第32話 元カノの友人①

「もしもし俺、わかる?」


「ん?誰?」


「あれ?俺の声忘れた?」


(まだまだだなあ、印象薄い男って事か)


「お店のお客さん?」


「俺は、しっかり覚えてるのに・・・悲しいな」


「誰なの?」


「美紀の・・・」


「ああ~」


「やっとわかってくれたか」


「実はそうかなって・・でも間違えたら失礼でしょ?」


「さすが客商売!」


「お互い様でしょ」


「だね」


(なんか、いい感じじゃん)


「なあに?美紀の事?」


「ううん、違う」


(そうきたか、当然だよな)


ゆうこの言葉が警戒しているような口調に変わる。


「じゃあ何故、突然連絡をしてきたの?」


俺は慎重に言葉を選んで話す事にする。

店に来てほしいと感じる様な言葉は、使わないように気をつける。

ゆうこの性格が、まだよくわからないので、慎重に事を進めようと思った。


「今度プライベートで会ってあってくれないかなと思って連絡したんだ」


「どうして私と?」


「お茶しながらでも話さない?」


「やだよ~美紀に知られたら何て言うのよ」


(う~ん、ガードが固い)


話に乗ってこない。



(よし!)


「実は美紀のことで相談があって・・・」


会う口実で嘘をつく。


「でもほんとに時間がとれないのよ」


「そんなこと言わず10分でもいいから頼むよ」


「10分で、できるような話なら大した内容じゃないんじゃないの?」


(確かに・・・)


あきらかに警戒して避けられている様子。


「困ったな~しかたない、自分で何とかするよ」


(だめかあ、くそっ)


「ごめんね」


「うん、いいよ。じゃまたね」


あまりしつこくしても、いい結果は得られないと思ったので諦めて電話を切る。

電話を切ってから、しばらく考える。


(俺から会いに行くとするか・・・)


数日後、俺は昼間から出かける。


「吉原までお願いします」


吉原のソープ街、新宿からは少々遠いが、タクシーに乗って向かう。

美紀からゆうこの店名は、聞き出しておいたから、直接指名で行く事にする。

予め、電話で出勤しているかどうかは確認済み。


「お客さん、この辺りが吉原だけど」


「この店の場所わかりますか?」


店の名前の書いた紙を見せる。


「わからないな~そこの黒服の兄ちゃんに聞けばわかるはずだよ」


「じゃここで降ります」


俺は、タクシーを降りて店の前にいた男に尋ねる。

他の店の場所を聞くのは失礼かと思ったがこの際そんな事は言ってられない。


「すみませんこの店、場所どこですか?」


「ここなら、そこの角を曲がった店だよ」


「ありがとうございます」


「お兄ちゃん、いい女の子を用意するから、うちに寄ってってよ」


「あ、すみません。ちょっと目当ての子がいるんで・・・」


「そっか。じゃあ次はうちの店、よろしくね」


「はい」


俺は、店に到着してドアを開けて中に入る。


(一人で入るのって、緊張する)


「いらっしゃいませ」


「・・・」


(何て言えばいいんだ?)


「お一人様ですか?」


「あ、はい」


「どうぞ、こちらへ」


待合室みたいな所に案内される。

俺は、ソファーに腰掛ける。

スーツ姿の男が近寄ってくる。


「お客さん、システムはご存知ですか?」


「いや・・・」


「指名の子がいるなら指名してもらって、いない場合はここから選んで頂きます」


そう言いながらメニューみたいな物を手渡される。


「へえ~ここから選ぶんだ」


「当店で指名の子いますか?」


「・・・いないです」


「じゃあ、この中から選んで決まったら呼んでください」


「はい」


写真の中にゆうこを見つける。


(いた!)


「しかし、写真入りのメニューって面白いなあ」


美紀から聞いていた通り、楓という名前で載っている。


「すみませ~ん」


「決まりました?」


「この、楓ちゃんでお願いします」


「わかりました。ではここで入浴料だけ払って頂きます」


「あ・・はい」


(入浴料だけで終わりじゃないよな、これだけじゃ安すぎる)


「後は、女の子に聞いて下さい」


「はい」


「じゃあ、迎えにくるので、少々お待ちください」


「はい」


お金を払った後、ポツンと一人待たされる。

待っている時間が、何となく寂しくて落ち着かない。


(ゆうこが来るのわかってるからいいけど、初めての相手だったら緊張するんだろうなあ)


出されたジュースを飲みながら、ゆうこを待つ。


(店にお任せだと、どんな女が来るかわからないからドキドキだな)


ゆうこは俺が来たのを知らない。

会って、どういう態度をとられるかわからないから、緊張がどんどん高鳴る。


(もし追い返されたらどうしよう)


「お待たせしました~どうぞこちらへ。楓ちゃんです」


(やっときた!)


待合室から通路に案内されていくと入り口で三つ指をついて迎える女性がいる。

顔が見えない。


(ゆうこ・・・だよな?)


「いらっしゃいませ。ご指名ありがとうございます」


顔をあげたゆうこの顔が驚きの表情に変わる。

しかし、瞬時に表情を戻し冷静に俺を部屋に案内する。


(さすがプロ!)


「こちらでございます。どうぞ」


ゆうこは、部屋に入り俺を招き入れてドアを閉める。

すると、クルリと振り返り詰め寄ってくる。


「ちょっと」


「何?」


「何よ!何しに来たの?」


「いや、ゆうこちゃんの顔を見に」


「何それ!真面目に答えてよ」


今にも胸ぐらを掴まれそうな勢い。


「わかった、わかった。近い近い!ちょっと離れて。落ち着いて」


「何が離れてよ」


「真面目に答えてるよ」


「どこが?」


「ゆうこちゃんが会ってくれようとしないから、俺から会いに来たんだって」


「ばっかみたい!わざわざ高いお金払って?」


「ゆうこちゃんに会えるなら安いもんさ」


まだ不機嫌そうな顔で睨んでいる。


「まあ立ち話もなんだから、座って話そうよ」


「・・・・」


そして俺は、電話の内容通り美紀の話をする。

今の美紀の仕事の事、生活の事などを話す。

俺には、どうでもいい内容だったが、とりあえず美紀の話をしないと、不機嫌な顔が治まりそうもないと思った。

しばらくすると、ゆうこは落ち着きを取り戻してくる。


(はあ~やっとおさまったか)


「美紀の話を聞いてて、思ったんだけど・・・」


「うん」


「どうしようかなあ~」


「ん?」


(なんだ?)


少し緊張感が高まる。


「こんな話、私がしていいのかな?」


「何?そこまで言ったのなら言ってよ」


「う~ん・・・」


(何なんだ?)


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