第133話 半同棲女との血だらけの部屋①

「遼ちゃん、これ預かっててよ」


「何これ?」


突然、別派閥の竜司が紙袋を持って近づいてくる。

店の野球チームの仲間。

その関係で、たまにお互いにヘルプをする付き合い。


「これって、やばいもんじゃないよね?」


「違う、違う」


「拳銃とかだったりして・・・」


「まさか」


「それにしちゃ軽いか」


袋を上げ下げしてみる。

カサカサ音がする。


「薬だよ」


「薬?葉っぱ?覚醒剤?勘弁してよお」


「違うって・・・普通の薬だって」


「普通のって・・・じゃあ何で預けるんだよ」


(あやしいな)


「ちょっと持っていたらまずいから・・・」


「何がまずいんだよ。何の薬?」


「精神安定剤」


「お前、心の病とか?」


「いや、ナースの客がいてさ、もらったんだ」


「もらった?」


「まあ、ぶっちゃけ、これ飲んで二人で遊んでいたんだ」


「酒飲んで服用すると訳わかんなくなるってやつか」


「そうそう、安定剤の中でも強いやつね」


「やだよ~持っていたら捕まるんだろ?」


「捕まらないよ。医者が出す薬だから」


「じゃあ何で俺に預けるんだよ」


「俺、前があるんだ」


「前?」


「覚醒剤で捕まった事があるんだ」


「あ~前科か。お前見かけによらずワルなんだな」


(意外だったな)


「ホストに真面目なやつなんかいるかあ?」


「あ~それって偏見じゃん。真面目な俺だっているんだから」


「馬鹿な事言ってないでとっとと預かってくれよ」


「わかったよ。預ける意味わかんねえけどな」


「こんなに大量に持っていたら、処方されたって言い訳にもならないからさ」


「誰に言い訳するんだよ?」


(警察か?こいつ普段何やってんだ?)


「細かい事はどうでもいいから」


「わかった」


「それに全部使ってもいいからさ」


「使わないよ。俺は、薬嫌いで風邪でも薬は飲まない主義だから」


「そっか・・・じゃあ、どっちでもいいや、もういらないと思うから適当に処分頼むよ」


「ああ」


(自分で捨てればいいのに・・・)


俺は、紙袋の中に顔を突っ込んで覗く。


(しかし、これ何錠あるんだ?)


束になって数え切れないほどの量。


(寮には、置いておけないし・・・)


「相原さんは薬に関しては、厳しいし・・・」


しばらく置き場所を考える。


「とりあえず夏子の部屋に置いておくか」


部屋に行き、夏子には気付かれないように押入れの奥にしまう。


暇なので客に電話をする事にする。

寮からだとホストが何人もいるので、休む間もなく全員の客からの電話。

各々、客に電話をかけたりしていて、使用が出来ない事が多い。


俺は、着信は寮だが発信は夏子との部屋から客に電話する事も多い。


「遼、そろそろ仕事に行くね」


「ああ」


「いってきま~す」


「いってらっしゃい」


昼過ぎに夏子は、支度をして出掛ける。


(さてと電話でもするかな)


「もしもし・・・」


何件か電話していて、何となく相手の声に違和感を感じる。


「おかしいな~そっち何か音する?」


「何もしないわよ」


「そっか」


「じゃあ、今日か明日でいいから店に来てね」


「うん、わかった」


「じゃあ来る時、店に電話ね」


「じゃ、ばいばい」


俺は受話器を置く。

しばらく電話を眺める。


「おかしいな。何か話し声がブツブツと途切れるな」


気になって仕方がない。

俺は、電話を調べる事にする。


「別にどこも壊れてなさそうだ」


電話線を手でなぞってみる。

線に傷があるわけでもない。


「おかしい」


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