第20話 ホストのダンス

毎日毎日俺と真樹はヘルプの仕事で忙しい。

店の中を走り回っている。

毎月、一日に売り上げの発表がある。

相変わらず梶は、ナンバー1。


俺と真樹は皆勤賞一万円をもらった。

一日も休まず出勤しているともらえる賞だ。


「休みなしは、疲れるな」


「ま、休んでもすることないしな」


「あはは、確かに」


休めば給料もヘルプ代も減るから、新人は休んでいられない。

それに休むと出勤している先輩達に、迷惑がかかるという理由もあるので休めない。


「今月のヘルプ賞は、遼!」


「お~!」


拍手がおきる。


「ありがとうがざいます」


「先輩達に礼言わないと、だな」


「はい」


ヘルプ賞、店の中で一番ヘルプの数が多いという賞。


(でもホストとしては指名の数や売り上げで勝負したいな)


他の新人は、給料が月に10万もない。

俺達は先輩達のおかげで20万以上の金を手にしている。

俺は初めてもらった給料で買うものを決めていた。


「真樹、俺は、これ買ったぞ」


「何?」


「デュポンのライター」


「お~かっこいい。俺も買わないとだめかな?」


「キ~ン」


「このあけた時の音がいいんだよな~」


「いい音だね」


「これであの火を消された、梶さんの客にタバコをつけてやるんだ」


「あはは、まだあの時の事、根に持っているんだ」


「当たり前だよ。あの時ほど理不尽な思いったらなかったもんな」


タバコのつけ方のもコツがある。

まず自分の手元で火をつける。

真っ直ぐではなくライターを横にして火が折れ曲がるようにして客のタバコに近づけていく。

ギリギリまで持っていかず、客から少し火に近づいてもらって点ければ髪の毛を燃やすこともない。


うちのグループは、店の中で勢力が強い。

梶たちの傘下にいるということで、他のグループからもヘルプとして席に呼ばれる。

他のグループだと俺達のグループの商売方法とまた一味違う接客のやり方を学べる。


梶の商売には、女=金という図式が強すぎる。

今の俺には、あまり好きにはなれない仕事の方法。


(こんなきれいごと言ってちゃだめなんだよなぁ)


他のグループでは「枕ホスト」

いわゆる女性と寝て体で売っているホストもいる。


梶とナンバー1争いをしているホストは、そうらしいと噂だ。

陰口で枕ホストと呼ばれている。


(いろんな商売の方法を試してみないとだめだろうな)


相原から指令が出る。


「お前達、早くダンスを踊れるようなれよ」


「はい。でも、見ていて難しそうですね」


「恥ずかしがらないで、どんどんホールで踊れよ」


「踊れないのにホールで踊るって・・・」


「そんなこと言ってたら、いつまでたっても踊れないぞ」


「はい。でも踊れないのに、ホールで踊るのは恥ずかしいです」


「だったらダンス教室通ったらどうだ?」


「ダンス教室?いいですね。行ってみます」


さっそく俺は、近くのダンス教室に通う。

ジルバを覚えたが中々うまく踊れない。

型通り踊れているが、先輩達のようにかっこよく見えない。

ホストが踊るダンスは、教室で教えるオーソドックスなダンスとは少々違うようだ。

スクールで聞いてみる。


「先生、ホストが踊るジルバは、教わったのと違う感じがするんですが・・・」


「基本は同じだけど、ホストさん達は自分でアレンジして踊ってるみたいだよ」


「どうすればいいですか?」


「どうって言われてもホストのダンスは見たことないからなあ」


「そうですか・・・」


「基本さえ覚えたら、後は簡単だからしっかり覚えましょう」


そんなある日、主任が掃除中のホスト達に言う。


「店の営業前に、先輩が新人達にダンスの講習会を開いてくれるから教わりたい人は早めに出勤する様に」


「やった!お金かからなくて助かります」


俺は、スクールに行くのを辞めて店で教わる事にする。


ある日、店に来たアリスに話をする。


「ちょっと頼みがあるんだけどさ」


「なあに?」


「俺のダンスデビューの相手になってくれないかな?」


「いいよ~少しはうまくなった?」


「まだ全然だめ!だから教えてほしいんだ」


「わかった!じゃあ私をこれから先生とお呼び!」


「全く~えらそうに・・・でもかわいいから許す」


「よし!でも私の授業料高いわよ~」


「了解。払えない時は、身体で払います」


「あー言ったね。梶が聞いたら知らないよぉ〜」


「え?」


「そんな冗談通用しないかもよ」


「も~勘弁してよ」


まだ梶が出勤前だったから、アリスを独占して思う存分踊る。

アリスの手や腰などを触れて、少しドキドキする。


(俺、こいつの事を好きなのかな?)


そんな思いを頭の中から追い出しながら踊る。

やはり実践のほうが身体の覚えが早い。


「中々上手よ」


「ありがとう」


「ジルバもいいけどハマジルを覚えなよ」


「ハマジル?教えてよ」


「ジルバのテンポより倍速いわよ」


「はい!師匠」


「ははは、ばかね」


基本ができてきたから、すんなりとハマジルも踊れるようになった。

真樹も同じように進歩していく。


ダンスも踊れる様になり、いよいよ自分の客が店にやってくる。

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