救出
———ここは屋敷内部の舞宴会広間
暗闇が埋め尽くす広間にて優雅に立ち構えている老人と床に血を撒き散らかし倒れている少年がいた
少年は体に深い傷を負い、右腕の肘から下部分が存在していなかった
瀕死ではあるが微かに息がある少年を老人はその細い目で見つめる
「まだ息があるか少年。しかし、その命も後僅かよもやこのような運命になってしまうとは酔狂な世だ。貴様の仲間も一緒にそちらへ手向けよう」
そうバッコスは血を流す少年に向けて語る
杖から抜いた刀を鞘に納め、背を向けて庭の方へと歩き出した
その時、ピエロの仮面をした男が暗闇の中から姿を現し、バッコスの前に跪く
「——バッコス様。例のサンプルを手に入れました」
そんなピエロにバッコスは満悦した表情で話しかける
「よくやった、ピピストよ。すぐにここを離れよ。片付けるぞ」
「———はっ」
深々と頭を下げるピピスト。しかしバッコスの後ろで倒れている少年に違和感を覚え、問いかけた
「バッコス様。後ろの少年は‥‥」
「———この少年は検体を助け出すために来た者よ。まあ、なかなか腕はあり惜しい存在だが、我らに歯向かったのが運の尽き。抜刀と共に斬り捨てた」
「さ、左様でございますか‥‥」
事の経緯を聞くピピストはこの少年にやはり見覚えがあり、記憶を遡る
あれは‥‥半年前、エルフ大国での奴隷売買をしていた頃———
———ピピストは組織の命により、奴隷を使いある実験を行っていた
奴隷を集め、売り捌き、また奴隷を入手する。そんな事が数年続いたが、ある日を境に欠落した
———蒼髪のエルフが持ち込まれた時のことを今でも覚えている
とても珍しく、エルフから忌嫌われる存在がやってきた
エルフの貴族からは絶大の人気を誇り、積もる鬱憤を蒼髪目掛けて罵倒や物を投げる行為をしていた
それから3年ほど経ち、軍が嗅ぎ回っている事が耳に入りオークションも最後の日を迎える準備をしていた
そして最後のオークションの夜、軍の部隊が突入してきた
それも部隊の中では最強と称される部隊
ファルコ・グリージョ率いる特魔部隊が貴族や闇商会などを捉えて行く一方でピピストはずらかろうとしていた
その合間に目にしたのが仮面を付ける少年の姿。ファルコ・グリージョと相対している異様な少年
その後ピピストは部隊に追われるが何とか逃げ切り、今に至る
半年前の記憶を遡っていたピピストは意識を現在に戻す———
(‥‥あの後、少年はどうなったと思ったがまさか生きていたとは。どうやってあのファルコ・グリージョから逃げ切れたのかは謎だが、もう良い。すぐにその意識は遠のくだろう。相手が悪かったな)
片膝をついたままのピピストは少年が惨めに思えていた
惨めに思えていたがそれは単なる現状での一瞬の感情に過ぎない
直ぐに視線を外し、片膝を地面から離し立ち上がった
ピピストが立ち上がると同時に、暗闇に隠れていたマイアーレが姿を現す
恐る恐る近寄ってくるマイアーレはバッコスにこう話す、
「あ、あのバッコス様。例の件は済んだので‥‥?エリーは私目のものと言う事でしたが‥‥」
「ああ、もう要は済んだ。あとは好きにして良いぞ。外の輩を片付けてからここを離れる」
そして三人の姿は広間から消えていった
◊◊◊
「ハァ‥‥ハァ‥‥ ここですかっ」
ファシーノ達と別れたデリカートは屋敷を抜け、裏庭に到着していた
広い裏庭を奥へと進み、目の前には小さな小屋が現れた
警戒心を抱き、扉に手を掛ける。ゆっくりと扉を押し開け小屋の中へと入る
小屋の中へと入ると、一人の女性が台の上に仰向けで倒れていた
「このお方ですね‥‥っ!これは‥‥」
デリカートはエリーを見つけ気絶しているのを確認する
側まで近づくと片腕に血を抜かれていたと思われる器具が刺さっていたのを目にした。辺りにエリー以外の人物がいたと思われるが気配がないのを確認して急いで器具を外していく‥‥
「‥‥これでよし。あとはネロ様に‥‥」
デリカートは役目を果たし、ネロに念話をしようと試みる
しかし
(ネロ様が無事では無かったら)と考えると心が乱れてしまう
デリカートは震える体を無理やり抑え込み、ネロが無事である事を信じて再度念話を試みるのだった
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