第24話 キャッチした女②

「次のタクシーが来る。


「弘美、家どこ?」


「ん~早稲田」


「運転手さん、早稲田までよろしく」


タクシーに乗り込むと弘美がキスを求めてくる。


「おいおい!ちょっと」


(なんだ?半分眠ってたはずじゃなかったっけ?)


「いいの~キスしてよ」


仕方なく受け入れる。

ちょっと予想してなかった攻撃に俺は、戸惑う。

その後、弘美はアッという間に寝てしまう。


(あれ?キスは何だったんだ?)


「早稲田のどこだ?着いたよ~」


瞼を振り絞って見開き、周りを見渡している。

「うーんと、あ、ここで降りる〜」


「ここでいいんだよね?」


「うん」


「運転手さんここで降ります」


「かしこまりました」


「おい降りるぞ~」


「・・・・・」


「大丈夫か?」


俺は、弘美を引きずるようにしてタクシーから降ろす。

そこからの家までの道順がわからない。


「おい!起きろってば」


「・・・・・」


全く起きる気配がない。


「しょうがねえな~おぶっていくか」


彼女を背中におんぶする事にする。


「よいしょっと!・・・重い」


「弘美、道案内できるか?・・・お~い!」


「うん・・・大丈夫・・・」


(結構飲んでいたのか?それとも酒が弱いだけ?)


「ん~~~あ!そこ右」


ようやく寝ぼけながらも道案内できるようになる。

俺は、言われた通り歩く。


「そこ左!・・・うっ!」


俺の首筋に生暖かい液体が・・・。


(この匂いは?)


「あちゃ~やったな!この状態で吐いたか」


(参ったな)


降ろすに降ろせずそのままおぶったままアパートにたどり着く。


「静かだな。また寝ちゃった?」


たどり着いた所は、下駄箱も共同でトイレも共同の古いアパート。

今時にしては、めずらしいアパートで驚いた。

俺は、自分の身体をゆすらながら声をかける。


「着いたぞ」


「あれ?私の家?」


弘美は我に返り、起きた様子。


「そう、起きた?」


「いやだ~ここまで着いてきたの?」


「おいおい着いてきたのって・・・この状態見ろよ」


「何でおんぶされているの?」


「とりあえず下ろすよ」


俺は、ゆっくりしゃがみ弘美を降ろす。

俺が振り返ると、姿をみて驚いたよう様子。

スーツが汚物で汚れている。


「もしかしてこれって・・・私?」


「そう、その、もしかしてだ」


「最悪~ごめんね~」


「とりあえず部屋に入ろうぜ」


「え~こんな汚いアパート。やだ~」


「まあ、いいから、いいから」


「だって~」


「これで帰れって言うの?」


(ちょっと意地悪な言い方かな)


「・・・・」


弘美は、渋々部屋の鍵を開けて中に入る。

俺も後に続く。


「適当に座って」


「あいよ」


「ちょっと、ごめん・・・」


座る間もなく弘美は、トイレに駆け込む。


(臭うな~脱ぐかな)


俺は、とりあえず汚れたスーツとワイシャツを脱ぎ上半身裸になる。

弘美が戻ってこない。


「アパートの外見からは想像できないくらい女の子らしい部屋だな」


「ごめんね~飲みすぎたみたい~」


弘美が、すっかり酔いが醒めたような顔をして戻ってくる。


「え?何?なんで裸?」


一瞬、裸の俺に驚くが、すぐに脱ぎ捨ててあった俺の衣服を見つける。


「あ!そっか、ごめん。私が汚したのよね。今洗うね」


台所で独り言を言いながら一生懸命洗っている後姿が何故か俺はかわいく愛しく見える。


「ねえ、下のズボンも脱いで」


「いいけど・・・」


(何か変な気持ちになりそうだなぁ)


俺はその場でパンツ一丁になる。


「匂いが落ちないね~困ったな」


まだ一生懸命洗っている。


「とりあえずこのスェットを着て」


「わかった。ん?ちっちゃ!」


「私には大きいくらいだけど・・・遼は身体大きいんだね」


俺は、洗っている後ろ姿をしばらく眺めている。

いつの間にかそのまま眠ってしまったようだ。

ふと目がさめた時に隣で俺の身体に身を寄せて寝ている弘美がいる。


「寝てるの?」


声をかける。


「う~ん、半分寝てる」


「俺、寝てた?」


「うん」


しばらくそのままお互い何も言わずに見つめ合っていたが、俺は弘美の寝ぼけた顔を引寄せ唇を重ねる。

そのまま二人は自然に男と女の関係になる。


事が終って静かになると、俺は、ハッと気付く。


(マジ?)


隣からのテレビの音がよく聞こえてくる。


「ねぇ、隣の音、まる聞こえじゃん」


「そうなの、壁が薄いのよね~」


「薄いのよね~って、結構大声出してたよな?」


「だよね~」

弘美は恥ずかしそうに答える。


「隣の住人は、男?」


「多分、男・・・」


「マジかよ〜大丈夫なのか?刺激が強すぎだろ」


「音楽かけてすればよかったね。」


「いやそういう問題じゃないと思うけど」


弘美は、美容師の卵だから給料は安い。

ホストの客として扱うには無理がある。

俺は、たまに遊びに来て泊まっていく関係。

一つだけ利点がある。

美容院代が必要なくなる。

髪を切る技術は、上手い。さすが美容師。

しばらくしたら弘美が俺の事をだいぶ惹かれているなと感じてくる。


ある日いきなり梶に呼ばれる。


「おい遼、まだあの美容師とつながっているのか?」


突然の質問に驚く。


「はい、まあ・・・ちょっとだけ」


(何でそんな事を今更聞くのだ?ていうか、店にも連れて来てない客をよく覚えているよなぁ)


「続いているなら、そろそろ転職させろ」


「え?」


(転職?)


最初、何の事を言っているのか把握できなかった。


「店にも来させない女と外で付き合うな!」


「・・・・」


「おまえ、あの女に惚れてんのか?」


「・・・・」


「女と付き合うのに、情をいれるなって言ってんだよ」


「・・・・」


「女と付き合うのに、愛情をいれるな!」


「はい・・・」


「ホストになるんだろ?」


「はい」


「どんな女でも常に仕事と思って付き合え!」


「はい」


「もう一回、店に連れて来いよ。飲み代は俺が払ってやるから」


「え?あ・・はい」


俺は理由も聞けないまま、言われた通り店に連れてくるしかなかった。


「弘美、今度、また店に来てよ」


「え~なんで?」


「たまには一緒に飲もうよ」


「店の外でいくらでも一緒に飲めるじゃん」


「仕事前に飲むと酔っ払うから無理だよ。仕事休めないし休んで飲みに行くのも無理」


「別にいいけどお金ないよ」


「うん、お金の心配はいらないから来いよ」


「遼が出すの?」


「うん、まあそんなようなもんかな」


「お給料なくなっちゃうよ。無理しないほうがいいよ」


「大丈夫だから来てよ」


(いい子だよな・・・こんな子を巻き込んでいいのだろうか)


こんな事を思う俺は、まだまだ甘いのかもしれない。


そして弘美を店に連れて行く。




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