対抗戦 開会式

「———さあ、今年もやって参りました!!この学園都市の大目玉!!」


ある男が拡張魔法で声を拡散させ、


「———テオドーラ魔法剣士学園、対抗戦の開催だあぁぁぁあ!!!」


と高らかにその声を発した


「「「———ウオオォォォオオ!!!」」」


何千何万もの歓声が重なり、会場が振動する


「———今回も試合形式はトーナメント戦!そして戦場となる会場は広大な森林が埋め尽くす、模擬演習場!地形を存分に活かし、今回も我々観客を楽しませてくれぇぇ!!!」



———そう‥‥‥遂に始まったのだ。世界中が釘付けになる年1回のお祭り



———学園都市対抗戦の開催だ



「———やだ〜私緊張してきちゃったよ〜‥‥」


「ははは、マイハニー。大丈夫だよ僕がついているからね」


「もう!ダーリンたらぁ!」



‥‥‥横を振り向けば男女の甘い会話が聞こえてくる。更に逆の方を振り向いても同じく男女の甘い会話が聞こえる


「随分とカップルが増えたものね〜」


「ああ、どういう心境なんだ?」


と俺の隣に立つファシーノが辺りを見渡して呟く。俺はそれに乗っかり理解に苦しむ表情をした


「あらあら、嫉妬してるの〜?」


小悪魔のように悪戯笑みで俺の顔を覗き込んでくるファシーノ。ニヤニヤと笑い、俺の返答次第では必ず何か仕掛けてくるに違いないっ!


そう思った俺は何を返さずに斜め上を見上げた


「‥‥‥そう。それがあなたの答えね?」


ファシーノの言葉がとても怖いが今は争うのをやめておこう。なんせ、今俺たちが立っているのは、学園都市の円形闘技場。その最下段に位置する闘技台にいるのだから


周囲180度見渡せば、円形に何十万とぎゅうぎゅうに詰められた圧倒的な観客。

そして同じ目線の横を見渡せば数万の学生達がひしめく


男女、学年関係なしの文字通りの対抗戦。クラスで優勝まで勝ち上がって行くトーナメント戦は運も関係する。初戦から特待生組のSクラスにあたるクラスは残念だが、地形や頭脳を最大限利用したとこで勝てる見込みはないに等しい‥‥‥


まあ、頑張れという事だな



「———さて、今回の対抗戦では数多くの方から出資を頂いております!その中でも、一際目を奪われるお方々が今回、あちらのV I P席に居らっしゃいます!ご紹介いたしましょう!その美貌は数々の男心を癒してきた世界一の大神官‥‥‥アメリ様のご登場だああ!!」


「アメリ様〜!!」


「今日もお美しい〜!!」


大神官アメリ多くの観客が騒めき、歓喜をあげている。そんな大神官様は顔は魔法版で上空に映し出され、その美貌が露わになる


「———皆さんに神の加護があらん事を」



その一言だけで観客の熱は沸騰寸前。金色の髪と金色の瞳が上空に映し出され、手を組んで祈りのポーズをする。あまりの神々しさに膝を崩すもの、目から涙を流すものと大勢いた


しかし、大神官が女性だったとは初めて知ったな。それに初めて見たぞ‥‥‥


「———な、なんと神々しいのでしょう!?直視できませんがしか〜し!続いては人族国の美しき若き女王!ビアンカ・ネーヴェ・チリエージョ様!そしてその護衛として参られた人族軍総司令パエーゼ=プレチーゾ様のご登場だあ!!」


「ビアンカ様〜パエーゾ総司令ぇ〜!!」


「こちらに振り向いて〜!!」


と今度は俺の故郷の王様ビアンカ様か‥‥‥約2年ぶりに見るがより美しくなられた。そして、人族軍総司令パエーゼの登場か


総司令自ら護衛に加わるとは随分と軍も暇になったのだろうか?


