第34話 元カノの友人③

「遼を呼んで」


「はい、かしこまりました」


主任が俺の傍に来る。


「遼、指名が入ったよ」


「はい」


真樹が隣で話しかけてくる。


「遼、あの子どっかで見た顔だよね?」


「気付いた?」


「うん、何となく見覚えが・・・誰だっけ?」


「美紀のエダだよ」


「あ~そうだ。お前、美紀ちゃんの友達にも手を出したのか?」


「人聞きの悪いこと言うなよ~まだ出してないよ」


「まだって・・・」


「美紀は元カノだから」


「でもな~」


「いいから早く席に着こうぜ」


真樹の隣に聞いていた相原も俺の仕事ぶりに気づいたのか、少し感心している様子。


「遼、ようやくお前も商売のコツをつかんできたようだな」


「はい、ありがとうございます」


「梶さんのやり方を真似したんだろ?」


相原は、薄笑いしながら言う。


(相原さんだって・・・)


俺は、その言葉は言わなかった。


「いらっしゃい」


「来ちゃった」


「来なくていいって言ったのに」


「おいおい!来なくていいって?そんな会話いつどこでしてたんだ?遼」


すかさず真樹が会話の間に入ってくる。


「まあいいから、いいから。ところでゆうこちゃん、ボトルどうする?俺のボトル出そうか?」


「新しく入れようよ」


「何がいい?」


「ヘネシーでいいわ」


「了解」


俺はボトルを取りに行く。

戻って来ると、真樹はゆうこに質問攻めしている。


「ゆうこちゃんどうなってるの?これ」


「さ~どうなっちゃったのかな~私にもさっぱり」


「なんじゃそりゃ」


「真樹、ほらボトル。詮索はいいから早く酒を作れよ」


「わかったよ」


そして結局ゆうこは、俺が使った金額よりも二倍以上の金を使って帰っていく。

俺は、次の日の昼過ぎに電話をかける。


「おはよ、昨日はごちそうさま」


「早いわね、もう起きたの?」


「うん、ゆうこの夢で目が覚めたんだ」


「あはは、言うわね。でも嫌な気はしないわ」


「今日仕事は?」


「休み」


「じゃ昨日のお礼も兼ねてご馳走するから、遅いランチでも行こうよ」


「そんな気を使ってくれなくていいわよ」


「お腹すいたし、ゆうこの顔見ながら飯食ったらすごく美味しいんじゃないかな~と思ってね」


「こんな明るい時間からエンジン全開ね。わかった、支度して向かうわ」


「オッケー、じゃアルタ前に3時でいい?」


「いいよ」


「じゃ、待ってる」


せっかく接近したのに間をあけてはいけないと思い、俺は毎日電話をすることにする。

少し早めに、待ち合わせ場所に向かう。

すると、最初はあんなに警戒していたゆうこが、もう既に来て待っている。


「あれ?もう来てるし・・・早くねえ?」


綺麗に着飾ってお洒落して待っている。


「まだ約束の時間30分前だぞ・・・」


(先に来て待ってようと思ったのに、どうする?)


俺はすぐに駆け寄らないで、しばらくゆうこを眺める事にする。


「そろそろかな」


俺は、走ってゆうこに近づく。


「ごめん待った?」


「私も今来たばかりよ」


「そっか、よかった」


(ははは・・・かわいいやつ)


「遅れたわけじゃないんだし、謝らなくていいわよ」


「悔しいなあ、先に来て待ってよう思ったのに」


「そんな事どうでもいいじゃない」


「そうだな、さて、何を食べようか?」


「遼にまかせる」


「そっか、じゃあ高い所で飯を食おう!」


「高い所?高級な店なの?」


「値段じゃなくて空に近い場所」


俺達は副都心、高層ビルの最上階のレストランに向かう。

前に由美が泊まっていたホテルからすぐ近くの、よく食事に来た場所。


「よくこんな所、知ってるわね。よく来るの?」


「いいや、昨日雑誌で下調べしといたんだ」


「さすがホスト!」


「そういう事、大きい声で言わない」


ゆうこは、小さな声で囁く。


「さすがホスト」


「小さい声でも言わない」


(面白い子じゃん)


食事も終わり、俺はトイレに立つ。

戻ってきて会計をしようとすると、支払いが済んでいる。


「あれ?会計・・・」


「いいの。私に払わせて」


「いや俺が誘ったんだから、俺が払うよ」


お金を渡そうとしても、がんとして受け取らない。

しつこく言っても仕方ないので、素直にご馳走になることにする。


「じゃあ遠慮なくご馳走になります。あねご!」


「姉御ってなによ~」


「あははは」


そして新宿の町を二人で歩く。


「ちょっと買い物に付き合って」


(あれ?これって何か同じシチュエーション・・由美と時と同じパターン)


「いいよ~どこでも付いていきやす。あねご」


「だ〜か〜ら〜あねご、あねごって、しつこい!」


洋服や靴などいろいろ見て回る。

アクセサリー店に入る。


「これかわいい!ねえこれどう?似合う?」


子供のように、はしゃいでショッピングを楽しんでいる。


(こうやって見ていると普通の女の子なんだよなぁ)


いくつかの店を同じように見てまわる。


「ちょっと俺、トイレに行ってくる」


「うん」


「この辺りで適当に見ながら待っててね」


「わかった」


俺は、ダッシュでさっきのアクセサリー店に戻る。


「すみません、これ急いで包んでください」


金額を言われ驚く。


「あれ?」


「どうかされました?」


「いや、何でもないです」


(すげえ偶然!食事代と同じ金額じゃん)


俺は、ゆうこが気に入って見ていたネックレスを隠し持って、何食わぬ顔で戻る。


「お待たせ~」


「どうしたの?具合悪いの?息荒いよ」


「いや、大丈夫」


「そろそろ帰ろっか?ごめんね、いろいろ連れまわして」


「平気、平気。ゆうこの楽しそうな顔見ているだけで楽しかったよ」


「何それ、意味わかんな~い」


別れ際に、ゆうこに渡す。


「これ!今日会ってくれたお礼ね」


「何?」


「あ!今開けないで。帰ってから開けて」


包みを渡して別れる。


「じゃあね」

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