憎まれ、嫌われ者になる覚悟はできている。彼女達の中からいずれ俺を恨み、殺しにやってくる者がいるだろうな‥‥‥」
「———そうね。貴方の正体が世界に知れ渡った時、貴方と親しく接していた人たちは一体何人離れていくのでしょうね。きっと全員でしょうけど‥‥‥私達はみんなを騙して利用しているのだからその償いは必ず訪れるわ。私にもね」
————どうやらファシーノは覚悟をしているようだ。裏切られても憎まれてもファシーノは動じないだろうな。俺と一緒にこの道を進んでいる時点で、深く関わった事でもう後戻りはできない。俺と一緒に最後まで、この身朽ちるまで世界に、元友人に憎まれながら戦う。そう思っているに違いない
そして他の者達も同じ考えなのだろう。
将来の職業、両親、兄弟、友人、青春、家族、大切な人
人生のイベントがたくさん存在する中、どれも歩んできた事がない者達。そんな彼らを俺は地獄まで着いてこいなどと言えようか‥‥‥
今も隣を歩いているファシーノ。とても美人でとても可愛くて、とても胸が大きくてとても綺麗なファシーノが俺に最後までついてこようとする。
もし、俺があの時救っていなかったら‥‥‥別な奴がファシーノを救っていたら運命は変わっていた。俺と出逢いさえしなければ彼女もそして他の者達も運命は違っていた。
共に彼女達も地獄に来ることはない‥‥‥俺の地獄行きは確定だが、彼女達は違う。生き延びて、そしてかけがえのない大切な人を見つけてくれればそれでいい。
俺の願いである、俺のような者をなくす為に、幸せで平和な世界をつくる為に、誰も悲しまない世界を‥‥‥
その中にはファシーノ‥‥‥
俺でなくても、彼女達が幸せな未来を手にいられるのなら‥‥‥
俺はいくらでもこの手を汚そう
そして、彼女達の最後の最後の‥‥‥逃げ道‥‥‥幸せな道への一歩はもう用意してある
「———大丈夫だファシーノ。安心して俺に着いてこい」
「———ええ、そうするわ。私の“ネロ様”」
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