レベッカの任務
「——そうか。ゼフ討伐の任務ご苦労。天族国は多大なる被害を被ったが我らの王からは『心配いらない』と告げられている。王自ら戦地に赴くなど予想外だったがな‥‥」
と両肘を机に付き、顔の前で手を組む同盟軍の司令達。その表情は安堵し、重い肩を和らげるのに充分な報告だった。
「——それで今回、我々の被害はほぼ無傷と言っていいだろう。湖底監獄での一件以来、極秘魔法部隊の精鋭を何人も失った。だが、まあ‥‥‥お前達がいれば問題ないだろうレベッカ?」
「——はい。私達はこの学園都市が出来る前より特殊な訓練を受け、鋼の肉体と精神に加え魔力を極限に高めた“第3世代”。内に秘める魔力量が第1世代、第2世代とは数倍以上の差があります。何ら問題ないでしょう」
「——フハハっ!第3世代か‥‥!ここ数十年の間で各国は同じ事を実験していたとは驚きよのう。そんな中、世界に歯向かう愚か者共が現れ、我々は事実上の同盟を結んだわけだが‥‥‥」
「「「‥‥‥‥」」」
その言葉を最後に司令達の間で静寂が訪れる。そんな中、私は一人自分自身について改めて考えさせられた。
———私達は所謂“第3世代”の軍人。ここ数百年で各国が最強の兵士を生み出そうと取り組んできた実験。志願ある若く有望な兵士達だけを集め、訓練と人体実験を行ってきた各国だが、その主な目的は戦争。
死なない体、多くの種族を殺す魔法を我が物にしようと上層部は企てていた。
そして月日が流れるにつれ、実験は徐々に完成していき魔法の才能を極限にまで伸ばした完成体が一つの国で生まれた。
だが、その研究結果は忽ち各国に漏洩していき世界中が同じ事を企てた。その後、数十年程でその究極の完成体である“第3世代”が誕生した。
私は現在19の歳だが、第3世代と言われる者達は現在の20代後半から言われている。そしてここ数年で各国は同盟を結び、その第3世代達を一つに纏めたのが
極秘魔法部隊
諜報、暗殺、誘惑、武力、全てをこなせる精鋭部隊。
1番若くして十代の男女が血で手を染める惨忍非道の部隊。
軍内部でこの部隊を知る者は極少数。噂は多く上がるが、皆が一同にして言葉にするのは『化け物』という言葉。敵対勢力を裏で全て排除し、証拠も残さず遂行する冷酷な化け物集団‥‥‥と内部ではそう恐れられている。
数年前までは国同士の戦争のために利用されるはずが、今では同盟軍として悪の組織と対立か‥‥‥時代が徐々に変わっていく。
それも悲しいことに、ここ数年で歪み合っていた国同士は同盟まで結んで、悪の組織を殲滅せんと動いている。
国同士の戦争がなくなり、表では良い方向へと進んでいるのが現状‥‥‥
全く面白い時代に生まれてしまった———
そう考えたら口元を僅かに緩めてしまうな———
「———それでレベッカよ」
静寂が終わりを遂げ、司令の口から私の名前が上がる。
私は気を引き締め、司令の方へと顔をむける。
「———奴の監視は?」
その声はとても重く、冷たい残酷な瞳をしていた。
司令の言う奴の監視‥‥‥それは私の短にいる人物で、とても不思議な彼の事
「はい。命令の通り、部隊へ誘導し私の部下になりました。これで監視も容易くなるでしょう」
私の部下であり、不思議な後輩‥‥‥そうレオンの事だ。何故、私は監視を命令されているのかと言うと、ガイ=ヴァンピールとの決闘で魅せた魔法と戦闘がことの一件だ。
レオンは突然変異の類と称しているが、上層部の軍も研究者もレオンの魔法に一眼置いている。魔法を壊す魔法——対魔法など今まで誰も成し遂げたことはない異形。それを一概の学生、それも何ら情報の少ない少年によって成し遂げられたなど黙ってはいない。
