レオンの隠していた力が‥‥見られる?!


「———ハハ!踊れ!———闇矢ブイオ・アルカーレ!」


「———チっ面倒だな」




———森林の中にある巨大な岩と開けた空間を中心に俺は走り回っていた。ガイ=ヴァンピールの繰り出した闇の矢が何千と俺の後ろをピッタリと張り付いて来て、何処に逃げようと振り切れそうになかった


「———おいおいこんな“初級魔法に何ビビってんだぁ?その自慢の刀でぜ〜んぶぶった斬ってくれよお!?初級魔法もろくに使えない奴はその刀で見せてくれるんだよなぁ?!」



く‥‥っあいつ言わせておけば調子に乗っているな。確かにこの闇の矢は初級魔法だろう


しかし、遠隔追尾の魔法も同時に掛っているな。それに闇の矢は刀剣では斬る事のできない面倒な魔法だ。物理ではどうする事もできないと知ってわざと魔法を繰り出したなあの吸血鬼‥‥



「なあ?逃げてるだけじゃつまらねーよなあ?今この状況は魔法を介して全一年共に見られているんだぜ?もっと血を流してくれなきゃつまらねーぞ?!」


憎たらしい笑みを浮かべるこの男。まるで玩具と戯れる子供のように闇の矢から逃げ惑う俺を見て、この状況を楽しんでいる‥‥


———そうだな‥‥どこまで逃げ切ろうか‥‥俺の脳内プランではもうそろそろこの“演技もおしまいにしたいところだしな


と、そんなことを考えながら闇の矢から逃げているとガイの我慢も限界が来たようだ


「おい、いつまで逃げているっ?!さっさと戦えっ——死神の鎌モルテ・ロンコラ!」



「———そろそろ潮時か」



逃げ惑う俺に新たな魔法を放ってくるガイ。闇の鎌から成る斬撃は俺の進行方向へと放たれ、闇の矢と挟まれる形に陥る。俺は逃げるのをやめて、その場で止まり左右に迫る魔法を見る‥‥‥うん、我慢!






———————ドバアアァァァアン!!!






二つの魔法と衝突し、森林に轟く爆発音と共に砂埃が上がり視界を遮った


「おいおいおい!?これで終わりな訳ねーよなぁ!ハッハッハ!」


この様子を見て、高らかに笑い上げるガイだったが、砂埃の先を見てはその笑みを惹きつかせた。


「———チっ‥‥つまらねーな。まあこんなもので終わるなんて微塵も思ってねーよ!バカが!」


そう言うガイの瞳には砂埃の中から流暢に歩いてくるレオンの姿がはっきりと映し出されていた。ザク、ザクと砂埃の中から出てきたレオンの体は衣服だけが損傷し、素肌は擦り傷も血も出ずに無傷だった————


「ハッハッハッハ!そうこなくっちゃよ!なぶり甲斐がねーもんな!?」


「言っただろう?全てを受け止めるとな」



———先程の魔法は少し痛い程度の攻撃だったが、せっかくの衣服が損傷してしまった。まあ、何着もあるから良いのだが直すのが面倒なんだよな‥‥ああ‥‥面倒だ


そんなことをまたも考えていると目の前のガイは魔法から剣に切り替えていた。

禍々しいデザインの剣はまるで魂を抜き取るかのようなオーラを放ち、俺に剣先を向けてこう言う



「———今度はこっちでやろうぜぇ。お前も抜けよ?」


「———お前相手に刃を交えるまでもない。全力で来いよ?今度は」



そんな俺とガイの会話からは殺気が漏れ出し、周囲の木々を怯えさせる。

そして俺の挑発に顔を引きつかせるガイは鋭い視線で睨みつけてくる。



「———ああ、いいぜ。全力で相手してやるよ」



と、どうやら流石にキレたのか眉間に皺がより、目が鋭く引き上がっている。せっかくのイケメンがここまでくると別人だな。そして目の前の残念イケメンは例の解放を行うと見受けられる仕草を取る。


禍々しい剣に左手を翳したガイはその低い声である名前を呼ぶ————




「———喰らえっ———血喰魂ヴァレミーア




するとガイの刀身は真っ赤に染め上がり、心臓のように脈動を繰り返していた。

そしてガイの顔には血管が浮き出し、鋭い牙が剥き出し、まさに吸血鬼そのものだった


「ハハ、血が足りねぇ!この血喰魂ヴァレミーアはお前の血を欲しているぞ!よこせっ————」




———っ!?





