新たな仲間を求めて

———今現在、時刻は夜の10時を下回る。昼の騒ぎが止み、町の人々は家にいる。俺はこれからエルフの国へ行くための準備をしている。もちろんファシーノも一緒だ。しばらくはこの町ともお別れだな


「ファシーノ、準備は澄んだか?」


「いつでも行けるわ」


部屋の電気を消し荷物を背負い、いざ扉に手をかけた瞬間——



———行ってらっしゃい———



ハッと振り向き、家の中から声が聞こえたような気がした。

しかし誰もいない、が不思議と懐かしさを覚える‥‥


「行ってきます」


家に背を向き、歩きながら一人で呟く。

不思議に思ったファシーノが『どうしたの?』と聞いてきたが、

何でもないとだけ言い返す


「ファシーノ、夜は魔獣が活発になる。鍛えるのに丁度良いぞ?」


「ねえ‥‥‥あなたの物差し基準で測らないでもらえるかしら?」


彼女は微笑みながら聞いてくる。きっとこの旅が楽しいのだろう。


そういえば最初の目的を片付けなければな‥‥今から昨夜使用した魔法の産物を片付けに行くか。無論、ファシーノには事前に説明してある。 


俺たちは辺り一体を見渡せるほどの高い木に登った 丁度、枝分かれして座れるところにカバンを置き、ある物を取り出す。


「ファシーノこのマスクをつけろ」


カバンからマスクを二つ取り出した。仮面舞踏会などでよく使用する形だ。


どこから待って来たかは家の倉庫を漁っていたら何と、運悪く、残念なことに見つけてしまったからだ。なかなか良かったのでこうして利用しているわけだ。


「‥‥‥こういうのが貴方の趣味なの?そう‥‥こういうのが良いのね‥‥」


ファシーノは何やら後ろで一人ぶつぶつと言っているが、気にしない


「よし、初任務だ。気合入れて行くぞ」


「——ヴァベーネ——」


ファシーノが発声した刹那、木の上から飛び降りた。  

俺が使用した魔法の産物周辺では軍が野営をしていた。


こんな夜中でも調査をしているとは勤勉だな。全く感心する。

まあ、俺が全ての元凶なのだが‥‥



———地面に着した瞬間、大地を猛スピードで走る。草木が揺れ、砂埃がたち、足サイズの陥没がいくつもできる。ギリギリ人の目で見えるかの速度。しっかりと後ろにファシーノもついて来ている。中々見込みがありそうだ。


そのスピードを維持したまま、軍の野営地に到着する。


「「な、何者だッ?!」」


数名の軍人がこちらに気付いた。剣を向ける者、魔法を向ける者と俺とファシーノは囲まれていた。さすがは軍だな、こんなにも早く囲まれるとは‥‥

するとこの野営地で一番階級が上と思われる女性が前に出て来た


「私は人族魔法剣士軍所属、中隊長ディア・ロンバル。階級はAランク」


ほう?軍人だというのに、とてもスレンダー だな。無駄な肉が削ぎ落とされているのか。


「これはこれは、お初に御目に掛かる。私は『ネロ』と言う。安心して欲しい、別に軍と喧嘩をしに来たわけではない」



◊◊◊



———怪しい人物を睨みながら私は警戒する

———私ことディアは考えていた。この男‥‥子供か?身長が低いな、それに隣の子は女ではないか?怪しい、こんな夜中に子供だけで森を彷徨うなど自殺に等しい。


私は怪しみながら質問する


「———貴様らは何者だ?」


「何者?か、まだ教えられないな。まだその時ではないかもしれないぞ?」


仮面の下で不気味に笑う少年に畏怖を感じる。軍で鍛えられた野性の感が伝える。こいつは危険だと私の本能が呼びかける


すぐさま剣を抜き自身の最高の魔法を放った


蝶の風舞ファルファッラ・ヴェント!」


私の魔法は上級魔法。この魔法で現在のAランクまで上り詰めたに等しい。風が蝶の形を造り、羽ばたき、鋭い刃のごとく襲い掛かる———



◊◊◊



「——ファシーノ下がっていろ。俺の魔力の使い方を見ておけ——グラヴィタ」


ファシーノを後ろに下がらせ、襲い掛かってくる魔法に俺の魔法を干渉させる。すると魔法の蝶は俺の目の前で掻き消えた。


「——っな! 馬鹿なッ‥‥私の魔法がかき消された?!」


ディアは歯を強く噛みしめこちらを睨む。一部始終を見ていた周りの軍人も口を開き、みなが『ディア様の魔法が‥‥‥なんたる‥‥』と後退りしながら尻餅を付いている者が多数名いた。


