第33話 元カノの友人②

「実は美紀も私と同じ仕事をしているの」


「え?まじ?」


俺はショックを隠しきれない。

そして、なんとも複雑な気持ちになる。

十代から付き合いの美紀が、まさか体を張った商売をしているとは・・・。


「やっぱり言わないほうがよかった?」


「別に平気だよ」


俺は一瞬動揺したが、すぐに平静を装う。


「そんな事、一言も言ってなかったからなあ」


「私が言ったって、絶対言わないでね」


「うん、大丈夫」


「って言うか、美紀の仕事の話は避けてね」


「うん、しないようにするよ」


「ならいいけど・・・」


「・・・・・」


二人の会話が止まり、沈黙が訪れる。


(これって・・・やばっ、何か話さないと)


「・・・・・」


気まずい空気。

その時、ゆうこが小さな声で囁く。


「ねえ、どうする?」


俺は、すぐにその言葉を理解する。


(やっぱり、俺と同じ事を考えてたか・・・)


「ねえ」


「何もしなくていいよ」


「でも・・・何もしないでお金もらえないし」


「それが目的じゃないから」


「そうなの?」


「ゆっくり話ができただけでもよかったよ。ありがと」


俺はそう言ってお金を渡す。


「そんなあ、お金なんてもらえないよ」


「いいからいいから」


「これじゃあ、私が困る」


その時インタホーンが鳴る。


「はい、はい、わかりました。もうお帰りになります」


ゆうこは、インタホーンを置いて、そばに来る。


「時間だって」


「じゃあ俺、帰るね」


「ほんとにお金・・・」


俺は、部屋を出て急いで出口に向かう。

ゆうこは、慌てて俺の後ろを、小走りで付いてきた。

ゆうこは、何か言いたそうな雰囲気だったが、店員がいたので何も言えずにそのまま見送るしかなかった。


「じゃ!」


「ありがとうございました」


次の日もゆうこが出勤しているのを確認してから、店に向かう。


「なははは、また来ちゃった~」


「・・・・」


「今日は、おみやげを持ってきたぞ~」


「も~~何なの?」


「ちょうど腹がすいている時間じゃないかと思ってね」


「そういう事、聞いてるんじゃないの!」


食事は出前がとれると聞いたので、デザートのケーキを持っていく。


「一緒に食べようぜ。美味しそうなケーキだよ。ほら!」


箱からケーキを出して見せる。

今日のゆうこは驚いた顔ではなく、不思議そうな顔をしている。


「一体、何の目的で来てるの?」


「別に目的はないよ。会いたいから来ただけ」


「そんなの理由にならない」


「じゃあ、そうだなぁ・・ケーキを一緒に食べら為に来た」


「それもだめ!」


その後、俺は機関銃のように話をする。

自分の事や世間話など。

あっという間に時間が過ぎて、料金を払い俺は店を出る。


「はぁ〜楽しかった!じゃまたね」


次の日はゆうこが休み。

その次の出勤日に、店に行く。


「また来たの?」


「なはは!」


「なはは、じゃないわよ!」


「ゆうこと離れると、すぐ顔見たくなってね~。罪な女だ!」


「ゆうこ?慣れなれしいわね。呼び捨てしないでよ」


「あっ、ごめん・・つい!」


「バッカじゃない!」


その言葉を発するゆうこの顔は、怒っていない。

そして、またいつもと同じ様な時間を過ごす。

その日の夜中、店にゆうこから電話がかかってくる。


「もしもし、わたし・・・わかる?」


(お!きた。ゆうこだ)


「もしかして愛しのマドンナ?」


「も~ふざけてばかりね」


「ははは!ところで電話なんてしてきてどうしたの?」


しかし、俺はそろそろ連絡が来る頃かなと予想していた。


「店に行ってもいい?」


「ん?何しに?」


「飲みに行くのに決まってるでしょ!」


「な~んだ、俺に会いに来るんじゃないの?」


「はいはい、そうそう、そうです」


「やっぱり」


「やっぱりじゃないわよ~もう」


「あははは」


「店に来てくれたお礼に飲みに行ってあげようかなって思ってね」


「いいよ、いいよ、そんなつもりで行ったわけじゃないからね」


(実はそんなつもりだけど・・・)


「でも」


「まあ、気持ちだけ受けとっとくからさ」


「え?」


「それじゃあ、また明日ね」


「明日?またうちの店に来るの?」


「ははは、かもな〜」


そして俺は電話を先に切る。電話の後、しばらくするとゆうこは店に入って来る。


(なんだ、やはりすぐそばにいたのか。作戦成功ってとこかな)


ゆうこは席に着いて、内勤に指名者を告げる。

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