第23話 キャッチした女①
出勤前に真樹と客をゲットする為、歌舞伎町を歩き回る。
次々と声をかけていく。
「すみません。ちょっといいですか?」
スーツを着ているせいか、以前ナンパしていた頃よりも、すぐ立ち止まってくれる。
(スーツのが警戒されにくいのだろうか?)
短い会話をして、名刺を渡し店に連絡をくれと言って別れる。
ビラ配りしてるのかと錯覚してしまう。
渡した名刺を見もしないで離れた所で、捨てる様子も見る。
(捨てるなら受け取るなよな)
「今度うちの店に来てください」
「店って何屋なの?」
「ホストクラブですが・・・」
そう言うと必ず目を細めながら聞いてくる。
「料金が高いんでしょ?」
「そんなことないですよ。安くしときます」
「ホストって女を騙してお金とるんでしょ?」
「そんなことないです。それは偏見ですよ~」
「だめだめ」
こんなやりとりで、立ち止まる事もなく歩きながらの会話。
ほとんど無視か敬遠される。
新人には、店に安く来てもらうシステム料金がある。
それを利用しながら店に誘いをかけていた。
そこに美容師の二人と出会う。
真樹とうまく連係して立ち止まらせる事に成功する。
「ねえうちの店で一緒に飲もうよ」
「お金がないから無理」
「そんな事、言わないで」
「高いんでしょ?ホストクラブって」
「そんな事ないよ。一万円で飲めるからさ」
「ムリムリ、二人ともそんなお金ないよ」
「じゃあ俺がおごるからおいでよ」
「おい!遼!そんな事言っていいのか?」
真樹が慌てて耳打ちする。
「いいの、いいの!先行投資」
二人は後ろを向き小さな声で話してる。
「どうする~?ただなら話のネタに行ってみようか」
「そうね。面白そうね」
「聞こえてるよー。よし!決定!じゃあ行こう」
この少しの出費が後々、何倍にもなって返ってくるとは、この時は予想もできなかった。
4人で店に向かいながら歩いている。
俺達は並んで歩きながら小さな声で話す。
「おい真樹、指名はどうする?」
「おまえはどっちがいいんだ?」
「女の意思は聞く?」
「うーん、そうだな。金出すんだし俺達の希望優先でいいよな」
「勝手に俺らが決めよう」
「そうだな。」
「俺はあの幼な顔なのにアンバランスなナイスバディのほうがいいな~」
「相変わらず遼とは好みが違うな。俺は、スリムな子の方」
真樹と俺は、好みの女がまるっきり逆なので取り合いになることは今までにない。
二人とも地方から出てきて一人住まいらしい。
「真樹、今日はお持ち帰りというか、部屋に転がり込めるかどうかの勝負だな」
「えっ?もういきなり部屋行っちゃうの?」
「善は急げだよ」
「おまえも好きだな~」
二人は、おごってもらえるという理由もあったが、ホストにも興味津々だったみたいですんなりと付いて来てくれた。
「真樹、お互いのパートナーの横でエスコートだ」
「そうだな」
俺達は、彼女達の隣に行く。
「お互い店に着くまで、名前くらいは知っておかないとね」
「あはは、そうだね。名前言ってなかったわね。」
「俺達は、名刺に書いてある名前だよ」
「私は、弘美。遼さんでいいんだよね?」
「うん、リョウでいいよ」
「いきなり呼び捨て?」
「うん、いいよ。その方が親近感あっていいじゃん」
「真樹さんの隣の彼女は早紀」
「早紀ちゃんね、了解。二人は、学生?働いてる?」
「美容師。まだまだタマゴだけどね~」
「じゃあ将来は自分のお店を持つのが夢なのかな?」
「そうなるといいけど・・・」
「彼氏はいる?」
「いるって言いたいとこだけど、今は二人ともいないよ」
「そうなんだ」
「男より仕事って事かな?」
「そういうわけではないけど・・・」
「遼さんは、彼女いるの?」
「あ!またさん付けしてるし」
「まだ無理だよ」
「まあ、そのうち呼べるようになればいいね。俺?彼女?いないよ」
「ほんとかな~」
「彼女いたら、この仕事続けるの難しいからさ」
そんな会話をしながら店の前に着く。
「ここだよ」
「なんか緊張する~」
「大丈夫!俺達も一緒だから安心していいよ」
「それが一番危なかったりしてね」
「あはは!俺もそう思う」
「リョウが自分で言ってどうすんのよ」
(おっ!リョウって言った。だいぶ打ち解けた証拠だな、真樹は大丈夫かな?)