いいや、そんな筈はない‥‥‥わざわざ王の護衛といえど、五種族会談でもない限りそうそう出てこないだろう。王自らの選抜となると話は別だが‥‥‥



「———そして最後に世界一の大商会にまで築き上げた若き才能、そして元花魁という異色の経歴の持ち主。パンテーラ=ネーラ商会の最高経営責任者エリーのご登場だあ!!」


「エリー様ぁ〜!」


「ちょっと子供がみちゃだめ!」


「あんたもどこ見ているのよ!」



エリー‥‥‥我ら月下香のNO4の実力を持ち、資金面や財政面を統括管理している信頼できる配下。まさか、来賓として出席していたとは聞いていないぞ?

観客の男も子供も上空に映し出されたエリーの身体に釘付けだ。子供の教育にとても悪いだろうな‥‥‥


それに‥‥‥


「———おいおい、なんて容姿をしてやがるっ」


「ああ、あれは一生に一度は抱きてー身体だっ」


「あれの男は一体どんな男だよ?てか、見合う男なんてどこにいるんだ」


同じ学生である男子からの発言は、それはそれは見事なまでに欲を貫いている

そんな男子達を見ている女子達は軽蔑の眼差しを送り‥‥‥


「男ってほんとキモっ」


と心にダメージを負わせる言葉が投げられる。それも陰ながら、聞こえるか聞こえないかの声量で‥‥‥それが1番堪えるんだよな‥‥‥



「———そしてこの開会式が行われる円形闘技場の魔法版‥‥‥通称モニターでは各世界国に生中継されています!!学生一人一人の勇姿と熱い戦いに目を輝かせている事でしょう!!それは今回ご出席なされなかった各国の王、並びに同盟軍もこの中継を見ています!皆さん全力を持って力を出し切って下さい!それでは解散———!!」



解説者が解散と言った途端に続々と闘技台から降りていく学生達。それについて行くように俺たちAクラスも開催場を後にする


「———なあレオン。トーナメントどこと当たるかな?」


「さあな、Sクラス意外ならどこでもイイんじゃないか?」


不意に人族国の三大貴族であるレオナルドが話しかけてきたが、正直俺はSクラスだろうとなかろうとどこでもいい‥‥‥俺は目立たずに事を終えたいんだ

なのでAクラスの全員に活躍してもらわなければ困る‥‥‥


「———楽しみですねレオン様!絶対的な勝利を踏んでいる愚かな者どもを痛ぶる至高の時間です!」


「あ、ああそうだな」


あのガイ=ヴァンピールなんてもう別人だろうこれは。レオン様?ほんとにびっくりしちゃうよ。隣のレオナルドも若干引いているレベルだぞ?


「———おい、お前に叩きのめされてから大分変わっていないか?何をしたんだレオン‥‥‥」


レオナルドが俺を怪しむが、はっきり言って俺ではないっ!

こいつをここまでしたのは‥‥‥そう、ソッポを向いているそこの君だ!


「———ファシーノどうかしたのか??悩みがあるなら聞くぞ?この俺が」


「べ、別に何もないわっ」


ほほ〜ん。あのファシーノさんが少し動揺しているではないかっ!今まで俺の事を焦らしてきたお礼だ。この後も、たっぷりと可愛がってやろうっ!



「さて、いよいよこの日が来ちまったけど‥‥‥無事に終わるといいなあ」


俺は大勢の学生と共に歩きながらそんなことを呟いて、会場である演習場へと足を運ぶ



◊◊◊



「———まさか、あのエリーさんにこんな間近でお会いできる日が来るなんて夢にも思いませんでした!」


「———何をおっしゃっていますかビアンカ王女。お呼びとあらばいつでも参りますわ」


———と互いに軽く挨拶を済ませた私たち。お隣の王女様はとてもお綺麗な方で、その頭脳明晰な思考から出る戦略は私達、月下香でも苦戦を強いられる程‥‥‥油断大敵


その麗しく赤い口からの話術はたとえ王女でなくともこちらの業界でも十分に通用するやりて‥‥‥そしてその王女を護衛する若く美しい戦士———


「———人族軍総司令パエーゼ=プレチーゾ様もお会いできて光栄です。私の商会を利用して頂き誠に感謝申し上げます」


「———いえ、エリー殿。頭をお上げください‥‥‥私はあくまで軍人。王の盾で御座います」



‥‥‥深々と私に頭を下げるパエーゼ総司令。商会主ごときの私にここまで礼儀を重んじる軍のトップなど初めてお会い致しました。

彼女は所詮王の盾と‥‥‥そんな事を言っていますが、なんと謙遜なお方でしょうか


この世界に5人しか存在しない選ばれし者セレツィオナートで世界最高峰の魔力、可視化できる魔力ヴィズアリタを権限させた世界最強のお方がこうも謙遜なさると、こちらのペースが乱れてしまいますっ


