第3話 同棲相手の浮気発覚

美紀が朝9時になっても家に帰ってこない。


「どこに行ってるんだ?」


いくら酔っても必ず帰ってきたし、酔いつぶれても店のママからの連絡でこっそり俺が迎えに行っていた。

いくら朝まで延長して営業してもとっくにスナックは終っている時間。


「あいつ何やってんだろ?」


店では社長とママ以外は俺と美紀の関係は公表してない。

上司のマネージャーは、クラブが終ってから美紀のスナックに、よく飲みに行っている。

美紀の事を気に入っていると話に聞いていた。


「まさか・・・」


(俺の感ってよく当たるんだよなぁ)


男子従業員は、店内はもちろん同じ系列でのホステスとの交際は禁止。

この世界では常識の事らしい。

最初から付き合っていた俺達は、誰にも言わないという約束で働いている。


それを知らない俺の上司が美紀と寝た。


俺とマネージャーじゃ、美紀にとって子供と大人の違いだった。

それに美紀には父親がいない。

親子ほど年の離れたマネージャーに父親と重なり魅かれていったのかもしれない。

昼まで待っても連絡もなく帰って来ないなんて、もしかしてと思っても信じたくない。


後で知った事だが

たまたま俺が参加しなかった、会社の慰安旅行で二人は親密になっていたらしい。


その旅行の時、水着で肩組まれて仲良く密着している写真が隠してあった。

それを部屋で見つけて以来、何となく気になっていた。

その予想が当たるなんて辛くてたまらない。

俺にとって、こんな年上の男に取られるとは想像もしなかった出来事だ。


帰って来ない朝、美紀がマネージャーの家に居ない事を祈りながら、急いで向かう。

お昼なのに人通りもなく静かな街並み。

マンションの前に着いて物音を立てない様に部屋に近づく。


(どうか、居ませんように)


近づくにつれ気持ちが異常に高ぶっていく。

マンションの前に着き、俺はドアのポストから部屋を覗く。

古いマンション作りのドアなのでドアポストから中がよく見える。


(あっ!・・・ある)


「最悪だ!」


何度も見直し美紀の靴だと確信する。

頭の中が真っ白。


「くそー!!」


このまま帰るか、乗り込むか、頭の中で葛藤。


「ドンドンドン!」


気がつくとドアを思いっきり叩いている。


「朝っぱらからうるせいな~誰だよ」


寝ぼけた顔の上司が、ドアを開けてのっそりと出てくる。


「美紀を出せ。」


俺は中にいる美紀に聞こえるように大声で叫んだ。

何故か手が震えている。


「なんだ、お前。何しにここに?」


マネージャーは訳がわからない様子で答える。

部屋の奥からマネージャーの物と思える男物のパジャマを着た美紀が出てくる。

俺は頭が熱くなり思わず怒鳴る。


「何をやってるんだ。何でここにいるんだよ」


美紀も声を荒げて言い返す。


「なんであんたがここにいるの?何しに来たの?帰ってよ」


「・・・・」


俺はだまって美紀の顔を睨みつける。


「落ち着いて理由を説明しろ。朝っぱらから近所迷惑だから中に入れ」


マネージャーが言う。


「話す事なんかねえよ」


「・・・・・」 


美紀は沈黙。


「興奮するな、ちょっと中に入れよ」


沈黙が続いた後、少し落ち着いた俺はマネージャーに促され部屋に入る。

部屋の中は、テーブルの上にビールの空き缶、灰皿にはこぼれ落ちそうなくらいの吸殻。

万年床の様な布団も敷かれている。

その布団の上に二人と向き合って座る。

美紀はマネージャーの後ろに隠れるように座っている。

俺からは話を切り出せないので、黙って座っていた。


「どういうことなのか、順を追って説明しろよ」


「・・・・」


「二人は付き合っているのか?」


「・・・・」


「おい美紀、そうなのか?」


マネージャーが次々に質問をする。


「・・・・・」


美紀も答えない。


「なんか言えよ、二人とも話さなきゃわからないだろ」


俺は美紀と付き合っている事、そして一緒に住んでいる事を順を追って説明する。

俺の話を聞いているマネージャーの様子を見てると本当に知らなかった様に思える。


「なるほど」


最初は、驚いた様子で聞いていたが話を聞いていくうちに冷静になり、タバコに火を点ける。


(落ち着いてるな。悔しいとけど、さすが大人って感じだな)


「美紀、何故その事を俺に話さなかったの?」


そう問いかけながら、自分の吸ったタバコを美紀の口に持っていきこれ見よがしに吸わせる。


(俺の前で普通それをやる?)


美紀はそれを美味しそうに吸っている。

その様子を見て俺の心は折れる。


(訳わかんねえ・・こんな女に惚れていたなんて・・・)


俺の高ぶっていた怒りを悲しみに変わる。


「よく聞くんだぞ」


「はい」


「美紀がお前との関係を話さないのは、俺に好意があるからだと思わないか?」


「・・・・」


(確かにそうだろうけど・・・)


「俺は、無理やりここに連れてきたのではないし、美紀が自分の足でここに来たんだぞ」


「・・・・」


「それはどういう事か、子供じゃないんだからわかるだろ?」


「はい」


一方的にマネージャーが話している。

さすがというか水商売で生きてきた男。

説得力があり反論できない。


「美紀と二人で話し合いたいんですが」


「だめだ」


マネージャーに立ちふさがれ出来ない。


結局、俺は美紀を連れて帰ることもできず、美紀のいない部屋に帰っていくしかない。

俺の中では何の解決しないまま、悔しい思いだけがむなしく残った。


その日の夜、クラブのママに事情を話し俺は店を辞める。

数日経っても美紀は、いまだに帰ってこない。


「荷物置いたまま、あいつどうするんだ?」


俺は何もする気が起きないまま、荷物もそのまま放置。


「これから俺はどうすればいいんだろ?」


そんな事を思いながら家の中で毎日過ごしている。

そんなある日、昼間に電話がかかってくる。


(美紀から?)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る