第97話 直属の先輩ホストの生態②

「相原さん、ここって誰と住んでるのですか?」


「そうだなぁ。今、まだ上で寝てるよ。起こすか?」


「いや、いいです。起こしちゃ申し訳ないし」


「わかった」


「すみません」


それ以上聞く事は出来ない。

相原は、他の事でも俺がそれ以上、話を突っ込めない様な言い回しをよくする。


(上手いもんだな)


「お前も売り上げが上がってくると自然に裏の金回りがよくなるぞ」


「へ~」


返事はしたが、相原の言ってる事がいまいち理解できていない。


「お前もそのうち嫌でもわかってくる、さ」


「どうですかね~」


「なんだかんだ女の付き合いで、出費も増えるだろうけどな」


「そうなりたいですね」


「だけど入ってきた金を湯水のように使っていると、貧乏ホストになるんだよ」


「ふ~ん」


「金を上手く運用するんだよ」


「わかりました。これからも色々教えて下さい」


(相原さんは裏の商売もやり手なんだな)


返事はしているが、いまいち相原の話の内容の意味がわかない。

もっともっと側にいて相原の仕事のやり方を俺は吸収してやろうと思った。

後で聞いた話だが、店の給料の2倍以上の金を女から引っ張っているらしい。


相原は、ユカのおかげでナンバー2になり店の中でも存在感を表すようになる。

それからは、抑えていたものが外れたかの様に攻撃的なホストになる。


「遼、俺そろそろナンバー1めざすから協力してくれ」


「いよいよですね。わかりました」


「赤坂さんには、もう話してあるから」


「そうですか」


「あの人は、売り上げでナンバー争いするほどの元気はないみたいだ」


「ふ~ん」


「身内同士で競り合って潰し合いしても仕方ないし・・・」


「そうですね」


「グループみんなで応援してくれる事になったから、頼むな」


「了解です」


(俺も密かに狙っていたんだけどな)


ここは一歩引いて、相原に協力することにする。


「順番、順番」


(俺は、まだ時期じゃないって事だな)


しばらくは裏だけで金を引く事にする。


(裏のナンバー1でも目指すかなあ)


「忙しくなりそうですね」


「そうだな。寝不足になるかもな」


「俺をどんどん使って下さい」


(寝不足?)


「わかっているよ。一人じゃ体足りないからな」


「そうですよね」


「お前を全面的に信用してアフターでも客を預けるからよろしく」


「はい」


「ただし、わかっているだろうな」


「は?」


「手は出すなよ」


「あ・・・」


「お前、過去に人の女に手を出しているだろ?」


「はぁ・・」


(あ・・・真樹の客の事か)


「俺に対して、あんなことしたらただじゃすまないから、よく覚えとけよ」


「大丈夫ですって」


その時の相原の目を見た瞬間、背中に寒気を感じる。


(こわっ。やはりこの人、危険人物だ)


俺は、自分でよくわかっているのだが、まだまだ女に情が入ってしまう。

相原のように誰に対しても非情な心を養わないと、いけないようだ。


俺がホストになる前、働いていたヘルスにいた頃の女が何人かいる。

プライベートでも、よく遊んでいた女友達。

ホストになってからも、お互い連絡先は知っている。


その中の一人の翔子というトラブル女。

店にいきなり電話がかかってくる。


「もしもし」


「私、わかる?」



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