第26話 キャッチした女④

そして、しばらくして自分から進んで風俗店に行き転職をする。


弘美は、先輩達の言葉に根負けしたのだろうか?

それとも俺の言葉に揺らいだのだろうか?


働きだして仕事が終わると、毎日夜中に店に来るようになる。

女の人生を変えて自分の売り上げを伸ばす。


(これで俺はホストとして足を突っ込んだと言えるのだろうか?)


弘美の顔を見ながら自問自答する自分がいる。

しばらくすると弘美は、思惑通りアパートからマンションに移る。


弘美が転職してから仕事が終わると店に来ては沢山の酒を飲み、愚痴を言いながら帰る頃には泣いている。

男相手の仕事。

辛くて、辛くて、死にたいなんて言葉も発して泣いている。

俺は、毎日のように慰め元気づける。

先輩達も気を使ってくれている。


「ヘルプはいいから、傍にいてやれ」


「はい、ありがとうございます」


「ヘルプは付けとくから、弘美ちゃん来てる時は無理して座らなくていいからな」


「この状態、いつまで続くのでしょうか?」


「まあ見てなって、すぐ終るさ」


先輩達は、口を揃えて同じ事を言う。


「こんなに毎日泣いているのにですか?」


「女は強くて怖い生き物!そのうちわかるさ」


相原が答える。

俺は、この言葉の意味が全く理解できなかった。

相原の言葉の意味は、一月もたたないうちにわかる事になる。

毎日泣いていた弘美がは、今では楽しそうに飲んで騒いで帰る。

弘美の帰る後ろ姿を見ながら、


(毎日楽しそうだなあ)


隣で一緒に見送っていた真樹が話しかけてくる。

「遼、弘美ちゃん変わったね」


「そうだな。最初は、店でめそめそ泣いていたのにな」


「別人のようだな」


「そうだよ、安心したよ」


「早紀も言ってたよ。性格も変わったみたいって」


「やっぱりみんなそう感じてるいるのかぁ」


「でも、最近店に来る回数減ってきてない?」


「そうかな?」


「そうだよ。気付いてないのか?」


「うん。じゃあ美容室の為に金貯めているのかもしれないな」


「かもなって他人事みたいに・・・最近、部屋行ってる?」


「うん、まあ・・ちょっと遠のいてるかも」


「あんまりほっとくと浮気されちゃうぞ」


「あいつは大丈夫だよ」


(まさか弘美がなぁ・・・)


「遼の為に転職したんだから大事にしないとだめじゃん」


「俺の為?あいつは自分の為に・・・」


「そんな事言うなよ。弘美ちゃんがかわいそうだろ。いい子なんだからさ」


「・・・・」


「自分ではわかってるんだろ?責任逃れみたいな事を言うなって」


「わかったよ」


自分の中でいつの間にか罪悪感を消していたのかもしれない。

そして、弘美は店に全く来なくなる。

弘美はお金をつかみ欲も強くなったのだろうか?

金銭感覚もおかしくなり、贅沢で浪費家な女に変化する。


「おまえ、最近生活派手じゃない?」


「そ~お?」


「貯金してる?」


「そうね~何故かあんまり貯まらないのよね」


「結構稼いでいるだろ?」


「そうね~」


「店にも呼んでないし、使う所ないはずだぞ」


「・・・・」


「何とか言えよ。夢の為に金貯められると思って店に呼ばないでいるのに・・・」


(都合のいい言い方だな)


「だって遼、店でもプライベートでも全然遊んでくれないじゃん」


「悪い、忙しくて」


(そう来たか!)


「家にも全然来てくれないじゃん」


実は、ヘルプの仕事や他の女の相手を口実に弘美を後回しにして席や部屋に行ってない。


その後も、店にも呼んでも来ない。

不審には思いながら、毎日が過ぎていく。

仕事中に今日こそ終ったら部屋に行こうと思いつつ、終る頃は酔っ払って忘れてしまう。

それほど毎日、忙しすぎた。

この時の俺は、弘美をかまってあげられるほど時間に余裕がなかった。


真樹が店に出勤すると駆け寄って来て話しかけてくる。


「おい!弘美が他の店で飲んでいるのを見かけたと、梶さんの客が言ってたぞ」


「え!まじで?」


「何やってるんだよ」


「やっぱりか」


「心当たりでもあるのか?」


「ああ、最近稼いでるはずなのに金がないない!って言ってるから」


「そっか」


「お前、あれからちゃんと家に行ってるのか?」


「いや、行けてない」


「連絡は?」


「たまにするくらいかな?」


「おい、基本だぞ。毎日会話しないと」


「最近相手もしないで、放置状態なんだよ」


「それはよくない。釣った魚にはエサやらないと」


「他の店に行くくらいなら、うちに来ればいいのにな」


「何をのんきな事言ってるんだよ!どうするんだ?」


「少し話し合わないとだめだな」


「ちゃんとしろよ!」


「面倒くさ~」


「仕事だぞ、仕事!」


「わかったよ」


翌日、俺は弘美の家に行く事にする。

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