第22話 初指名②

席に着いた美紀とゆうこは、ホストクラブが初めてなので緊張した様子で店内を見渡している。


「遼、なんかキラキラしてて派手だね~」


「そうかな?毎日見てると感じないよ」


真樹が席にボトルを持ってくる。


「いらっしゃい、真樹です」


俺は二人を紹介する。


「美紀とゆうこちゃんね」


「遼と昔付き合っていたんだって?」


(いきなりそれかよ)


「そんな話、いつしたの?」


「美紀が来るって話をしてから」


(ほんとは、もっと前に話してたけど・・・)


「そう」


「こいつとは、ここに入る前からの親友なんだ」


「ふ~ん、そうなんだ。知らなかった」


「美紀と別れてから、いつも一緒につるんでいた奴なんだ」


「ふ~ん。という事は、悪友って事ね」


「失敬な~俺はいたって真面目。遼はどうだかわからないけどね~」


「なんだって」


「あははは」


他の新人仲間にもグループではないが、席に座ってもらう。


(先輩ホスト達は、出勤前だからから、他のグループだけど座ってもらっても大丈夫だろう)


新人ホストのアキラがいきなり話しかける。


「仕事は何やっているんですか?」


(さっそく聞いてきたな)


職業は聞くのは、ご法度なのだが新人は、まだ教わっていない事が多い。


「二人の仕事は喫茶店のアルバイトだよ」


俺が彼女達より先に、間髪いれず答える。


「美紀とは昔付き合っていたんだ」


一応、軽く釘を刺しておく。


「へ~遼の元カノか~。かわいいいじゃん」


「あら、さすがホスト。言うわね」


「いや、お世辞じゃなく本心だよ」


「あきら、元カノだから口説いて自分の客にするつもりか?」


「いや、とんでもない!」


「あはは、わかってるよ」


俺は、指名者だという事で梶達の真似して何もしないで美紀たちの隣に座っている。

真樹が水割りを作ってくれる。


(指名者は、何をすればいいんだ?)


初めての事なので何をしていいかわからない。


(ただ会話だけをしていればいいんだろうか?)


まだ指名者らしく振舞えない自分がいる。


「二人とも飲むペースが早いよ」


「あはは。お酒が美味しい~」


二人とも酒が強いが酔いも回ってきた様子。


「よく飲むね。酒も強いな~」


「だって毎日仕事で飲んでいるんだもん」


「しぃー!そういう事を言わない。仕事が、ばれるだろ!」


緊張の糸がほどけてきたのか二人とも、よくしゃべるようになってくる。

俺は、美紀が自分達の仕事の話をうっかり口を滑らさないかどうかヒヤヒヤしている。


(この様子だと、みんなにボロが出る前に早く帰したほうがよさそうだ)


「遼、そろそろ先輩達が出勤してくるぞ」


「そうだな。先輩の客が来る前に帰さないとだよな」


「ごめん美紀、もうすぐ忙しくて席に座れなくなると思うんだ」


「うん、それがどうかしたの?」


「だから、そろそろ帰らない?」


「え~~」


「やだ~もっと飲みたいよ、ねえ~ゆうこ」


「ほんと、ほんと、まだ飲み足りないわ」


「やっと楽しくなってきたところなのに」


酒の勢いもあってか文句タラタラ。

俺は、ゆうこも客にする為、二人に早く帰ってもらいたい。

先輩が出勤してきて席に着かれるとゆうこが客として盗られてしまうのでは心配だった。


美紀達が店に来てから、ゆうこから連絡方法を聞きだす方法をずっと考えている。

そんな時、美紀がトイレに行く為、席を立つ。


(チャンス!)


「ゆうこちゃん、連絡場所を教えてよ」


「え~なんで?私の連絡先?美紀が怒るわよ」


「美紀は、たまに音信不通になるんだよ」


「それで?」


「連絡先変わっても、ゆうこちゃんには連絡先教えるでしょ?」


「そうね・・・多分」


「だから、美紀と連絡とれなくなった時の為に教えといてよ」


(とっさに浮かんだとはいえ、苦しい理由だ)


「そう・・・わかったわ」


「サンキュー」


(疑ってるかな?)


「連絡場所を聞いたことは、美紀に内緒にしてくれるかな」


「え?それっておかしくない?」


「いや、変に疑われても嫌だしさ」


「ふ~ん、そういうことなら・・・」


感のいい女なら俺の企みを薄々感じたかもしれない。


(企みにわざと乗ってくれてたりして・・)


「なんか二人でこそこそしてなかった?」


後ろから急に声をかけられ、ビクッとする。


「ばか!何にも話してないよ。美紀がトイレ遅いからウンチかなって話していたんだよ」


「やだ、何話してるのよ。違うわよ」


「あはは、美紀、遼って面白い人ね」


「これ?こいつは、ただ馬鹿なだけよ」


「これってなんだよ!俺は物か!」


トイレから帰ってきた美紀は何も疑いもなく座って飲み続ける。


俺とゆうこは、何故か目が合いお互いに含み笑いのような表情をする。


(脈ありかな?)


「じゃあ、そろそろいいかな?」


「もう~つまんない。仕方ないわね。ゆうこ帰ろっか?」


「そうね」


美紀は、不満そうな顔をしながらゆうこと帰っていく。

俺は、帰り際のゆうこの振り返った笑顔を見て脈ありと感じる。


「美紀は、たまに店に来てくれればいいさ)


この後、ゆうこは俺にとって男として成長していく大切な女になる。

見送って店に入ると店長か叫ぶ。


「遼、真樹!ヘルプは入ってるぞ!急げ」


「はい」


「遼、すんなり帰ってくれてよかったな」


「ああ」


二人を帰してからは、いつものようにあわただしいヘルプの時間が始まる。

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