義妹達
———空気が振動し、彼の言葉が私の耳に届く
その時、目にも止まらぬ速さでマイアーレからこの私を奪いとった
「なっ!貴様っ!私を誰だと思っている!?小僧っその女を返せ!」
「そうもいかない。俺はこの人と約束をしてしまったのでね」
彼は私を奪いさるけど、こんな‥‥こんな恥ずかしい格好で抱えられているっ‥‥
恥ずかしいけど女性なら一度は憧れるあのっ‥‥
初めてのお姫様抱っこ
女性の憧れがこんなとこで叶ってしまうなんてっ
彼の仮面の横顔であっても、今の私の顔はどうなっているのかしら‥‥
生あたたかい波に揺られているような‥‥顔が火照り吸い込まれそうな感覚が襲った
◊◊◊
「———貴様っ‥‥約束ならばワシの方が先だっ!くそっこうなれば仕方ない‥‥”先生”お願いしますっ!」
マイアーレは天井を見上げ誰かを呼ぶ。その視線の先にいたのは天井に仁王立ちしている一人の老人の姿
まるで蝙蝠のようにぶら下がり、こちらを見据えている
「ほう。なかなかいい目を持つ少年だ。殺しておくには惜しい人材。どれ、そこの女性を返してもらうぞ少年」
「どうやってこの俺から奪うつもりなんだ?爺さん」
「ほっほっほ。傲慢じゃな。全く若い者は良い。どれ手本を見せてやろう」
「手本とはまた親切じゃないか爺さ——っ!?」
「———いい手本だろ?」
俺が話している最中、爺さんの姿が一瞬見えなくなり気配を探ろうとした時には俺の両腕からエリーが消えていた
俺は爺さんの姿が捉えられず辺りを見渡すとマイアーレのすぐ隣に立ち、そしてエリーは爺さんに腕を掴まれ手錠を掛けられていた
「———なはしてっ!」
「暴れなさんなお嬢さん。なに悪いようにはせんよ」
「おい!どうやって俺から奪った!」
俺は爺さんに噛み付く様に問い掛けた。爺さんは満面の笑顔でこちらに振り返りその口を動かす
「知りたいか少年?残念だが教えられん。さて、そろそろ行くとしようマイアーレ殿」
「———はっはい!」
するとマイアーレが内ポケットから丸い何かを取り出し、俺に見せびらかす
「これがなんだか分かるか小僧?これはな、こうするんだっ!」
マイアーレが勢いよく地面に丸い何かを投げ付けると激しい閃光が目を焼き付けた。光で視界が遮られる中、彼女の発した声は俺の耳にしっかりと届く
『助けて‥‥』という彼女の最後の言葉
「———くそっ!前が見えない‥‥」
視力が回復した頃には目の前から三人は消えていた
(やられた‥‥閃光弾を使うとは‥‥)
外に待ち伏せしているファシーノ達に念話し情報を聞き出す
「———ファシーノ。そっちはどうだ」
「———こっちに黒い人影が物凄いスピードで去って行ったから、今三人で追いかけているわっ」
「よし。そのまま三人で尾行してくれ。俺もすぐに向かう」
「「「了解」」」
連絡を取り終え、連れ去られたエリーを奪うため移動しようとした時、大勢の娼婦が俺に詰め寄ってくる。道を閉ざされた俺がとった行動はというと‥‥‥
「あんた‥‥姉さんのこと追うんだろう?」
「‥‥そうだ」
俺はそんな娼婦の質問に率直に返す。と次は別の娼婦に話しかけられる
「ふ〜ん。君、私たちと同じくらいだね。どこかでこのくらいの少年を見たことがあるんだけど‥‥」
一人の娼婦が何かを呟き、頭を悩ませていると突然「あっ!」などと大声を上げて俺に詰め寄ってきた
「君!闘技場の少年でしょっ!姉さんと戦って勝った人!」
その瞬間、周りの娼婦達が反応し、俺は壁に追いやられてしまった
「お前か!お姉さまの邪魔をしたのは?!」
「———おいおい!少し落ち着け!約束したんだ‥‥俺はあの人を助けると」
俺の発言に娼婦の人たちは目を開き驚くがそれも束の間、すぐに怒りを露わに迫ってくる
「なにっ!?こいつがそうなのか?!」
「こいつのせいで姉御はこんな目に‥‥!」
「———やめなっ!お前達!」
そこに女性の高い声が響き渡る。その声に怯えたのか娼婦達はビクンと反応した
その声の主はエリーと同い歳くらいの背格好で金髪の誰が見ても美人。
エリーがいなければこの人が花魁だろう美しさの凄まじい女性
そんな女性が俺の目の前まで優雅に歩いてきて、口を開く
「———お前はエリーをどうする気だ?あの子をまた利用する気なのかい?」
強い口調、鋭い視線で睨みつけてくる彼女。
そんな視線を俺は目を背けず仮面の奥の瞳で見返した
「利用だと?そんなことに興味はない。彼女に助けを求められたから動く。それだけだ‥‥‥」
二人の鋭い視線が周囲の空気を変える。重い空気を避けるように娼婦達は少し離れたところから見守っていた
数秒の沈黙の後、彼女の方から赤く艶のある口を開き、
「そうか‥‥なら頼むっ!エリーを救ってやってくれっ!」
瞬間、彼女は勢いよく頭を地面につけ土下座をした
「———なにをするかと思えば、頭を上げてくれ」
俺は頭を下げる彼女を見てむず痒い気持ちになり頭を上げるよう促しても聞く耳を持たない
「良いや‥‥こうさせてくれ。あの子と戦ったんだろう?エリーから何か聞いたはずだ。仮面の奥の瞳を見れば分かる‥‥そしてエリーの顔を見て確信した‥‥」
「ちょっと”リリー”!やめなさいよ!男に頭を下げるなんて!」
「ほんとよ!リリーがなんで頭を下げるの?!」
「どうしちゃったのよ!?」
少し離れたところで見守っていた娼婦達が彼女のことをリリーと呼び、そんなリリーの姿に驚きを隠せずに叫んだ。それを聞いたリリーは彼女達に振り返り怒声を浴びせる
「———お前達は!あのエリーの顔を見なかったのか?!この男に抱えられたエリーの表情をっ!エリーは普段絶対に笑顔を見せない、どんな男にも常に作り笑いを貫く‥‥そんなエリーがこの男だけには本当の素顔で微笑んだっ!エリーが初めて心許した男を私たちが止められるかっ!馬鹿共っ!」
「「「うっ‥‥‥」」」
娼婦達はリリーの怒声と反論に押し黙ってしまう。誰もが言葉を発せず、また誰もが嫌な表情ひとつしない。きっと彼女達も思っていたのだろう‥‥そうでなければ押し黙らないはずだ‥‥
「‥‥行かせてくれるのか?」
「ああ、いってくれ‥‥そしてエリーを救ってくれ。頼むっ‥‥」
リリーはもう一度深々と頭を下げる。すると周りの娼婦達もリリーに続いて頭を下げ出した。全員がエリーを連れ帰って欲しいと思っているようだ
こんなに大勢の期待を持つのは初めてだな‥‥
「———ああ。必ず君たちの元へと届ける」
そう言い残し、俺は娼館から月が輝く空へと飛び立った
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