——————ギィィィィン!!






———金属同士が重なる甲高い音が森林を駆け巡った。二人の刃が重なった大地はクレーターができ、衝撃波が周囲の木々を薙ぎ倒す。


たった一度の攻撃でここまでの衝撃波を繰り出すとは思っても見なかった。まさか、俺にこの刀を抜かせるとは‥‥先程の威勢といいこいつは本物だ


そんな悪魔のような形相で迫りくるガイは次々に俺の予想を超えていった


「———オラオラ!どうしたぁ!まだまだこれからだぜ!———血喰獣ヴァレミ・ベルヴァ!」



真っ赤な禍々しい剣を振るいながらガイは魔法を繰り出した。それは大量の血液で形成された小さな獣の姿。しかし、その小さく真っ赤な獣はただならぬ魔力を秘めていた



「———こいつはな俺の可愛いペットだ。お前の血が欲しくて堪らないらしい‥‥こいつとも遊んでくれよっ」


そう言ってガイは再び俺に剣を振るってくる。ガイの太刀筋はまるで獣の本能で動かしているかのように大雑把で大胆。

しかし、あり得ないほどに重く、そして速い。普通の奴では到底目では追えない太刀筋。俺以外の奴が相手だった場合、最初の太刀で終わることだろう。


それにこの本能に任せる剣技はどこか懐かしい‥‥いや、覚えている。

俺ではなく俺の握るこの刀が‥‥あの剣を覚えている。



「———痛っ」



ガイの剣をひたすら受け流していると背中に痛みを感じた。何かに噛まれているような痛みが背中を襲い、そして血を吸われている感覚が全身に伝わる。


「ハハ!よくやった血喰獣ヴァレミ・ベルヴァ!そいつの血を渡せ!」



どうやらこの痛みはあの小さい獣が俺の血を吸っているのか。さすがは高貴な吸血鬼なだけあると言うことか‥‥


そして小さな獣は俺から離れると、ガイも俺と距離を取る。すると小さな魔獣はガイの真っ赤な剣に吸収されていった。真っ赤な剣は脈動し、より一層、深紅の色味を輝かせるとガイの魔力も底上げされた


「ああ、いい。この魔力。高貴な俺がこんな人族の血など吐き気がするが、もういいだろう。お前の血を全て‥‥奪い尽くす!——————行け‥‥血の鎖」



「————!?」



ガイが血の鎖と呟いた刹那、ガイの足元に魔法陣が展開され、ありとあらゆる方向から真っ赤な鎖が出現する。大地の底から空に向かって真っ直ぐに伸びる無数の鎖はまるで生きているかのようにウネウネと動いている。


そしてガイが俺に指を刺すと、真っ赤な鎖が俺に向かって伸びてくる。鎖の一本が俺に絡み付くとまた一本、また一本と次々に俺の体に絡み付いていく。何重にも全身を巻かれた俺は遂に首だけとなり、その他は身動きすらできなくキツく縛られた。


そしてこの魔法を使った当事者であるガイは勝ち誇った笑みを浮かべていた



「———これでお前はもう何もできない。その鎖で死ぬまで血を吸い取られ続ける運命だ。そしてお前の血を吸う事で俺は更に強くなれる!俺達、高貴な吸血鬼は相手の血を吸う事で魔力を高められ、相手の魔法すら我が物に出来る魔族の中でも最強の部類!人族のお前程度がこの魔法をお目にかかれる事自体奇跡!死ぬ間際までその体にたっぷりと味合わせてやる‥‥そして最後に貴様の自慢の“魔法を使って殺してやるっ————」




