五つの影と本部へ帰還


———コツン   コツン   コツン


ある人物が螺旋の階段を上がって行く。その純白の階段の上部を見上げれば先は見えず、まるで無限の牢獄にいるかのような感覚


時をかけて上がり着いた先に待っていたのは金の装飾が全体に施された巨大な純白の扉。扉の前に立ち、両手を扉に添え、ゆっくりと奥へと動かしていく


扉を開け、暗闇の先へと一歩一歩進んでいく人物は進むに連れて酷く怯えていた


額から汗が零れ落ち、眼孔が開き、全身を震わせ、その足取りは重くぎこちない

息を詰まらせる程の圧を全身に感じながら暗闇を進んでいく

進むにつれて天から光が零れ落ちる空間にたどり着いた人物


その瞳に映ったのは光に照らされた “五つの影”と”五つの玉座”だった


五つの影から見下ろされる位置にいる人物はその存在に頭を下げ、静かに跪いた


静寂に包まれた空間はその行為を合図に玉座に座る五つの影達が口を次々に開く



「——また『無』が現れた‥‥我らの安寧を壊す者が現れた。幾千の時を超え、奴らはまた再び現れた‥‥」


「——嗚呼、“5000年前”を機に幾度となく現れ、歴史と共に排除してきたが‥‥つい”先刻”は500年程前だったか」


「——5000年前あの“男”が死に際に放った言葉。あの言葉が正しいのなら時は近い‥‥」


「——予言か‥‥奴等の意思は今も生き続けておる。5000年の時が経とうと我らに刃向かい続ける“敗北者”だ」


「——この長き戦いに終止符を打たねばなるまい‥‥それに歴史の闇に存在し続ける”バラトロ”。奴ら諸共消さねば‥‥」



五つの影達の話を跪きながら耳にしていた人物。下げた頭を決して上げる事なく地面を見つめ続ける。その人物に課せられている感情は絶対的な恐怖と死の刻印。一言も話せず、心臓すらも鼓動が止まり、呼吸を許さない死の時間と空間が襲った


「——我らの子孫がこの5000年で幾度となく互いに争い多くの血を流してきた。しかし、我らが介入しては意味がない」


「——しかし、今の世の五種族は再び結託した。世界の目的が合致したという事」


「——これも“あの男の予言通りと言うべきか‥‥なんと忌まわしい予言だ」


「——選ばれし者セレツィオナートは所詮、世界の表の顔‥‥我らの手足にすぎん。歴史はいくらでも変えてきた。次もまた終わった頃には変わっているだろう」


「——もう一度歴史を変えなければならない‥‥そこの“調停者アルビトよ。準備は任せるぞ———」


———天からの降り注ぐ光が消え、五つの影がなくなり再び空間に暗闇が訪れた跪いていた人物は暗闇の中ゆっくりと顔を上げ、数刻ぶりの呼吸を全身で感じていた。心臓の鼓動が加速し、血が全身を駆け巡る。片膝を地面から離し、二本の足に力を入れ、扉の方へと戻って行く。



「——虚無の統括者‥‥‥」



最後に独り言のように吐いた言葉の真意は知れず、静かな空間に呑み込まれていくだけだった



◊◊◊



——————ブゥゥウウウン!!


「風がすごく気持ちいい‥‥この魔車気に入ったわ!」


「そうか、それはよかった。なんせ俺がデザインしたフォルムだ。パンテーラ=ネーラ商会の最新鋭の魔車だ。エルディートに感謝しなくては」


現在、俺とファシーノは魔車に乗って学園都市から月下香トゥべローザ本部に向かっていた。なぜ、転移魔法ではなくて、魔車なのかって?言わせるな。二人で長旅をした方がいいだろう? 


魔車業界最速を誇るこのパンテーラ224でも学園都市から本部まで休憩なしで走り続けても一週間は掛かる。なので途中休憩を挟みながらキャンプするのが最高なのだ。 


また学園都市を出る時は出入国管理所で検問され、年齢と顔を確認される。もちろん偽造パスを使用し、変装もした。そしてパンテーラ224のかっこよさに目をキラキラさせていた検問員は乗りたそうにしていたな。ハッハッハ




———学園都市から走る事一週間は過ぎている。平原の道から山道に変わり、道幅も狭くなっていく。何もなく、あるのは自然と川の織りなす幻想。


真夜中にこんな所を走っている魔車なんて俺たち以外まずいない。山道をとぼとぼと走り、俺はここだ!と思い停車した。魔車から降り、お土産を両手に持つが目の前に広がるのは木々が生い茂る森しかない。しかし———


