第196話 運命の出会い⑦

マイが出勤する日は一日ずっと一緒に過ごす。


お互いに、いろんな話をするようになっていく。

しかし、俺は送り役に指名をした事には触れていない。

聞くと二人の関係が崩れるような気がして聞けなかった。


彼の話も度々聞かされている。


「彼の事、好きなんだね」


「そうね~仲良しだよ。ただ遠いからねぇ・・・」


俺は、寂しそうに言ってると勝手に解釈する。


(じゃあ俺と・・・)


何度言おうと思った事かわからない。


彼がいるのはわかっていた事だし俺も彼女がいる。

ヤキモチを妬く立場ではないことはわかっている。

しかし俺の中で、日を重ねるごとに、どんどんマイに魅かれていく。


マイの家に迎えに行って、客のところへ送る毎日。

客と相手している間、俺は、タバコを吸いながら考えている。


「マイは彼もいるけど、客ともヤっているんだよなあ」


(今日は、三発目か・・・)


「彼に対して罪悪感はないんだろうか?」


(これって彼が知ったら地獄だな)


こんな事を考えていくうちに不思議な感覚が沸き上がる。

マイに対しての境界線が消えていく。

緊張している自分が馬鹿馬鹿しく思うようになる。


(何故だろう・・・)


高嶺の花から普通に掴み取れる花に変わったのかもしれない。


「軽い気持ちで聞いてみるかな」


戻ってきたマイを乗せ次の仕事に向かう。

中々話すタイミングがつかめない。

しばらくして、ようやく思い切って聞く事が出来る。


「そういえばさ、何故、俺を指名したの?」


「うん?なあに?」


「家までの送迎、社長が俺を名指しで頼んできたって」


「あ~そうそう、それほんとよ」


「へ~もしかして俺の事・・・」


俺は、笑いながら意味深に言ってみる。

返事を待つ間、唾を飲み込んだ。

心臓の鼓動が激しくなっているのを感じる。


「それは、運転手さんの中で一番危険性がない感じだから・・・」


「はあ?」


「違う?」


「う~ん・・・そっか」


「私の感は当たるんだけどなあ」


なんとも複雑な気分になる返答だった。


この何週間か行動をともにしていて、俺の気持ちがばれないように気を使っていた。


(全く気付かれていなかったって事か)


それはそれで寂しい。


(自分勝手な男だな)


それでもマイは俺を特別な感情でいると感じていたのに・・・。


「な~んだ期待していたのになあ」


「なにを?」


さっきは冗談っぽく言ったが、今回はまじめな顔で話してみる。


「もしかして俺の事を好きなのかな~って思ってさ」


(こうなりゃ勢いだ)


「ふふふ、さあ~どうなのかな~」


(あれ?否定しないぞ・・・脈あり?)


しばらく沈黙が続く。


(なんか言えよ!俺!)

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