そう言って、クックックと笑うガイの顔はとても満足そうだった‥‥




———しかし、その幸福な時間も束の間、突如ガイの体に異変が起こり始めた。





「———グハァっ‥‥!」





突然、膝から崩れ落ちたガイは口から大量の血を吐き出し、目からは血の涙が頬を伝っていた。



「ど、どう言うことだっ」



口から吐き出した血を見つめ、意味がわからないと言った表情をするガイ。そして、全身から次々に血が吹き出し、制服が赤く染まっていった。




何故、と言って顔をしているな‥‥それもそのはずだろう‥‥なんせあいつ自身が言っていた事だ。確か————『血を吸う事で魔力が高められ、魔法すら我が物に出来る』とな,



「———クっ‥‥こうなればお前の自慢の魔法で殺してやるっ。自分の魔法で殺されるのは光栄だろう!?」



そしてガイは右腕を俺に向けて俺の魔法を使おうと口を動かした時‥‥彼の顔が急に固まる。まるで悍ましい何かを見ているかのように体をガクガクと震わせ、呼吸が荒くなり胸を鷲掴むと、ガイは顔を上げて再び震える口を動かした。





「————ば、ば、馬鹿なっ!?ああ、頭にうっ浮かんでくるこっこの魔法は‥‥!?お、おおおっお前はっ‥‥一体な、ななな何者なんだっ‥‥‥?!」





————震える口でようやく言い尽くしたガイ。その度胸はさすがだ。こいつとの戦いもそこそこ楽しめたが僅かな時間だった。もう演技も終わりにしよう。






最終ラウンドだ







「———霧散———」







——————パリィィィイン!!」






そう呟くと俺の血を吸い続けていた真っ赤な鎖は一瞬で全てがガラスのように割れ、そして霧となりガイの足元に展開された魔法陣も鎖と同じく消失した。


そして鎖から解放された俺は自身の血で身体中が真っ赤になっていたが、気にせずにガイの元まで歩いていく。



「お、おおおっお前、い、いい今何をした?!おお、お俺の魔法を、け、けけ消した?!」



俺は膝を震わせ、へたり込んでいるガイまで近づく。体をビクつかせながら俺を見る瞳は先程までのガイとは大違いだ。


ガイの耳元まで顔を近づけて優しく声を掛ける。


「———さあ、言ってみろ?」



「———やめろっ‥‥」



「———俺の自慢の魔法の名を‥‥」



「———やめろっ‥‥」



「———さあ、早く俺に聞かせてくれ‥‥」



「——やめろぉぉぉおおおお!!!」





◊◊◊





———そして場面は魔法を介して見ている者達に変わる




「ガイ!あの魔法をレオン様に使うなどっ!本当に殺してしまうわ!今すぐにこの決闘をやめさせるべきです!」


「どういうこと!?レオンを殺すって!?冗談はやめてよエリザ!!」



エリザは真っ赤な鎖を見ると思いもよらぬ事を口にした。そのことを聞いたアザレアはエリザに詰め寄り胸ぐらを掴み、睨みつける。


魔族のエリザが慌てる理由‥‥それはここいる誰よりもガイの魔法を理解しているからだった。



「———あの魔法は吸血鬼一族の魔法です。絶対に逃さず、絶対に逃れることの出来ない赤い鎖が標的を縛り、血が尽き果てるまで吸い続けます。そしてその血を糧に自身の魔力を高め、更には標的の魔法さえもコピーしてしまう最悪の魔法です‥‥まさか、こんなことになるなんて‥‥」