「そんなに驚く事はない、一つ答えを教えよう。これは重力だ。目の前の空間に重力を発生させた。巨大な重力は光さえもそして魔法でさえも閉じ込めてしまうからな‥‥‥すぐに掻き消される」


「——そんなことができるわけがない!?貴様‥‥‥いいや『ネロ』と言ったか?——何が目的だ?!」


彼女は全身に汗を掻き、心臓が弾け飛ぶほどに興奮している。

目の前の化物は一瞬でこの軍を壊滅できる力を持っていると確信していたからだ


「ふむ‥‥さすがは軍人のトップは違うな。この力量差を垣間見てまだ立つとは」


「生憎、腐っても軍人何でね‥‥部下が見ている前で恥は晒せない」


「そうか‥‥なら仕方ない道を開けてもらう」


俺とファシーノは目の前の彼女に向かって歩き出す。  


コツッ——コツッ——


「——ッ!簡単に私が通すわけがないだろう———グアあぁッ!」


「「ディ、ディア様! ——カハァッ!」」


「すまない、少し乱暴にいかせてもらう‥‥」


俺を中心にグラヴィタを周りに放ち、軍人は皆頭から地面に叩き付けられた。うつ伏せのようになり呻き声を上げている。

息はできるように加減したから安心して欲しい。


俺はうつ伏せになっている軍人達を横切り、空と大地に亀裂が入っている場所に足を進めた。


「貴方、容赦ないわね‥‥けどとてもカッコ良かったわ。私も貴方のように強大な魔法を使えるようになるかしら‥‥」


ファシーノは後ろを歩きながらそんなことを言って来た。 

後ろを振り返ると夜で見えづらいが、少し頬が赤くなっている。


「安心しろ。お前の体内に俺と同じ魔力が循環していることを忘れたか?」


「——!ふふふ‥‥ええ、もちろん知っているわよ?」


何だか嬉しそうで何よりだ。そんな会話をしていると亀裂までついたようだ


俺は亀裂に向かって手を伸ばし魔力を解放させる———


魔力の渦が周りで吹き荒れ、可視化できる魔力ヴィズアリタが溢れてくる。魔力を右腕に集め、


名を呼ぶ


———ラ・ヴェラ・オスカリタ———


刹那、右腕に集められた魔力が剣の形に創造されていく


「ああ‥‥何と美しいの‥‥この魔力が私の体内にもあるなんて‥‥なんて喜ばしい」


ファシーノは感動し、跪いていた


「‥‥っ!な、なんだこのまりょくは!?可視化できる魔力ヴィズアリタだと!そんなことが可能なのはあのお方達だけなはず‥‥!」


ほう?重力で押さえられている中、話せるか。この女侮れんな


俺は剣先を亀裂の合間に向け、上空と大地に漂う魔力を黒剣に吸収させていく。

すると、上空と大地の亀裂が元に戻っていき、黒剣が黒く輝いていく


「‥‥ふぅ、こんなものか? 亀裂はもう大丈夫だな‥‥ファシーノ! そろそろここを去るぞ」


ファシーノにそう告げ、軍人達のとこへと戻り、魔法を解除する。


「はぁ‥‥はぁ‥‥はぁ。貴様、一体?」


彼女は生まれたての小鹿のように立ち上がり必死に口を開いた。

やはり彼女は強いな。これからさらに階級を上げてくる事は確かだろう


「さあな‥‥俺も自分のことをよく知らない。 これから知っていくのだと思うが‥‥それじゃあ、俺たちは失礼する。また会おうディア」


そう言い残し、暗い森の中を歩いていく。

彼女達からは畏怖の眼差しを見えなくなるまで背中に突き刺さされた。


「ファシーノ、明朝にアルベロ・デル・モンドに到着するぞ」


「——ヴァベーネ——」


なあ‥‥‥その言葉どこで覚えたんだ‥‥‥とてもかっこいいじゃないか!


俺たちは猛スピードで森を走り抜けて行く


——新たな仲間を求めて——

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