店に入ると真樹と二人で席の準備をした。
まだ先輩達も来てない。
「まだお客さん少ないのね」
「そう、時間がオープンしたばかりで、まだ早いからね」
「これからどんどん来るわけね」
「しばらくは4人で飲んでいるつもりでいてくれたらいいからね」
「わかった」
「もうすぐ、俺達は席にずっとは座っていれなくなると思うんだ」
「え~いなくなっちゃうの?」
「うん、でも誰かが座ってくれるているから大丈夫だよ」
「知らない人でしょ?」
「大丈夫だよ。同じグループの人だからね」
「グループ?」
「まあ、細かい事は後で説明するから」
そうこうしているうちに店の中も慌しくなってくる。
「俺、先輩の席にいかなきゃいけないからゆっくり飲んでいてね」
「は~い」
「早紀ちゃんも楽しんでいてね~」
「は~い」
「真樹、俺ヘルプ行ってくるからよろしくな」
「オッケー」
彼女達は、まだお酒も飲みなれないらしく少し飲んだだけでかなり酔った様子。
しばらくして、やっと弘美の横に戻ってこれる。
「ごめんね~なかなか席に戻れなくて。先輩の席に着かないといけなくてね」
「いいの、いいの!席に着いてくれる人、みんな面白い人ばかりで退屈じゃないわよ」
(先輩達に感謝だな)
「早紀ちゃんも飲んでる?」
「飲んでるよ~楽しいお酒。結構飲んだから酔っ払っちゃった~」
「もうすぐ先輩達のお客も帰るからゆっくり座れるからね。待っていてね」
俺は、先輩の客を見送り自分の席に戻る。
もう店も終わり新人達が、掃除を始めている。
指名があった時は、新人でも掃除をしなくてもいい事がある。
客とアフターする事を優先していいからだ。
「さあ飲むか!」
「もうお店終わりなんでしょ?」
「うんまあね。少しくらいなら大丈夫だよ。まだ他に残ってる席もあるし」
「飲みすぎて、もう飲めないよ~」
「私も、もう無理~」
「そっか、じゃ真樹、帰るか?」
「そうだな。そうしよう」
「そう言えば、会計は?」
弘美が思い出したかの様に言う。
「いらないよ。おごるって言ったでしょ?」
「え~払うよ~いくら?」
「もう会計終わっちゃったからいいよ」
「さあ帰ろうぜ!」
真樹が二人の背中を抱えるようにして店の外へ連れて出る。
俺は、真樹に耳打ちする。
(真樹、外に出たら別行動な)
「オッケー、お互いうまくやろうぜ」
外に出ると俺と真樹は、お互いとり決めた女の横に寄り添う。
「二人の家は近いの?」
「弘美は、近いけど私はちょっと遠いかな」
「じゃあ、お互いの家まで別々に送って行くよ」
「え~いいよ~自分で帰れるから」
「・・・そうね」
弘美は、目も開けない状態で答える。
半分寝ている様子。
(マジで寝てる?)
「これじゃあ、一人じゃ無理じゃない?」
「僕達は最後までエスコートしなくちゃいけないからね」
真樹が言う。
「そんな事言って、狼に変身するんじゃないの~?」
早紀が答える。
「あはは、それいいね!」
「危ないわね~遼さん、ちゃんと弘美を送ってってね」
「私は、この狼さんに送ってもらうわ」
「俺、狼?」
「真樹、タクシー来たよ。じゃあ気をつけてね、羊さん」
「私、羊なの?せめて赤頭巾ちゃんにしてよ~」
「ははは、言うね~」
早紀は、冗談の通じる面白そうな女性だ。
この分なら真樹はすんなりいくだろう。
俺は、昔から女の部屋に転がり込むのが好きだ。
部屋に入れてくれて、俺に気を許してくれたという達成感が気持ちいい。
(果たして、この子は気を許してくれるだろうか?)
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