悲痛に声を絞め殺しながらも最後まで赤い鎖について説明したエリザ。

そのエリザの説明を聞いて黙っていられない“彼女達はすぐさま席を立とうとする


「レオンを救いに行かないと!」


そう言うアザレアを筆頭に“彼女達は次々に席を立っていく。アザレア、エリザ、ジル、カメリア、ベラの五人が一斉に動き出そうとした瞬間、ある一人の男がそれを止める。それはアザレアと同じ金色の髪を持ち、レオンと幼少期を過ごした幼馴染の一人であるワルドスだった



「———行ってどうする?今から最速で行っても間に合わないぞ」



そう冷たく返すワルドス。その言葉の通りいくら最速で行ったところで間に合うことはない。それを知っていてもアザレア達は振り切り、向かおうとした


「だから何?!このまま見ていろって?!これはもう決闘でもなんでもないわ!ただの殺し合い!教師が介入しないなら私たちが行くしかないじゃない!?」


「レオンを信じることができないのか!!」




「「「———!?」」」




ワルドスの感情が詰まった叫びを聞いて一瞬怯むアザレア達。普段は見せないワルドスの激怒は周りにいる学生達にも震え上がらせた。


「あいつが請け負った勝負だ。あのレオンがこうなることを予測してないわけがない。たった二人で決闘に挑んだんだぞ‥‥男の勝負に部外者が介入しても何もならない。しっかりと見ていろアザレア。お前が一番知っているだろう、レオンなら俺達の想像を超えてくれるとな」


「ワルドス‥‥貴方‥‥っ」


ワルドスの言葉を聞いて冷静になるアザレア。その言葉と上空に映るレオンを見てアザレアは信じることに決めた


「みんな、落ち着いてレオンを信じましょう‥‥きっとあのレオンなら大丈夫‥‥」


そしてエリザやジルもワルドスの言葉を受けて上空に映るレオンを見据える。


レオンを信じるアザレア達と決闘の行き着く先を見据える大勢の学生達。歓声で埋め尽くされていた演習場は静寂が訪れ、全員がこの決闘の終わりを待っていた。


しかし、その静寂が終わりを告げる事が起きる



赤い鎖に縛られているレオン‥‥ではなく足元に魔法陣を展開させていたガイに異変が起こる。突然、血を吐き出し、目から血の涙を流すガイ。その不思議な事態を見ていたアザレア達も驚く。また、驚いていたのはガイの異変だけではなかった‥‥



「———!?何故、私の刀が怯えているの‥‥」


アザレアの持つ愛刀‥‥そしてこの演習場にいる全員の持つ刀剣がガタガタ震え出したのだ————



「一体どうしたというの?!」


「おいおい、剣が勝手に震えているぞ!?」


「わ、私のも!どうしちゃったの?」



全員の刀剣がなんの前振りもなく一斉に震え出した現象。アザレア達ですら初めての経験で理解が追いつかず、動揺を隠しきれなかった。


「一体、何だと言うのだ?私のイフリートまでも怯えている‥‥エリザ何か分かるか?」


「いいえ‥‥こんなことは初めてです‥‥一体何が起こっているのか‥‥」



精霊までもが怯えてしまう謎の現象。誰も理解できず演習場に混乱が生じる中、上空に映し出されているもう一人の男。真っ赤な鎖に縛られ、身動きできない状態。そんな男が何かをしたなど誰も予想などできない。



そして演習場にいる学生達が一斉に顔を上げて、上空に映し出されているある男を見る。鎖に縛られているその男は口元を小さく動かし、何かを呟いたと思うと‥‥





—————パリィィィィイイン!!!






突然、ガラスの割れる音が響き渡る。そしてこの音と共に上空に映し出された光景は誰もが驚愕し、一斉に席を立ち出す程のもの。

その美しく散る“あるものをこの目に焼き付けようと演習場にいる1学年全員は呆然と立ち尽くす。



それは特待生であるアザレア達も等しく、予想を超えていき斜め上まで突き抜け、漠然とその光景を見る事しかできなかった。



美しく儚く、それでいて畏怖すら感じるその“魔法を見てアザレア達は同じ事を心で呟いた‥‥





「「「———あり得ない———」」」

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