秘密を探り研究する為、私は監視に任命された。そしてこの部隊に引き込めばもう逃げ隠れできない存在になる。
「———そうではない‥‥‥‥“奴をどう感じる”?」
司令達の全員の視線が私に集中する。その圧ときたら、今の私でも恐怖で臆してしまう程に凄まじい。額から汗が流れ、頬を伝う感覚が研ぎ澄まされる。
「———とても不思議な男です。強さは私の足元にも及ばないでしょう。しかし、成長出来る逸材だと私は踏んでいます。いずれ私達と肩を並べる人物になりますでしょう」
「———その根拠は何だ?奴は何かを隠している事に間違いない。敵対するかもしれんぞ」
と一人の司令は言葉を発する。しかし、今の私にはそうは思えなかった。
「———いいえ、それはありません。我らに敵対することはないでしょう。なんせあの人族の英雄——六幻楼と同じ町の幼馴染だと聞きます。同じの町の彼らを裏切る事なないでしょう」
「———ほう、そうであったか。あの人族の若き英雄達と‥‥‥。同じ町の少年少女が共に同じ部隊など面白い話だ。今年の新入生はとても期待できそうだな」
机の報告書を捲りながら、退屈そうに肘をつく。そして最後にこんなことを言い出した
「———あの桜月流の継承者である君なら問題ないだろう。しかし、あの“刀剣”を奪われた罪は末代までその役目を果たしてもらうぞ。桜月流の真の力を発揮できるのはあの刀剣のみ‥‥‥必ず我ら同盟軍が見つけ出してくれる」
「———ああ、なんせあの刀剣は5000年前から伝わる“覇王五剣”の一本」
「———その刃は厄災の龍をも斬ると言われている伝説の代物」
「———しかし、5000年の時が経とうと未だ扱えた者は現れず、ただの鈍と化している」
「———王でさえも掴めば拒まれる伝説の刀剣。5本揃えば世界を物に出来るほどの膨大な魔力を手に入れられるとか」
司令達の言葉は飛び交い、未だに止むことなく交わされる。
私はただじっと司令達の言葉に耳を傾け、時が過ぎ去るのを待つのみ。
この時間もあとどれほど続くかと私は気長に待つ事になる———
「———もうよい、行け。これからも監視を怠るな」
「——はっ」
そして頭を下げ、背を向けて扉の方へと歩いていく。
———バタンッ
と扉を閉めて大きく深呼吸をする。そして長い長い廊下を一歩一歩踏みしめて歩く。
「覇王五剣‥‥‥その刀剣さえ手に入れれば私はさらに高みへと行ける。だが、もし目の前に合ったとして私に扱えるのか?剣は私に力を貸してくれるのだろうか。王達でさえも拒まれていると言うのに今の私では明確だな‥‥‥」
俯きながら廊下を歩いていくと、横を通る軍人達は私を見るや否や頭を下げる。
屈強な男でさえも、プライドが高い男でさえも私に頭を下げていく。
これが現実、実力のあるものは男女も年齢も関係ない。強さこそが正義の世界で私は一体どの場所にいるのか‥‥‥
最強の流派の継承者として私はどの程度なのか、歴代の継承者のなかでどの位のものか
疑問は数多くあるが、一番気になることが一つある。
———なぜ、レオンは私の流派を知っていた?力を見るつもりが何故、レオンは私の剣を避けられた?それも一度対戦したことのあるような避け方を‥‥‥
司令達には報告していない疑問が数多くある。湖底監獄の時も、天族国の時も私の意識が途切れる瞬間にお前は必ず現れる。
そんなに私の事が心配なのか‥‥‥?
私は弱い女に見えているのか‥‥‥?
わからない、レオンの行動も思考も不思議でならない。
「——って妙に体が熱くなってきたな。今日はもう帰って寝るとしよう‥‥‥」
———その後、夢でレオンに会い、色々と大変な事になったのは彼女の秘密——
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