対抗戦 強者と弱者
「———さあ、続いては第10試合!1A対1Cクラスの学年同士の因縁の戦い!!圧倒的差のある、AクラスとCクラスだが、どちらが勝つかはまだわからないぞお!!?」
「いけぇ〜!Cクラスぅ!!!」
「俺らに奇跡を見せてくれ〜!!!」
「お前らに託したぞCクラス代表ぉ〜!!!」
だだっ広い待合室で一所懸命に応援するCクラスの諸君。確か、Cクラスだけで、1000人を悠に超える人数だったはずだが、ここにいる数名はどうやら補欠なのだろう。流石に数千人もこのだだっ広い待合室と言えど入りきらないしな‥‥‥
まあ、今回俺とファシーノは欠席だ。レオナルドとガイ、それにその他のメンバーで心配いらないだろう。ガイとレオナルドはああ見えて、実はめちゃくちゃ強い部類だから‥‥
魔族帝国の七つの大罪の1人、シン=ヴァンピールの息子ガイと
人族国三大貴族の長男レオナルドの彼らがいれば何ら問題ない‥‥‥はず
「始まったな。まあ負けることはないだろう」
「‥‥‥」
「どうしたファシーノ?」
「‥‥‥ない」
「へ‥‥‥?」
「‥‥‥許さない」
なんだかファシーノから負のオーラがダダ漏れになっている‥‥‥小声で何かを呟いている‥‥‥とても怖く、とても冷たく凍える空気。彼女は機嫌が相当悪いようだ‥‥‥理由が分かるのがまた辛いな、、、
「———我らの主をあろうことか侮辱し、蔑んだ愚かで浅はかな行為。きっと私ではなく別の者なら即刻その首刎ねていたわっ。斬り刻み、死ぬ事の無い苦痛を無限の時で味合わせてやろう‥‥‥っ」
こうなったらファシーノは何処までも噛み付く癖があるからな
こうなっては仕方ない‥‥‥
「ファシーノ。何故、お前が怒りを露わにする?俺がいつ虫風情に怒る弱者になった?」
「———っ!?もっ申し訳ありません。このファシーノの無礼をお許しください‥‥‥」
「ああ、許そう」
ふう、どうにか制御出来たみたいだ。あのままだったら他の学生達も巻き込まれてしまっていた。忠誠心は素晴らしいのだが、行きすぎた物とやらも場合によっては己と他者を傷つけてしまう。
まあ、そうなった時は俺が止めてやらねばな。部下の後始末も、失態も全ては上に立つ者の責任だ
「さて、レオナルド達は大丈夫だろうか」
◊◊◊
「ガイ!お前はそっちを頼む!」
「黙れ人族!お前に指図される覚えはない!!」
「もう〜2人とも喧嘩はやめなよ〜。男はいつもこうだわ」
———森を駆ける5人の姿と、それを追うもう5人の姿。
逃げ回る5人を追う、Aクラスの5人。森を自由自在に駆け回り、木々に乗り移り、変幻自在にその姿を消す。そんな5人をレオナルドとガイは非常に苛立っていた。
戦いもせず、ただ逃げ回る1Cクラスの5人をもう何十分も追いかけ回し、未だに捉えられない事に‥‥
「———くそ!あいつら俺達を分断するつもりだ!」
「だからなんだという!このガイ様に命令できるのはレオン様だけだ!!」
「———なっ!?ガイお前何処へ行く!?」
———ガイは1Cクラスの1人が離れたので、そのまま追う形で俺らから離れていく。全く、自分勝手なところは全く変わっていないな!
それに、他の4人もバラバラに解散していく。やはり俺達を引き離し、一人一人と戦うようだ。俺たちも舐められたものだ‥‥‥一対一なら勝機があると思われているとは‥‥!
