第5話 出て行った女からの連絡

美紀が家にやって来る。


「また、一緒に住もうよ。お願い」


「・・・・」


俺は黙って美紀を見つめる。


(どうせ、あのオヤジに毎日抱かれていたんだよな)


悔しさが湧き上がる。

あの辛い仕打ちを思い出すと、すぐにオッケー出来ない。


「ね~いいでしょ?」


「・・・・」


(ほんとはオッケーしたいところだけど・・)


「おねがい~」


「う~ん」


そういいながら近づいて体に絡みつく美紀。


「ほら~身体がいいって言ってるよ」


「ばか!これは違うよ。しばらく、してないからだって」


(なんで、ここで立つんだ)


結局、美紀の身体を忘れられなかった俺は、家に戻って来る事を拒めなかった。

あんなに辛い思いをしても許してしまう。

悲しい性だ。


美紀が帰ってきてから、俺達は二人でよく歌舞伎町に飲み歩くようになる。

俺の稼ぎがいいので、美紀は仕事をやめると言い出した。


「学校へ行きたいのだけどいい?」


「学費はどうするんだ?」


「自分で働いて貯めたお金で、美容師の学校へ行きたいの」


反対する理由もないので、そのまま美紀は学校へ行く事になる。

俺は、車で毎日送迎。

仕事まで間に時間の余裕もありアッシー君。

朝まで俺は仕事をして、美紀を学校に送ってから俺は寝る。


昼夜逆の生活になっていく。

仕事は楽だし稼ぎもいいし、そんな生活にすっかり馴染んでいく。


「うう~ん、今日は疲れてるからだめ」


「なんでだよ~」


「だめなものはだめよ」


「まじかよ~」


美紀も学校での授業や宿題で疲れているのかたびたび拒む。

重い空気。


最近俺は考える。


(同じような行為では、飽きられてしまったのかなあ)


マンネリ化を防ぐ為にいろんな雑誌やビデオを見て研究するようにした。

四十八手とまではいかないが、美紀に試してみる。

人が聞いたら馬鹿馬鹿しいような話だが、俺は真剣にエッチの奥深さを感じ探求していく。

二人でいろんな事を試していくうちに、美紀も俺も色んなテクニックを実践しながら学ぶ事になる。

これが美紀にとっても俺にとっても、後々実になる事とは、思いもしなかった。


ある日ゲーム喫茶に新人のバイトがやってきた。


東京六大学の学生らしい。

やっと俺の下に働くヤツができたのでうれしい。

バイトでもいいから店番には、常に二人はいなくてはならない。

従業員は誰でも両替銭として常に千円札を財布に二十万くらい持たされている。

店の中の手持ち金庫には、最低でも二、三百万は両替銭が入っていた。

後は、色んな所に千円札で一千万くらいは隠して置いてある。


初日にも関わらず、新人にも両替の財布を渡す。


「これ両替銭ね。お客に言われたら両替しろよ」


「わ~すげえ」


「何が?」


「こんな大金を持つのは、初めてです」


(だろうな)


新人は喜んで興奮している。


「そっちのバックはいくら入ってるんですか?」


「ん?百万くらいかな」


「え~それ持ちたいな~」


「こんなにすぐには必要ないから、それを持っていろよ」


(なんだこいつ?変な奴)


「お札数えるだけなんで触らせてください」


「しょうがねえな~ちょっとだけな」


(変わったやつ)


新人は嬉しそうにお札を数えだす。

大金を見るのに慣れてしまっていた俺は、疑いもなくトイレに入る。


(あいつ変わってるな、大丈夫かなあ)


嫌な雰囲気を感じながら用を足し、1分もないくらいの時間でトイレから出てくると、新人の姿がない。


「あれ?いないぞ」


ゲームをしている客に話しかける。


「ここにいた従業員知りませんか?」


「なんかバタバタと急いで外に出て行ったよ」


「え?」


一瞬、何が起きたがわからない状態になる。


(しまった!・・・やられた)


そう思ったが後の祭りである。


(確か上着があったはず)


急いで奥の事務所に行ったが、上着が無い。

追いかけようとしたが、店番が俺一人になってしまうので追いかけようにも追いかけられない。


「やっべ~」


店長にすぐに電話をかける。


「店長、あの新しく入ったバイトに金を持ち逃げされました」


「何~~!!それで?」


「今、俺一人で追いかけようにも店から出られなくて」


「わかった!すぐ行く」


飛んで来た店長と入れ替わり、歌舞伎町中を探し回る。

さくら通りや一番街、コマ劇場の周りやアルタの駅の方まで行ったが。


(どこにもいない・・・)


もう逃げてから一時間。

新宿にいるはずがない。


(当然だよな)


結局見つからず、とぼとぼと店に戻る。


(どうしよう・・・)


店にはオーナーも駆けつけていた。

オーナーに最初からの経緯を説明する。


「誰が採用したのだ?」


俺は、店長だとは言えなかった。

少し間をおいて店長が答える。


「俺です」


別室でオーナーと店長が話し合っている。

責任は俺ではなく、そんな男を雇った店長が悪いということで片付けられた。


「まあしかたないな。お前は気にするな、事故にあったと思え」


オーナーは、俺を責めなかった。


「すみませんでした」


(100万も盗まれて気にするなって言われても・・・)


俺自身は結構落ち込む。


そして、その後、突然店が閉店。

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