第18話 グループの活動
相変わらずうちのナンバー1は出勤率が悪い。
(店に居なくても客が店に来るのは何故なのだろう?)
いつも梶の席で客の顔を見ながら、そんな事を思いながら座っている。
それでも客は楽しそうに会話している。
(指名者がいないのに、よく我慢してるよな)
不思議・・・ほんとに謎だらけだ。
同じ世界にいる中、そんな事ばかりが浮かび上がってくる。
ホストは博打好きが多い。
(これも一種のストレス発散方法なんだろうか?)
うちのグループもみんな博打好き。
席で梶が突然、俺達に話しかけてくる。
「お前ら、ポーカーゲームやったことあるか?」
「・・・・」
(なんだ、いきなり)
俺と真樹は、顔を見合わせる。
「実は、ここに来る前はゲーム喫茶でバイトしていました」
「へぇ~そっか」
「はい」
「だったら、遊び方はわかるな」
「はい」
「じゃ今日、店が終わったらつき合え」
「はい、わかりました」
断れる雰囲気ではなかった。
ゲーム喫茶に行くのはいいが、よくよく考えたら俺達には遊ぶ金なんてない。
「真樹どうする?」
「軍資金ないよな」
「だよな~適当な理由を言って断るか」
「それが無難だよな」
営業が終わりの時間に近づく。
「おい、行くぞ」
「はい・・・」
(やっぱり行くんだ)
真樹がとっさに答える。
「梶さん、俺たち掃除があるので帰れないんですよ」
(お!さすが上手い言い訳。やるな真樹)
梶が店内に響き渡るような声で叫ぶ。
「店長~!こいつら連れて帰るからいいだろ?」
「おう、いいぞ」
「ほら、いいってよ。早く帰る支度しろ」
「は、はい」
(店長~~事情も知らないくせに簡単に言いやがって!)
俺たちは急いで支度する。
「おまえらずるいよな~」
いつも一緒に片付けをしているホスト達からたっぷり皮肉を言われる。
「すみません、お先に失礼します」
(ほんとは行きたくないんだけどなぁ)
掃除をしないのは助かるが、ゲームをやる金がない。
(どうするか・・・)
「付いていくだけでいっか?」
「そうだな」
二人でコソコソ話しながら、梶の後を付いて歩く。
誘いを受けた事によって、俺と真樹もようやくグループの一員として梶に認めてもらえたのかと思うと嬉しく感じる。
梶の客と赤坂、そしてグループ全員で外に出る。
俺と真樹も入れると七人だ。
派手なスーツを着た男達がぞろぞろ歩いている。
普通なら異様な光景に映るだろう。
それが歌舞伎町では違和感を感じないのが不思議。
俺は小さな声で相原に聞く。
「どこに行くのですか?」
「焼き肉」
「え?」
「ポーカー屋に行くのかと・・・」
「なんで?」
「梶さんが、ポーカーゲームのやり方がわかるかどうか聞かれたんで」
「そっか。客が腹減ったんじゃない?」
「そうなんですか?」
「いつも梶さんの予定は、未定だから!気まぐれな人なんだよ」
「俺達、焼き肉食べるほど金持ってないですけど」
「あはは、金の心配はするなって」
今まで焼き肉は、年に何回か行けるかどうかだったのでテンションが上がる。
店に着いてから梶がオーダーをする。
「いつものやつ、どんどん持ってきて」
(いつもの?)
店員も慣れているせいかどんどんオーダーを運んでくる。
あっという間にテーブルの上は、食べ物で埋め尽くされる。
(すごいな)
「さあどんどん食え!」
梶が叫ぶ。
「おい新人。お前らも早く食え!」
「はい、いただきます」
焼かれた肉をどんどん口に運ぶ。
「真樹、滅茶苦茶うまいな」
「あ~今まで食ったことないよ~こんな肉」
梶は、自分は食べないでみんなが食べる様子を見ながら客と会話している。
相原が耳打ちしてくる。
「店が終わったら毎日の様に来る事になるから覚悟しておいたほうがいいぞ」
「え?毎日焼肉ですか?マジ?やった!」
「そんなこと言っていられるのも今のうちだろうなぁ」
相原は、笑いをこらえながら答える。
(なんで今のうち?)
俺には毎日焼肉なんて光栄な話。
「なんか、新人さん達の食べっぷり見ていて気持ちいいわね~」
「あっ!すみません。美味しくて、つい・・・」
「いいから遠慮しないでどんどん食え!」
梶は、店の中で見せる表情と違い笑顔で楽しそうな顔をしている。
(梶さん、こんな表情もするんだな)
「じゃ肉おかわりいいっすか」
「早く食えよ。もうそろそろ帰るぞ」
「はい」
腹一杯食べた。
「くるしい~~死にそ〜」
梶がレシートを見ながら客に耳打ちすると、万札を数枚財布から出している。
(10万以上?)
少し食べ過ぎたかなと反省する。
梶の客には、俺も真樹も飢えた動物のように映っていたかもしれない。
焼き肉屋を出て、みんなでゲーム喫茶に行く事になる。
「じゃ、俺達は帰ります」
(帰れるか?だめか?)
「おう!気をつけて帰れよ」
「はい。ご馳走様でした。失礼します」
二人でその場を離れる。
「梶さん、引き止めなかったね」
「誘った事、忘れてるんじゃない?」
「あはは、有り得る」
その後、相原の言った様に毎日焼き肉通いが始まる。
次の日も焼き肉。
また次の日も・・・。
さすがに五日目は、向かう足が重くなる。
飢えた動物も食べ方が上品になってくる。
特上肉ばかりなのに胃にこたえる。
(だから梶さんいつもつまむ程度でそんなに食べないんだ)
相原が話かけてくる。
「どうだ?俺の言ってた理由、やっとわかっただろ?」
「はあ~よ〜くわかりました」
「まだまだ続くぞ」
「もう~恐ろしい事を言わないで下さい」
俺と真樹は、五人のホストのヘルプなので毎日誰かしら客とアフターに行く可能性がある。
どの先輩とも、付き合って行く事になるから俺達は必然的に毎日行くはめになる。
それに毎日同じ客とは限らない。
次の日は、別の客もやって来る。
その客が焼き肉に行きたいと言えば行く事になる。
昨日、焼肉食べたなんて絶対に言えない。
昨日も一昨日もここに来ていても俺達は言う事は同じ。
「久しぶりに焼き肉だ~」
「うれしいな!いただきま~す♪」
「そうなの?じゃどんどん食べなさい」
「ありがとうございます」
帰る道中お腹をさすりながら
「真樹、いつまでこんな生活続くんだろう」
「早く、指名者になれって事だな」
「だな」
贅沢な悩みだった。
ある日、突然グループのトップの梶が声をかけてくる。
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