「俺たちもそれぞれ奴らの跡を追うぞ!」
「「「はいっ!」」」
そうして俺たちはそれぞれに別れて跡を追う。俺が今追っている奴は髪の長さからして女性。森林を駆け巡る身のこなしと、木々を飛び回る脚力は大した者だと感心していると
、彼女は地面に着地した
少し木々の開けたところで彼女は俺を見ると、不意に話しかけてくる
「ここでいいでしょう。さあ、剣を抜きなさい三大貴族!」
「俺の事を知っているのか?どうやら俺と同じく人族と、それはありがたいな」
「ええ!あなた達には理解できないわ!弱者の気持ちなんかね!」
—————キィィィィン!!!
といきなり剣で斬りかかってくる彼女。だが、その剣は今まで戦ってきたどの剣よりも脆く感じた。
「弱者ね‥‥‥そういうお前は俺が強者に見えるという事か?」
俺は何度も向かってくる彼女の剣を受け流しながら話す。すると彼女の剣は次第に勢いを増し、感情が剣に乗り始めた
「ええ!私達弱者を嘲笑う下劣な強者よ!魔力が少ないだけで差別し、上級魔法も中級魔法も使えない私達を馬鹿にする!やっと何年も頑張って努力して学園に入学できたのにあんまりじゃない!!」
「そうか‥‥‥君たちにはそう見えていたのか。それはすまなかったな三大貴族の長男として謝罪しよう」
「今更何を言っても私達の受けた仕打ちは覆らない!————初級魔法 火槍!」
彼女の放った魔法は俺めがけて真っ直ぐに突き進む。俺はその魔法を避ける事はせずに、両手に握る剣を力強く振り下ろす—————
—————スパっ
「————まっ魔法を斬った!?そんな事がっ!?」
俺が魔法を斬った事で酷く驚いている彼女。そんな彼女の驚きようは昔の俺を見ているようだ‥‥‥
入学式の日、あの当時の俺は強かった。同じ1学年の中では一桁に入る程に、それに俺は人族国の三大貴族。敵なしで誰もが俺のいうことを聞いていたな‥‥‥当時は天狗も良いところ。
レオンに戦いを挑んでから俺の人生が変わったっけな‥‥‥今に思えば懐かしい。そして目の前で驚く彼女は魔力も地位も違えど、当時の俺と何処か似ている‥‥‥
「魔法を斬るなんて信じらんないよな。俺も昔は信じなかったさ。だけど、魔力が1000という低さにありながら、この俺を2回も圧倒的な実力で倒した男がいるんだよ」
「まっ魔力が1000!?私よりも低い奴がどうやって?!ありえないわ、そんな冗談誰が信じるというの?!分かり合えるなんて思わないで!————初級魔法 風斬り」
やはり、信じようとはしない。それでも俺は彼女をこのままにはできないと感じた。何度も初級魔法を放ってくるが、そのどれも全て斬り伏せていく
そして、彼女の側まで歩いて近づいていくと酷く怯えて、恐怖していた
「————こ、来ないでよ化け物!!」
‥‥‥‥化け物か。俺が化け物だと彼女は思っている。この俺でさえも彼女には化け物に見えているのか‥‥‥
「ははは、俺なんて化け物でもなんでもない。本物の化け物という奴を知らないからそう言えるんだ‥‥‥‥」
そして、俺は足腰が弱く立てなくなっている彼女の近くで真実を話しだす
「レオン‥‥‥この男の名前を知っているだろう?彼が魔力1000の持ち主だよ」
そう言うと彼女の瞳が大きく見開かれ、真っ暗な瞳の奥に光が灯る
「あ、あのガイ=ヴァンピールの配下と決闘して圧倒的に不利な戦力差で勝利したレオンさん!?か、彼が魔力1000なんてありえないわ!あのSクラスの人達と対等で話していると言うのに?!」
「ああ、そうだよ。ほんと理解できないよな。魔力1000なのに剣技と剣術だけで、Aクラスに来てさ。誰もが相応しくないと思っていたけど、今では尊敬している。小さな魔力を戦略的に剣技に乗せて戦う。彼の、レオンの洗練された剣は派手さも、魅力もなく余りにも“普通”なのにさ、努力の賜物なのだろう。俺も努力してきたが、レオンの努力は俺の想像を超えているだろうな」
俺は空を見上げながら語る。木々の隙間から差し込む陽の光を浴びながら、彼女に対して俺の思いを‥‥‥
「そう、なのね。だけど、私だって努力したわ。血が滲む努力を‥‥!それでも駄目だった‥‥‥一体どうすれば良いの。どうすれば力を手に入れられるの」
「そうだな‥‥‥俺も知りたい。どうすれば力を手に入れられるのかを。どうすればそこまで考えや視野を広げられるのかを。俺もまだまだ努力が足りない」
「そう‥‥‥‥貴方でも努力が足りないのね。なんだか、少しスッキリした気がする」
そうして彼女は地面から腰を上げて、足についた土をはらい‥‥‥‥
「私の負けよ。貴方みたいな人が強者でいて良かった。ありがとう」
——————ピィィィィ!!!
