第197話 接近①

店の慰安旅行で温泉に行く事になる。

費用は、全部お店が払うので全員喜んで参加。


(マイは、行くのだろうか?)


運転手の大川に聞いてみる。


「マイちゃんは、いつも来るの?」


「マイは、毎年そういう行事は来ないね」


「そっか」


「なんだ?なんだ?狙ってるの?」


「いや、別に」


(そっか、来ないか・・・)


そして当日。


出発の日に突然やってくる。


「あれ?まいちゃん?どうしたの?」


一人の女が大きな声で叫ぶ。


「ほんとだ、めずらしい~」


一同驚く。


社長を見ると驚いた様子ではない。

知っていたのだろう。


(やった!)


心の中で小躍りしている俺がいる。

俺は、レンタカーバスの運転だったので道中は話す事も出来ない。

後ろの座席では、みんな楽しそうに酒を飲んで騒いでいる。


しばらく走っていると、視線を感じる。


(ん?誰?)


目と目が合う。


バックミラー越しに一番後ろに座っているマイの姿。

俺は、すぐ目線をミラーから外して運転に集中する。


(何だ?この気持ちって・・・ドキドキしてきた)


恋愛初心者の子みたいだ。


俺がミラーを覗くたびに必ずこちらを見ている。

目が合うとマイは、ニコッと笑う。

マイの顔が見えないように、ミラーの位置をずらす。


(何だ?あの意味ありげな笑顔・・・)


俺は、気にしないようにして運転を続ける。


相変わらず後ろでは酔っ払いが騒がしい。

ずっと気にしながら運転している。

何となくマイが見える位置にミラーではなく自分の頭をずらしてみる。


(外の眺めを見ている。横顔も可愛いな)


しばらく俺は、その横顔をチラ見している。

すると、またこっちを向く。

俺はすかさず頭をずらした。


(見てるのばれたかな?)


再度ミラーを除くと、また目が合う。

その繰り返しが到着するまでの間に何回も続く。

この車の中での二人だけの秘密のアイコンタクト。


(これはもう脈ありと思っていいんだよな)


言い聞かせている自分がいる。

観光も終わり旅館に着く。


宴会も始まって酒が入ると、みんな乱れてひどい状態。

女達は、浴衣の帯が取れても気にする様子もない。

肌があらわになっているのに隠しもしない。

男等は目のやり場に困る。


「あ~あ、おっぱい丸見えだな。全くうちの女ときたら」


社長が呟く。

俺は久しぶりに酒を飲んだせいか酔ってしまう。

部屋に戻って酔いをさます事にする。


(そいえばマイが見当たらない)


ふらふらと部屋まで歩いていると、偶然向こうからマイが歩いてくる。


「あれ?どうした」


「うん、ちょっとトイレ」


「遼ちゃんは?トイレ?」


「いや、酔いを醒ましに部屋に行こうかなって」


「じゃあ一緒に行こうかな」


「一緒に部屋に?」


(マジか?)


「そう・・・だめ?」


俺は酔ってる勢いで言う。


「部屋に一緒になんて・・来たら狼に変身して襲っちゃうよ」


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