調停者


「ば、馬鹿な!!そんなことがあり得るか!!」


一同が驚愕する中、エルフ軍総司令でありSSSランクのディアナが怒声と共に睨み、女王に向かって食い掛か狩ろうとする


「落ち着きないさい、ディアナ」


「し、しかし、ララノア様!我らが崇拝するヴァルネラ様を汚したのです。そんなことが‥‥そんなことがあり得るはずがない‥‥」


ディアナは王ララノアに制止され悔しそうに歯を食いしばる。なぜかその表情は現実を突きつけられた時のように酷い表情をしている。


そして王ララノアが獣王ストレニアに証拠の有無を促した


「私も信用できないわよ、獣王ストレニア。証拠はあるのかしら?」


「証拠か‥‥そうだな、それはそちらが一番知っているはずだが?2年前エルフ大国で混乱が起きた事件を覚えているだろう」


「ええ、精霊達が国全土で一斉に出現したあの事件よね。知っているわ。それがどうしたというの?」


どうやら真実を知らない王ララノアは頭に疑問符を浮かべていた。なぜ知らないのか?と獣王ストレニアも混乱するが、そこにディアナが割り込み意を決したかのような表情を作ると、王に真実を語り出した‥‥‥


「———王ララノア様、申し訳ございません。2年前の事件の報告は半分が虚言でした。真実は‥‥私も認めたくもありませんが、精霊達がなぜ急に姿を現したのか?それは“精霊女帝ヴァルネラ様”がこの世界に姿を現したからです。その際に我らが契約する精霊王も姿を現し一同にこう言いました。『ヴァルネラ様が召喚された』と、認めたくありませんが精霊王達の怯え方からして真実なのだと確信した我々は早急に捜査を開始しました。しかし、月日がいくら経とうとも一向に情報が見つからず、気づけば2年の歳月が過ぎていました。そして今まさに獣王が申した事実。2年間も全く情報が掴めずにいた時にこうして語られる情報はもう‥‥覚悟を決めなくばなりません」


「——え?しょ、召喚されたですって?!‥‥何故黙っていたのかはこの際どうでもいいわ。それよりも“誰がヴァルネラ様を召喚したかよ。エルフ族にしかできない精霊召喚を一体誰が。ディアナでさえ召喚できなかったヴァルネラ様をどうやって‥‥‥」


王ララノアは複雑な表情を作り奥歯を噛み締める。思考を巡らせても一向に答えには辿り着かず全身に冷や汗が浮き始める。

ディアナはそんな王ララノアを申し訳なさそうに見詰めていた


なぜディアナは王ララノアに報告をしていなかったのか?

それには理由があった‥‥‥



———世界樹に住み5000年もの歳月を守り抜いてきた王族のララノア。そんな彼女が精霊女帝ヴァルネラをどのように慕っているかは想像できる。エルフの王族は5000年間ヴァルネラを召喚するのにあらゆる方法を行使してきた


しかし、全てうまくいかず途方に暮れていた時、最年少でSSSランクに上り詰めたディアナにその矛先が向けられた。ディアナならば召喚できると期待したがそれも報われずして終わり、諦めかけていた。そんな時に突如として現れた異変と蒼髪エルフの特異点。精霊達が一同に姿を現しては酷く怯え震え上がる現象‥‥‥


そして精霊王達から発せられる至高の存在。さらにエルフに於いて最も忌むべき対象の暗殺失敗


それらを報告することは容易いことだった

しかしここでディアナは考えてしまった


『———この世で、私の魔力でさえ召喚できないヴァルネラ様を召喚できるエルフはこの世にはいない。しかし、あの蒼髪のエルフ暗殺失敗とヴァルネラ様の召喚が引っかかる。もし、もしだとしたのなら、これはエルフにとっての最大の汚点である‥‥‥』と