「さすがは偽装の魔法だ。目一杯の森が広がるだけだが、この中にある。

 入るぞファシーノ」


「———あ!ちょっと待ちなさい‥‥っ!!今入っては‥‥‥」


ファシーノの抑制を一歩踏み込んだ時に気づいたが、時すでに遅かった


「———え?」


「はぁ〜こうなるのなら先に伝えておくべきだったわ‥‥もう仕様が無いわ。

 先に行きましょう、どうなっているのか分かるわ」


なんだろう、ファシーノの驚きようから俺はまた面倒な事をしてしまったのかもしれない。とても嫌な予感がする‥‥そして勘だが理解できそうな気もする‥‥



◊◊◊



一方その頃、月下香トゥべローザ本部


時刻は真夜中の肌寒い頃、1日の業務を終えた構成員達はお風呂に入る者、勉学に励む者、日々の鍛錬を怠らない者、自室にて就寝している者と様々であった。


月下香のトゥべローザ序列No6~No10の最上位である、幹部五絢のメンバーも各々鍛錬を欠かさずに月下香トゥべローザでの日常を過ごしていた。



「———ミネルバったら動きが速すぎて追い付けないんだけど?」


「そう?獣人は魔法を身体強化に使っちゃうからね。体の丈夫さは負けないよトラヌス!」


序列7位のトラヌスと序列6位のミネルバが地下闘技場にて日々の鍛錬をしていた。彼女達の実力は世界の基準においてS Sランクと同等と言えよう。

各国に3名しか存在しないS Sランクと同等の戦力を保有している月下香トゥべローザのレベルは想像以上に高い。残りのハリア、アントニ、リベラの五絢が束になればもはや敵なしである。


組織内部からも憧れの対象であり、努力すれば手の伸ばせる位置にいると思われる五絢の椅子。しかし、五絢の下には2,000人もの配下所謂構成員が存在し、皆が死に物狂いで努力している。また組織のためなら命を捨てる覚悟を身に宿し、如何なる時にも対処する心構えは称賛すべきである。


ミネルバとトラヌスが鍛錬している地下闘技場。そこには二人だけではなく大勢の構成員も鍛錬をしていた。自ら鍛錬し序列を上げようとする者、観客席にて上位者のスキルを見て盗み研究する者と様々な人種と価値観が存在している。

そして丁度夜中の12時を回った頃、他の五絢のメンバーが全員地下闘技場に集まった


「ミネルバもトラヌスもそろそろ終わりにしましょう?明日も早いのですから」


「ああ、ハリアの言う通りだ。俺も今日は仕事で疲れた。訳の分からん組織を単独壊滅させてきたが張り合いが無かった」


「アントニ様はお疲れですね。皆様も今日はもう終わりにして休みましょう」


序列8位ハリア、序列9位アントニ、序列10位リベラの3人は鍛錬をする同士に休むよう言葉をかける。それに呼応するように二人は地面に座り、タオルで汗を拭った。


「ふぅ〜今日も夜更かししちゃったね〜。いつもならヴァルネラ様に『早く寝ろ!』って言われてたけど居なくてよかった‥‥もし見つかったら怒られちゃうもんね」


「怒られるのはミネルバ貴方だけでしょう?毎日夜遅くまで付き合わされる私の身にもなってほしいわ‥‥はぁ、お風呂に行きましょうか」


「さんせ〜!」


夜中の12時に差し掛かり鍛錬をしていた他の構成員も次々に闘技場を出ていく。汗を流した者はお風呂に行くのだと推測できる。それに乗っかろうとミネルバとトラヌスは一緒に闘技場を出て行こうとする。他の3人も一緒になって闘技場を出て行こうとした時————



『———侵入者!2名の侵入者を確認!結界が破られ、侵入者は真っ直ぐこの本部に向かってきています!直ちに総員配置についてください!』


「「「———っ!!!」」」


「侵入者ですって?!偽装魔法が破られたというの?!」


「——くそ!直ちに向かうぞ!!」



突然本部全体に知らされる侵入者の報告に戸惑いを見せる5人。偽装の魔法が破られた事に驚きを隠せないまま侵入者の対処へと逸早く向かう。地下から地上一階目掛けて走り、一階ロビーのエントランスまできた5人。


ロビーにいたのは500を超える月下香トゥべローザの戦闘構成員。緊張な面持ちで内部への入り口を見張り、待ち構えていた。5人の姿を見ると道を開け、前を開ける構成員は息を殺し、静かに待つ。五絢のメンバーも入り口の先頭に立ち、扉が開かれるのを待ち構えていた‥‥‥



「魔法を見破った輩だ!皆気合を入れろ!格下だと侮るな!」



五絢唯一の男性であるアントニが号令をかけ、場が殺伐とする中、遂に扉がゆっくりと開いてゆく。500だった構成員がさらに増え続け、今では1000名ほどに膨れ上がり魔法を唱え始める。腰には剣が添えられ、皆が柄を強く握りしめる。


ゆっくりと開いていく扉の奥からは二つの影が捉えられ、本部へと脚を踏み込んでくる。暗い闇の外から侵入してくる二つの影をしっかりとその瞳で捉えていた


眼孔が開き、驚きを露わにする五絢と構成員達、それは予想外の侵入者だった



「「「——ネ、ネロ様‥‥?!とファシーノ様?!」」」

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