そして試合終了の鐘が鳴り響いた
◊◊◊
「なんだか、ヒヤッとしたけど結果オーライだな」
「ええそうね。貴方がいなかったら彼らはもっと注目されていた事でしょうね」
「なかなかキツイ言葉を言うなよ。俺は平穏に過ごしたいのに、なんでこうなったか」
Aクラスの試合が終わり、一段落ついていたが次の第11試合は1S対3Aクラス。待合室も徐々に人集りでいっぱいに埋め尽くされていく。ほとんどの全員が1Sクラスを見に押し寄せてきている。
俺とファシーノはそんな人集りを抜けて真逆の方向へと歩いていく。もちろん、人混みが嫌いなためだ。あんなところにいては息が詰まってしまう。
そんなこんなで逆方向に歩いていくと、彼ら1Sクラスが前から歩いてきた。生憎、前からと言っても斜め前からといった方が良い。大勢の学生が彼らを取り囲んで尊敬と期待の眼差しを向けている
1Sクラス、アザレア達もそれに応えるように堂々と胸を張り、一歩一歩確実に歩く。
その中で俺は気になる人物‥‥‥‥天族を発見する。彼女は夏季休暇の際に一度会っている。ゼフを捕まえるために天族国に行った時に。
その時の彼女はフードを被り、殺戮兵器と同族から恐れられていたが、その原因となる魔法を俺が奪い去った。命を刈り取る最悪の魔法を奪われた彼女は自由になった。ネックレスの呪いもろとも、彼女に心を取り戻した。
それから学園でも何度か見るが、特に変わった様子はなくアザレア達と毎日楽しそうに会話している。
「“デボラ”?そうだったわね、貴方あそこで彼女の魔法を奪ったものね」
「ああ、あれから彼女はどうしていたのかと気になってね」
「ふふ、大丈夫よ。貴方のおかげで彼女は殺戮兵器ではなくただの女の子になったわ。魔法を奪われたからと言って魔力はそのまま健在なようね。それに天族長から随分と憎まれているようね?」
「そうか、それは良かった。天族長は無理もないだろう。目の前で師の首を刎ねたのだからな」
————そう、あの時はそうするしかなかった‥‥‥彼のゼフの最後の願いがそれだったのだから。自身を止められる者に止めてほしかったのかもしれない。男が命をかけて復讐するときは、愛する者の為と決まっているのかもしれない。そう、思う程にゼフは芯を貫き通した
そして、その希望は彼女に、デボラに託された。ゼフがデボラの顔を見た時、ゼフの表情が変わったのを見逃さなかった。きっと何か思うところがあったのだろう‥‥‥
「‥‥‥」
俺は逆方向に歩くデボラを目で追う。すると、デボラはピタッと止まって俺の方へと視線を向けた。互いの視線と視線が交差し、デボラは瞳を大きく開いていく
しかし、2人の間に人集りが押し寄せ交差していた視線が途切れる
「まさかな、流石に気付けはしないさ」
そのまま俺とファシーノは何事もなかったように待合室を出て行く
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