それから何年も捜索し続けてなお、情報は0に等しく虚言だと噂されていた事が獣王の発言によって真実へと変わった


そして獣王ストレニアから新たな情報を全員が耳にする


「———また、もう一つの勢力が介入していた。彼らは『バラトロ』と名乗り幹部らしき人物はオリュンポス十二神ディオ・クレアートの一人バッコスと名乗っていた。あの人物と対峙して実感したが、あの者の殺気は全身に戦慄を覚えた‥‥‥恥ずかしい話だが妾とバッコスと名乗る者は五分と言ったところだろう。それ程に妾はあの場で臆してしまった。そしてオリュンポス十二神ディオ・クレアートと言うことはバッコス以外に11人はいる事になる。あのバッコスと同格かそれ以上の者が11人。今まで表に姿を表さず、裏で密かにその時を待ち続け、今ようやく姿を現したのだろう。あの者達が一体何を企んでいるのか分からぬが、これだけは分かる————世界の均衡が崩れかけていると、な」


獣王ストレニアの新たな情報を一言も話さず真剣に聞いていた王達。そして一同に驚く各国の護衛達。あの獣王が臆した敵が他に11人もいるだろう予測


SSSランクの存在と証明が覆される事件。これは紛れもない世界に対しての敵対勢力であるのは紛れもない事実であった


そこに獣王の話を聞いていた天族長ミカエルはその美しい瞳を獣王に向けて語り出した


「———では、そのバッコスという者を誰が始末したのですか?聞いていれば獣王、あなたではないですね?最初から話をまとめるとあの“少年と言う事になりますわ」


「左様、妾ではない。あのバッコスを一振りで断罪した者は例の少年だ」


獣王は一度言葉を飲み込むと一瞬の間が室内に流れる。そして再度、心に引き締め飲み込んだ言葉を吐いた


「———少年は可視化できる魔力ヴィズアリタを周辺に放出するとその魔力で黒い剣を創造し、バッコスを一振りで亡き者にした。少年の魔法は黒い斬撃を生み、山を斬り、大地を斬り、空を斬り伏せたのだ。それはまさに黒い壁であり、この世界を二つに隔てた‥‥妾はこの両目でしかと凝視したぞ。虚言ではないとここに誓おう」


獣王ストレニアの語った真実は各国の王達を驚かせ、混乱の渦を巻き起こす


「———魔族帝国では何も確認されなかったが‥‥まさかそんな事があったとは。これは由々しき事態である」


「ええ、これは我々エルフだけではなく五種族の異存を掛けた事態ですわ。そして世界の均衡を揺るがす存在と勢力が今こうして表に姿を現してきている——」


「それに個人が保有する魔力量は限度があります。それはSSSランクが最高峰の魔力を持つにも関わらず、少年の魔法、魔力は余りにも異質です。月下香なる組織とバラトロと名乗る組織が同じ勢力ではないだけありがたい事ですが‥‥天族長の立場から申すに世界の均衡を正さねばなりません」


「その通りですわ。現在、我々は戦争を一時休戦していますが、これは休戦と言う言葉では済みそうにありません。国を滅ぼす勢力が世界の表に現れたとなると、我々王は国民を守る義務があり、世界の情勢を正す定めがあります。ここは一重に協力しましょう」


五種族の王達は互いに視線を重ね合い一同に頷いた


そしてこの5000年間で初めて同じ目的に対象が重なり合い、王達が協力した瞬間でもある。書面のようなものを渡し合い、次々にサインを書き込んでゆく王達


そして魔族帝国の魔王ルシフェルはその書面をある人物達に渡す


「———調停者アルビトよ。我らは対象を打破する時まで共に協力し合う事をここに誓おう」


魔王ルシフェルが調停者アルビトと呼ぶ存在。仮面を付け、白いローブとフードを被る者達。それは王達が私利私欲を阻止するために定めた協会。全階級制定協会の現トップたる集団。世界の均衡を保ち、各国の戦争や紛争を監視し、情勢を見定め世界を正しく裁き、審判を下す3人の存在


そしてそのうちの一人である“彼女”はローブの影から笑みを浮かべ、その書面を丁重に受け取ったのだった


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