月下香見参
「———それにしてもなんてあり様だ。森が消滅していないかあれ?」
俺は転移でデリカートの魔力を目当てに来てみたのだが、来た瞬間にあの凄まじいほどの濃密された魔力が目の前に差し掛かってきたので咄嗟に魔力を解放させてしまった
まあ、解放しなければこの国もそして‥‥後ろにいる者達も絶命していただろう。それだけは避けなければならない事だ‥‥‥
———俺は周辺を見渡しながら後ろに振り返った。そこには膝を地につき肩を下ろしながら何が起こったのか分かからず動揺する王達。その側には死を覚悟したにも関わらず生きていることが不思議に思っている護衛の軍人達となんとも面白い光景が広がっている。魂が抜き取られた様な表情をし、この現実に思考が追いついていない様だ
神の如し光が消え数秒程経過した頃、ようやく意識が現実に戻ったのか王や護衛達はハッとした様に目の前に佇む俺一点に視線が集まり出していく
その視線達の中から徐に口を開いたのは数年振りにこうして会う獣王ストレニアの声だった‥‥‥
「———わっ妾は光に呑まれ死ぬはずだった‥‥‥訳が分からぬ。それにその黒き仮面と黒き衣の貴様は忘れもしない‥‥‥ネロ。貴様っ何をした‥‥!?」
「何をした?見ればわかるだろう。それよりもお前達の命を救ったことに感謝して欲しいな」
「なっ———!?」
この獣王めっ!感謝が足りない様だな。頭を抱えて一人でぶつぶつと喋っているかと思えば俺を見るなり獣の怖い顔を向けてきやがって。まあ、今は多めに見てやろう
‥‥‥おっと。後ろにいるのはリコリス王女じゃないか?久しぶりに会ったがより美人になったな。俺と戦ったあの時の体験は生きているようだ。女王と同じく強い目をこちらに向けている。それよりも獣王が“ネロ”という言葉を言った途端周りの空気がやけに重くなったな
どうやら俺の噂は他の者達の耳にしっかりと届いているようだ
「「———魔王様‥‥ご無事ですか!?」」
「ああ、問題ない魔将達よ。それよりも我の国は無事か‥‥‥?」
そう言いながら魔王ルシフェルは魔王城の屋上から自国を見下ろした。城壁は魔獣達によって半壊している
しかし、それ以外の国内は無傷であり国民達も次々に意識を取り戻していった。この予想外の出来事に戸惑いはしたものの無傷の国民と国を目に焼き付けると魔王は安堵する
そして再び正面に視線を戻しネロという人物を捉えるのだった
「———奴がネロという人物か‥‥味方なのか、それとも敵なのか?しかし国を、我らを救った事には変わらぬか‥‥‥それに奴から溢れ出る魔力は‥‥‥底が見えんっ」
‥‥‥なるほど。この露出狂じみている女性が魔王か。黒い翼と尻尾を生やし、スタイルと胸の大きさはエルディートとはれる程だな。こちらの魔王は黒髪か‥‥清楚の様な髪型をしているがその衣装で疑いの余地しか無くなっているぞっ
そして対になる純白の翼を生やしているのがどうやら天族。初めて見るが神々しさを感じる。今この場には3人純白の翼を生やしている者がいるが‥‥なるほどな王はあいつか‥‥‥
「———ミカエル様。我々は一体どうなってっ」
「‥‥‥私たちは助けられたのです。天に召される所をっ不本意ですが感謝しなくてはなりません。あの者がネロということはここ数年の事件は確定しましたっ」
「———王ミカエル様の言う通りですわね。パエーゼからの報告と一致していますわ。なんて禍々しく、全身が高揚する魔力なのでしょう‥‥‥!」
「ビっビアンカ様私の後ろにっ!このパエーゼ・プレチーゾがお守り致します。エミリア、ラツィオ、パーニア!陣形を立てなおす!」
「「「———はっ!」」」
‥‥‥どうやら俺は故郷の人族からは危険視されているようだな。まあ、無理もない一番最初に被害を出したのは紛れもない俺であり、人族国の領土だからな。
しかしこうも身構えられると同じ種族として俺の心が悲しくなってしまう‥‥
もう俺、追放認定されてそうだな‥‥‥
まあ、一方のエルフ族は随分と平静を保っているな。あまり驚かない種族なのだろう?いや、デリカートの性格がおかしいのかもしれない。本来のエルフ族は冷静沈着なのだろうな
「———そうか、奴が獣王の言っていたネロか。先程の光を掻き消したのも奴の魔法か‥‥?おいファルコ‥‥お前はこんな奴と対峙したのか?」
「あ、ああそうだ。ディアナ嬢っ間違いねえあいつだっ!あの時よりも異質差がましているがな!とんだ化け物が現れてくれたぜっ!」
‥‥‥例外も存在したな。このファルコとは以前に戦った事がある。狂うほどの戦闘狂の中の戦闘狂であり、デリカートを暗殺しようとした人物でもある。そしてファルコの口から出た名前‥‥ディアナと呼ばれた女性。彼女がどうやら
またディアナやファルコ、もう二人のエルフのすぐ側に浮遊しているのは‥‥‥
精霊か?
