第21話 初指名①
最近、ヘルプばかりで忙しい
「真樹、俺達って自分の客ができたらどうなるのかな~」
「どうして?」
「こんなにヘルプばかりで忙しいと指名が入っても自分の席に着けないだろ?」
「そうだな~その可能性大だな、でも・・・」
「でも、何?」
「そんな心配して、来てくれそうな客いるの?」
「いや、いない」
「早く客ほしいよな~」
「そうだよな~」
しばらくぶりに美紀に連絡をとってみる。
前に同棲してた女。
「久しぶり~元気?」
「うん、まあまあよ」
「今、仕事は何やってるの?」
「お水。キャバレーで勤めているの」
「へ~そうなんだ」
俺は、一瞬食指が動いたが平静を装って答える。
「そっちは?ホストやってるって聞いたよ~私と似たようなものね」
「あはは、知られてたか」
「ばかな仕事選んだんだね・・・女相手の仕事なんて」
「そうだな~美紀と付き合ってたらできなかっただろうなあ」
(客で来てもらうのは難しそう)
「当たり前よ!」
「はは・・・」
「就職祝いに飲みに行ってあげようか?」
「えっ!マジ?」
心の中を見透かされたようで驚く。
「店に来て欲しくて電話してきたんでしょ?」
「するどい!」
(昔と違って感が鋭い女になったんだな)
「あんたの考えることくらい、今でもわかるわよ」
「言うね~でもほんとに今どうしてるか心配だったのと半々かな~」
(俺ってわかりやすい男なんだろうか?)
「今は、稼いでいるから大丈夫!行ってあげるよ」
「サンキュー」
うれしかったが複雑な気持ちになる。
(学校まで行ったのに、何故また水商売に戻ったのだろう?)
そんな腹立たしい気持ちになる。
(あれから美紀も色々あったんだろうな)
「来てくれたら、美紀が初めての指名だよ。」
「そうなの?もういっぱいお客いるのかと思った」
「現実は厳しいね」
「私もそうよ。身体ばかり目当ての客で大変」
「そっか。大変な商売だ」
(今更だけどホストに来る客って身体目当てなのだろうか?)
ふとそんな疑問が沸く。
「じゃ、来る日にち決まったら連絡してよ」
「うん、わかった」
相原に相談する。
「指名で来てくれるお客がいるんですが・・・」
「おー!やっとだな」
「でもヘルプの仕事が忙しくて相手できないのが心配でして」
「そうだな~今の状態では無理があるよな」
「どうすればいいでしょうか?」
「う~ん・・・早い時間に呼べばどうだ?」
「はあ・・・」
「店が開店して、すぐ呼べば大丈夫だろ?」
「そうでしょうか?」
「俺らの客が居なければ、ゆっくりと接客できるだろ?」
「なるほど。そうします」
「うまくやれよ!」
「うまくやるも何も、別れた元彼女なんです」
「そっか、じゃまた復活させて、バンバン店に呼べよ」
「そんな上手くいくかな」
(簡単に言うよなあ)
「自分の為にがんばれ」
「自分の為ですか??」
「そうだよ」
「はい」
(自分の為ってなんだ?)
美紀と喫茶店で待ち合わせをする。
「久しぶり~」
「久しぶりだね」
そこには美紀ともう一人の女性が座っていた。
(誰だ?)
「変わってないわね。元気だった?」
「まあまあね。こちらは友達?」
「そう、友達のゆうこ」
「こんにちは」
(かわいいじゃん)
「初めまして」
その時、俺の頭の中にとんでもない考えが浮かぶ。
「ホストクラブ行くって話したら、ホスト興味あるっていうから連れて来ちゃった」
「お店の友達?」
「違うけど・・・連れてきてまずかった?」
「大丈夫!大歓迎だよん」
美紀は、この世界で言うエダを連れてきた。
「普段着できちゃったけど大丈夫かな?」
「平気、平気!問題ないよ」
(この子もお水だろうか?そんな風に見えないけど・・)
「それなら、よかった」
「ところでお腹は?」
「少しすいている」
「じゃあ、何か食べてから行こう。ここのオムライス美味しいよ」
「うん。ゆうこも食べる?」
「うん」
「じゃあ俺も一緒に食べよっと」
俺は、三人分のオムライスを注文する。
「ゆうこさんは、美紀と同じ職場?」
「ううん。違うけど似たような仕事かな」
「そっか。ホストクラブは初めてなんだよね?」
「うん」
ゆうこは、おとなしそうな女。
ゆうこがトイレにいった時に、美紀がこっそり俺に耳打ちする。
「ゆうこはソープランドで働き始めたばかりなのよ」
「え~!そんな風に見えないね」
(マジかよ)
「でしょ?女ってわからないものよね〜」
「お前が言うな!でも他のホスト達が知ったら飛びつきそうな職種だ。」
(俺には、降って湧いたような話だよな)
「そう言うと思った」
「仕事の事は、聞かないで内緒にしてあげて。あたしからも聞いてない事にしてよ」
「オッケー」
ゆうこがトイレから戻ってくる。
「二人とも自分達の仕事は、ホスト達に言わないようにね。適当に言っておけばいいからさ」
「わかったー」
「ゆうこちゃんもね」
「そうなの?」
「言わないほうが無難だから」
「ふ~ん」
「でも、しつこく聞くだろうなぁ」
「聞かれたら、本当の事を言っちゃいそうね」
「そうだな~喫茶店のアルバイト仲間だということにしたら?」
「喫茶店?」
「うん」
二人が顔を見合わせて笑う。
「私達が?」
「そう」
「もうちょっと洒落た仕事はないの?」
「それでいいと思うけどなぁ」
「遼は、相変わらず嘘が下手なのね。それしか浮かばないなんて・・・まあいいわ」
「そういう事を言うなって」
俺は、ある考えが再び頭によぎる。
(美紀との関係は終わっている)。
(ゆうこも俺の客にできないかな?)
エダも自分の客にする。
これは梶の仕事のやり方。
梶は、自分の客の友人もヘルプには紹介しない。
仲の良い友達同士でも別々に指名させてしまう。
そして、エダだった女も鉢合わせしないように別の日に一人で来るようになる。
それ以来、二人一緒に席を座る事はない。
女達はお互い梶の事を自分の男だと言っている。
(どうやって言いくるめているんだろう?お互いに、口止めさせているのか?)
親友同士なのに二人とも自分の女にしてしまうテクニック。
(教えてほしいなあ)
ズル賢く生きていかなくては、のし上がれない世界。
真意ではないが、この世界で生きていく為に、真似をしていかなければと思う。
「さあ、お腹も満たした事だし店に入ろう!」
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