今、私の目の前にいる選ばれし者は私に対して敵意を持っていない‥‥‥それどころか私が女王の首に剣を差し向けても構わないと言った余裕の構え


私は敵にすら思われていない‥‥‥フフフそれで良いのです



私は所詮、裏の者‥‥‥力を隠し、誰にも気付かれず、任務をただ遂行する

それが彼の望みであり、彼が守っているもの


彼の意思に反する行いは、何があろうと死守する


気付かれていない今が、私達の最大の武器‥‥‥



———ああ、ネロ様‥‥‥貴方が恋しくなります‥‥‥


先程の歓声は私の顔とこの身体を見てのもの‥‥‥モニターに映し出されたこの胸を見ていた大勢の男達


やはりどこへ行こうと‥‥‥どんな職に就こうとこの身体がある限り、娼婦の頃と変わらない。ただ、一つ変わったのは彼の温もりだけで十分だという事


この身体を舐め回すような視線の数々を受けても今の私は気にしない

それどころか、この身体を好きにできると思い上がっている経営者や貴族達、そして王族に現実を突き付ける時の感覚が堪りませんっ


『この身体はもうある人の者‥‥‥触ると火傷では済まさないわ?』と言うとみんな揃ってあの屈辱の顔をするのが見ていて興奮してきます‥‥‥



私も悪い女になってしまいました‥‥‥それでも私は今の自分が好きです

彼の為に尽くせるのならどんな悪い女にも成り代わりましょう‥‥‥



————全ては愛するネロ様の為に



◊◊◊



———ここは学園都市、円形闘技場に伸びる一本道。その一本道に多くの屋台が埋め尽くし、大勢の人集りで賑わいを見せていた


そして、その影で動く者達がいた‥‥‥



「———我々の任務は“エリー様”の護衛っ!決して気を抜くな!」


「———はっ」


———そして同士達は影に消えていく。我々月下香の任務はエリー様の護衛‥‥‥そしてファシーノ様の護衛も兼ねている


このミネルバ‥‥‥月下香NO6の座に掛けて必ず任務を遂行する


しかし、私は気になる‥‥‥なぜ、あの最高幹部であり統括者のファシーノ様が学園に通っているのか?


それに我らの真の主ネロ様はどこにおられるのか謎のままだ


月一の月下香総会議に出席するが、その素顔を見たものは1人もいない‥‥‥

最高幹部の五華だけで私達には今まで一度もその素顔を晒したことはない‥‥‥


一体どのような素顔をしているのだろうか?


今では5000人の配下を束ねる存在‥‥‥その至高の頭脳や強さは我々幹部五絢でも図る事はできない


私と同じく獣族?それも猫?もし、そうだとしたならそれはとても喜ばしいことだ!


我らが忠誠を誓うお方と同じ種族だったならどれほど感窮まるのだろう!

この胸が興奮で今でもはちきれそうにっ‥‥‥ハァ‥‥ハァっ‥‥!



「———ミ、ミネルバ様。大丈夫ですか‥‥?」


「———!?だ、大丈夫よ!何も心配いらないわ!」



しまったっ!‥‥‥今の私を部下に見られてしまったっ


なっなんて恥ずかしい


「そっそれよりも貴方たちは任務を続行しなさい!私は少し、あの方のお姿を見てきます」


「———それって‥‥‥」


「ええ、エリー様とファシーノ様よ」


そして私は黒いスーツを華麗に脱いで、一般市民に溶け込む

行き先は学園都市の目玉、対抗戦の中継がなされる円形闘技場


そこへ赴き、エリー様のお姿と、ファシーノ様の勇姿をこの瞳に焼き付けるわ!




———そしてミネルバはその”黒い猫耳”をピクピク反応させながら、円形闘技場へと向かったのだった

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