第17話 キャッチ

片付けも終わり真樹と店を出る。

店を出ると、すっかり夜も明けて空が明るい。

早朝の歌舞伎町の中心街は、人も動いている車もなくゴーストタウンのような街並み。

歩道脇のゴミ置き場でカラスが生ごみをあさっている。


二人で駅に向かい、駅前ですれ違う人が出勤途中の会社員ばかり。

俺も、いよいよ夜の人間になったのだなと実感した瞬間。


「真樹、起きたら待ち合わせして、お客のキャッチに行かない?」


「そうだな。ヘルプばかりじゃ、つまらないもんなあ」


真樹とよく一緒にナンパしてた頃を思い出す。あの頃と今回は少々勝手が違うように思える。

一夜限りの出会いや遊び感覚のナンパなら気楽だが、仕事としてお金払って店に来てもらうのとでは会話の内容が違うし、そう簡単にはいかないだろう。


夕方から歌舞伎町に繰り出し、慣れない手付きで名刺配りをする。


「すみません~俺達ここで働いているんだけど飲みに来ない?」


名刺を出すと、あからさまに嫌な顔をされ小走りで逃げていく。


「だめか・・・」


(難しいなあ)


それでも懲りず、声をかける。


「うちの店に飲みに来てください。」


名刺を受け取ってくれた。

立ち止まり名刺を眺めている。


(やった。見てるぞ)


「あれ?ここの店、いつも行ってるわよ」


「あっ!もしかして指名者いるとかですか?」


「そうね、いるよ」


「すみませ〜ん、名刺は返して下さい」


「そうなの?行ってあげようか?」


「いや、忘れて下さい」


(やばい、やばい)


先輩ホスト指名で来ている女に出くわしたりして早々と退散する事もしばしば。

店に来てもらうって事は、大変な事だと日に日に肌で感じる。


「お金を使って来てもらうのだから、そう簡単にはいかないんだなあ」


ホストの中にも元やくざもいる。


「ホストもやくざも、やっていることはあまり変わらんよ」


「そうなんですか?」


(どこが同じなんだろう?)


「ホストは、女を食い尽くす寄生虫さ」


「寄生虫って・・・・」


(よく言うよなぁ、言ってる自分もそのホストなのに)


「ヤクザのほうが男気あっていいかもな」


「そうですね」


よく意味がわからなかったがとりあえず相槌を打っておいた。


(そんな輩は、やくざにもホストにもごく一部だと思うけどなあ〜)


そう信じる事にする。


ホストは客に店でお金を使ってもらって、売り上げが上がり給料が増える。

金を女から直接もらうのは難しい。

店でお金使ってもらって、間接的に財布から金を引き出すほうがやりやすい。


ホストは夢を売る仕事!


そう言えば聞こえはいいが・・・。

結局は、その見返りが金。

どちらにしても貢いでもらっていると言われても仕方がないのかもしれない。


先輩がよく言っている。

店での売り上げを表の仕事。

店以外でお金を引っ張るのが裏の仕事。

裏の仕事は、店の売り上げの何倍にもなると教わる。

俺には、まだよくわからない事だらけだった。


しかし、俺のグループのトップの仕事を見ていくうちに納得していく。

一月ほど経つと、先輩ホストの客の顔もほとんど覚えてた。

少しずつだが、会話ができるようになってくる。


そして、それに伴いこの店での謎が浮かび上がってくる。


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