どこまで上位精霊かは計り知れないが国のトップが従える精霊ならば予想はできる。そしてこの場で一番輝かしい白髪を靡かせるこの人物が———
「———お初に御目に掛かりますネロ。私はエルフ族が王レ・アルベロ・デル・モンド・ララノアと申します。そして貴方に一つお伺いしたい‥‥‥」
「王から話しかけてくるとは、話せる範囲ならばお答えしよう」
「ありがとう。では、単刀直入に聞きます‥‥‥精霊女帝ヴァルネラ様を召喚なされたのは貴方ですか?」
‥‥‥なるほど。エルフ王ララノアなかなかに感が良い。その紫色の瞳で俺の心を覗こうとしてくる。エルフ軍であるディアナ、ファルコも共に睨みを効かせてくる
そして王ララノアの問いに場の空気が一層静まり返った。どうやらの俺の答えを待っているのだろう。全員の視線が俺に注がれるがこうも居心地が悪いとはな‥‥しかし、その答えは少し待ってもらおうか
「———なぜお前達が俺だと疑うのかは大体予想できる。その前に‥‥‥‥もう出てきていいぞ」
俺が意味不明に呼ぶと王や護衛達の後方からこちらに向かって歩き出す人物がいた。全員がその人物に視線を投げると動揺し、その顔に驚愕の色を浮かび上がらせる
————コツッ コツッ
と優雅に歩く白いローブを羽織り仮面をつけているその女性はまごうことなき
「———なっ!!その尖った耳、そしてその蒼髪はまさかっ!?」
ファルコが驚きの声をあげる。無論ファルコ以外のエルフ達も目を見開き驚いている。なぜなら彼女は忌み嫌われ、エルフ族の汚点である蒼髪を靡かせ、暗殺対象であった人物
その彼女がまさかこの場に居るなど誰が予想できたかろうか。その驚きようは実に面白く最高だ‥‥‥!
そして俺の前にまで歩いてきた蒼髪のエルフは美しく跪くと耳に透き通る声を響かせる
「———ネロ様。このデリカート心よりお待ちしておりました」
「ああ、良くやったデリカート」
———フハハハハハ!!なんて良い光景だろうか。俺の目の前では跪くデリカートとその後方には驚愕する王や軍人達。そしてデリカートが潜入し同胞である
『まさか我らの同胞を?!』とか『静観を貫いていたが、まさかこうもあっさり潜入されていたとは許せぬっ』
とか言っているが心配には及ばない。デリカートが変装していた本物の
それよりも隣のファシーノに聞かなければいけないことがあった。ずっと沈黙していたしなファシーノさん?
「それとファシーノ他のみんなはそろそろ来るか?」
「———ええ、もう来るわよ」
とファシーノが指を差した先には見知った人物達が佇んでいた。エルフ達はその光景を見るや否や度肝を抜かれ圧倒的支配者の存在に腰が引けていた
無論エルフが使役している精霊までもが全身を震わせ怯えている。圧倒的存在感はどうやら気づかれてしまった様だな‥‥‥
「———う、嘘‥‥この魔力この存在感っ‥‥間違いない。我ら王族が何千年と敬愛し崇めてきた伝説の存在!世界樹を創造した精霊達の真の王‥‥まさか本当に召喚されたなんてっ!?」
「———くっ体が動かない!あの銀髪は書物と同じっ!?ウンディーネ‥‥あのお方が、『ええ、ディアナ。あのお方こそ至高の存在であり私たちの女王‥‥』」
「———なんてことでしょう‥‥まさか本当だったなんてサラちゃん、『ああア、ふっかつなされタ。我らガ王』」
「———ノームっ俺たちはどうすれば良い!?『何も出来ない。これは運命』」
「———シルフの嬢ちゃん‥‥悪いな体がいうこと聞いてくれねえ、『わ、わっ私達は終わりよっ?!もうだめだわっこちらの世界にいるなんて‥‥何でよっ?!こっちに干渉しないって言ったじゃん!?精霊女帝ヴァルネラ様っ!!』」
‥‥‥彼らの名前を聞くなりどうやらかの有名な四大精霊王達なのだろう
しかし、この酷く怯えている精霊王達を見るとこちらが悪者と勘違いしてしまう。いや実際悪者か‥‥‥さて、当の本人はどうするのか‥‥どうやら彼方もエルフ達のことに気づいた様子だが‥‥‥
「———ほう‥‥エルフ共、妾のことを知っているか?貴様等の言う通り妾は精霊女帝ヴァルネラである。それにそこの四大精霊久しいな?今の世界では四大精霊“王”などと言われているではないか?王が四人とは笑えるではないか、なあ?」
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