第19話 ナンバー1のギャンブル

店が終わって、梶が近づいてくる。


(何?)


普段、梶から直接俺達の所に来るなんてあり得ない事なので緊張で体が固まってしまう。


「おい行くぞ!」


「あ、はい」


(また焼き肉?ダイエット中なのになぁ)


最近、酒と肉でどんどん太ってきたので家に帰っても起きてからも食事をしないようにしている。


「今日は焼肉じゃなく頭と指の運動」


「運動ですか」


(何だ?ジム?)


付いて行き到着すると、そこは高級クラブの入口。


(また飲むのかな?)


入り口にインタホーンとカメラが着いている。

警戒厳重。


(なんか様子が違うぞ)


ボタンを押してしばらくすると中から鍵があいた。

中の様子が見える。


(あ・・・ここ、ゲーム喫茶だ!)


「いらっしゃい」


「今日も遊ばしてもらうよ」


「いつもどうも」


梶がスタスタ中に入ると俺達も遅れて続いて店の中に入る。


「梶さん常連って感じだね」


「うん」



店内に仕切られたソファーにポーカーのゲーム機が数台置いてある。

バイトしてた店は喫茶店みたいだったが、ここは高級なクラブそのもの。

後で話を聞くと、元高級クラブをそのまま居抜きで使っているそうだ。

食事も無料。

豪華でうまい。


「おまえら、これで適当に遊べ」


俺と真樹に無造作に手渡す。

渡されたお金を見ると1万円札が数枚ある。


「え?」


「もし増やせたら、こづかいにしていいからな」


そう言って、離れたゲーム台のほうに行ってしまう。


「お前、いくら?」


「五万?」


「俺もだ」


あまりにも一瞬の出来事で驚いて礼を言うのを忘れていた。

親、親戚以外の他人から小遣いをもらうなんて、今まで経験がない。


「おい、真樹、どうする?」


「梶さん太っ腹!やるしかないでしょ!」


「よ~し増やすか!」


ゲームをしていると、ふと考えが浮かぶ。

使い切らないで半分だけ使い、残りは持って帰ろうかと。


(セコイか?)


ゲーム屋で働いていたから五万なんてすぐになくなるのはわかっている。

この頃から俺の金銭感覚が麻痺していく事になる。


相原が二人の座ってる傍を通る。


「相原さん、梶さんにお金もらいました」


「お~よかったな。軍資金だな」


「今の俺達の一月分の給料ぐらいあるんですけど・・・」


「使わないで持ち帰るようなせこいことするなよ」


「はい」


(やば・・・見透かされてる)


梶の博打は凄まじい。

しかし、この時はこれが梶の命を縮める事になろうとは知る由もない。


梶の金の使い方は、1時間に何十万も使う。

機械の親相手に勝ち、自分の掛け金がポーカーの役によって何倍かに増える。

そのままカウントしてもいいが、その勝ち点をさらに増やす事ができる。

めくるカードが真ん中の七の数字よりビッグかスモールを当て数字を倍に増やしていく。

倍、倍と増やすと上限一杯で機械がパンクして自動でクレジットが落ちる。

一点百円だが、ビックスモールを当てていくと、最後には儲けが百万近くなる。


「はい!パンク~ご祝儀も頂戴~」


梶が叫ぶ。


その店は、パンクさせると勝ち金以外に祝儀がもらえる。


「また、梶さんパンク?」


「すげえ~勝負師だ」


そんな様子を女は、隣でただ見ているだけ。


「隣にいるだけじゃ退屈じゃないのかな?」


(ゲーム代のお金を、梶さんに渡しているとか?)


あの客に対しての金の引き出し方は、この方法なのかもしれない。


「真樹、梶さん勝った時の金はどうしているのかな?」


「さあ」


「元手は女の金だよな?」


「勝って儲けた金は自分のポッケじゃない?」


「どうなんだろな」


(そうだったら、ズル賢いな)


傍にいても、まだ梶の仕事のやり方がよくわからない。


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