第25話 キャッチした女③
梶に言われた通り弘美を店に連れて来る。
俺がヘルプで別の席にいる時も梶は自分の客の席にも着かずに弘美の隣にずっと座っている。
俺は何を話しているのか気になってしかたがない。
(梶さん長すぎるよ。一体、何なんだ!)
結局、梶がずっと座っているので弘美の席に戻りにくく、ほとんど着けなかった。
店も終わり、弘美を送って行く。
タクシーに乗って、すぐ弘美が怒った顔で話してくる。
「今日、全然席に着いてくれなかったね」
「ごめん。ヘルプで忙しくて・・・」
「じゃあなんで一緒に飲もうって連れて来たのよ」
「ほんとごめん」
「もう~」
「ところで梶さんと何を話していたんだ?」
「梶さんだけじゃなくて、今日ヘルプに着いた全員が遼を男にしてやれって言うの」
「男にしてやれ?・・・あ〜」
(そういう事か)
「最初何を言ってるのか、さっぱりわからなかった」
「そうだよな」
「売れっ子ホストにしてやれってさ」
「うん、それで?」
「そうするには私が毎日店に来る事みたい」
「なるほど」
「そうすれば売り上げも上がって順位もあがるからって」
「そうだな」
「私、お金がないから無理だと言ったのよ」
「確かにそうだよな」
「そしたら何て言ったと思う?」
「なんて?」
「もっと収入のいい仕事に就くしかないと言われたのよ」
「うん」
「それって私に、美容室を持つ夢を諦めろって事じゃない?」
「そうなるよな」
「だから、美容師をやめるつもりはないと言ってやったわよ」
「そっか、いいんじゃない?無理する事ないと思うよ」
「ほんと?マジで?よかった〜凹みそうだったんだ」
「ん?なんで?」
「遼までそんなこと言い出したらどうしようかと思ってたよ」
「そんな事は言わないさ」
(この話の流れで俺まで同じ事を言ったら、まずいだろうな)
次の日に、梶に弘美の飲み代のお礼を言う。
「昨日はありがとうございました」
「どうだ?女はその気になったか?」
「いや~難しそうです。」
「そっか・・じゃあ、又店に連れて来いよ」
「またですか?」
「そうだ」
訳がわからず、相原にその真意を聞く。
「また、梶さんに連れて来るように言われたんですけど・・・」
「多分あれだな。また同じ事を言うんじゃないかな」
「またですか?」
「あの子を風俗の店に行くように仕向けてるんだと思う」
「風俗ですか?水商売じゃなくて風俗?」
(弘美が身体を・・・)
「なんだ?嫌なのか?」
「いや・・・」
俺は、そんな事になったら弘美が可哀想だなと思ってしまう。
「お前、あの子に情入ってんじゃねえの?」
「え?そんなことないです。梶さんにも言われましたから、大丈夫です。」
(入ってるの見え見えかな?)
「ならいいけどな」
「はい」
(だけど、みんな同じこと言うんだな)
「遼、まずは、あの子にボロアパートからマンションに移るように言えよ」
「はあ・・・」
(何故だろう)
「そして、引っ越したら毎日家に行くって言うんだ」
「はい」
(あ〜なるほど、そういう事か)
「なんなら、一緒に住もうって話してもいいんじゃないかな」
「そこまで言うんですか?」
「同棲しようって顔合わすたびに、しつこく言う事」
「嫌がられそうだなあ。そんな事で上手くいくかな?」
「大丈夫!おまえは言われた通りやればいいんだよ」
「はい、わかりました」
この辺りから、ようやく俺はみんなの言っている事、やっている事の意味がわかってくる。
その反面、複雑な気持ちになる。
店に呼ぶ事もできない。
金にもならない。
(弘美は、客ではなく自分の彼女のように思って付き合っていたのに・・・)
自分の彼女を風俗嬢に。
(ホストなら当たり前の行動なんだろうか?)
真樹に弘美に対しての経緯を話す。
「遼、俺達はホストになったのだから、徹底してやらないとトップを目指せないって事だよな?」
「そうだな」
「これからも女に対して、非情な心を持たなきゃいけない時も出てくるはずだし」
「うん」
「こんな所で、挫折しててもしょうがないぜ」
「わかった」
俺は、これから感情を押し殺して仕事をする事を決意する。
俺は弘美に対して言葉巧みにいろんな事を言う。
「俺の為ではなく、今は金を貯めてから自分の美容室を持とうよ」
「そうね、でも・・・」
「今のままじゃ貯金も出来ないし、いつまでたっても夢のままで終わるよ」
「そうかな?」
「俺もそばにいて支えるからさ」
そんな内容を会うたびに話し続ける。
そして、しばらくすると弘美は転職する。
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