第16話 ナンバー1の出勤

次は赤坂の席に向かい座る。

赤坂は、この客と同伴で店にきたようだ。

出勤して最初からこの席に座っている。

城も俺の後ろからきて、すぐに席に着く。


「赤坂さん、彼が話していた新人です」


「おっ、そうか。がんばれよ」


「はい」


「なんか初々しいわね」


赤坂の客は、優しそうな人に見える。


城は、俺を客と赤坂に紹介する為に席にきてくれてるようだ。

紹介も終わるとすぐに席を立つ。


赤坂は、人の良さそうな落ち着いた感じのホスト。

向こうからいろいろ話しかけてくれるので俺も会話ができた。


(こういう席ばかりだといいな)


店の中の空気が変わった。


(何だ?)


入口の方で挨拶が飛び交っている。


「おはようございます」


「おはようございます」


ナンバー1の梶が出勤してきた。


「なんだ?こんな早い出勤はめずらしいな」


目の前の赤坂が言う。


「外は、雨でも降っているんじゃないか?」


「そうなんですか?」


俺は、訳がわからず答える。


「おい、遼だっけ?」


「はい」


「ここは、いいから梶の同伴客の席の準備してこいよ」


「はい、わかりました」


急いで立ち、向かう。


(理不尽な客じゃなきゃいいけどなぁ)


俺の足取りは、重い。

でもそんなことは、言ってられない。

俺は、急いで水割りセットを用意して席に向う。

すでに相原がボトルを持ってきて客と会話している。


(さすがやる事が早いな)


「あっ・・・」


そこには見慣れた顔。

アリス。


「遼、久しぶり。仕事ぶり見にきたよ。」


うれしさが込み上げてくる。


「どう?慣れた?・・・ってまだ入ったばかりで無理だよね。あははは」


今まで口の中が乾いていたのが一気にうるおった感じがする。

梶は、一旦席に着くが会話もなく俺に目線を移す事もなく周りを見渡している。

そして、すぐ席を立っていなくなる。


「あれ?どこに?」


「すでに来ている客の所でしょ」


「そうか」


(アリスは、他の女の所に行かれて平気なんだろうか?)


たわいもない冗談を話しながら、水割りを作り乾杯をする。

会話がはずむ。

相原とは、この時初めて会話をする。

きさくな感じで、冗談ばかり言ってて面白い人だ。


突然、相原が目で合図をしてくる。


「あっちの梶さんの席にヘルプ行ってきて」


「はい」


見るとあの女の席。


(あいつか・・・)


渋々向かう。

女は、さっきとは別人のように笑顔ではしゃいでいる。

鬼から姫に変身したようだ。

俺にはそう見える。


席に着くといきなり女が、俺を見ながら梶に話しかける。


「この子さぁ、さっき私の仕事聞くのよ」


梶が鬼のような形相に変わる。


「ばかか、お前」


「・・・・」


何も答えられない。

その一言を聞いて俺にはわけがわからず萎縮してしまう。


その後、別の席で相原にそっと梶の席での話をする。


「梶さんに怒られました」


「何で?何かしたのか?」


「はい。梶さんのお客に仕事を聞いた事で」


「あ~なるほど。それは、おまえが悪い」


「何でですか?」


「ここに来る客は、大声で人に言える仕事してない女が多いから仕事を聞くのは、ご法度かな」


「そうなんですね」


「ヘルプで着いたグループ外のホストの客の仕事を聞くなんて、もってのほか」


「そうですね」


「聞くなら、エダを自分の客にしてからがいいと思うよ」


「はい」


「ま、だいたい、お水か風俗の仕事だから、聞かなくても格好でわかるよ」


「格好ですか・・・」


(格好でわかるものなのか?)


「みんな身体張って、プライドを持って仕事してる」


「はい」


「自分の仕事に恥じてる女はいないが、敢えて職業をベラベラとしゃべる女はいないよ」


「はい」


「そのへんを察して営業すればいいさ」


「はい。わかりました」


「俺は、いきなり聞くけどな」


「え・・・」


「キャラだよ。俺クラスになるといいんだよ!あはは」


「そうですか」


(滅茶苦茶だな)


今日の一日は早い。

あっという間に仕事が終わる。

接客は大変な仕事だ。

へとへとになり、さらに今日はお酒もかなり飲んだのでふらふら。

もともと俺は酒が強くはない。

すぐにでも帰って寝たい気分。

しかし、いつものように店の後片付けをしなくてはいけない。


「飲みすぎた~気持ち悪〜い」


「眠いな~早く片付けて帰ろうぜ」


「そうだな」


片付けを終えて二人は店の外に出る。

そこには見た事のない歌舞伎町の街が広がっていた。

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