第74話 同棲生活③

喧嘩の原因はわかっている。

金だ。


香奈が指名もとれず収入も少なく、京介もイライラしているのだ。

隣の俺達の生活と、つい比べてしまって香奈に小言を言いたくなるのだろう。


「ねぇ、どうにかしてよ〜」


「後でもいいかな?もう店にいかないと・・・遅刻だよ」


「私、どうすればいいの?」


「どうするって、部屋に戻れば?」


「また殴られるから嫌よ」


「京介さんも仕事行くんだろ?」


「知らない」


「ここに来ているって、知っているの?」


「さあ」


「じゃあ、俺が仕事行こうって連れ出すから出かけたら部屋に入りなよ」


「わかった」


「由美には、帰ったら香奈ちゃんの部屋に連絡するように言っておくからね」


「うん」


香奈は渋々自分の部屋へ向かう。

俺は、後から続いて玄関先で京介に誘いの言葉をかける。


「京介さーん、仕事行きますよ」


「おう」


京介は何事もなかったような顔で部屋から出てくる。

二人でタクシーに乗り店に向かう。


「京介さん、大変ですね」


「ん?やっぱりお前の所に泣きついて行ったか?」


「来ましたよ。顔は、まずいでしょ」


「ああ・・・あいつと口喧嘩で勝てなくてね、つい手が出ちまったよ」


「仲良くやりましょう」


「あいつ、稼ぎ悪くて困るんだよな~」


「・・・・」


(やっぱり原因は、それか・・・)


俺は、由美のヤキモチで困っていても喧嘩はしていない。


「あっ!俺、部屋に寄ってから店に行くので、ここで降りますね」


最近、事情があって寮によってから出勤する様になっている。

指名を増やす為に、早めに家を出て寮に寄る。

家からだと客に電話が出来ないので、寮から電話をするしかなかった。


店に由美から電話が入る。


「今日も行っていい?」


「だめ」


「どうして?」


「来ても相手できないから」


「いいわよ。一人で飲んでいるから」


「いいから家にいろよ。終ったらすぐ帰るからさ」


由美と、こんなやり取りの日が増えていく。


また、ある日の夜中。


「ねえ~早く帰ってきてよ~」


「まだ仕事中。もう少しで終るから待てって」


「寂しいから早く」


「だからもうすぐだって」


由美は、家で酒を飲んで酔っ払っている。


「まだ~?」


「おい、もう何回電話してくんだよ」


「そうだっけ?まだ二回目じゃない?」


「頼むよ~仕事の邪魔をするなよ」


(五回目だよ)


「そんなこと言って、女といちゃついているんでしょ~」


「馬鹿な事、言うなって」


たまにならいいが毎日続くとうんざりしてくる。


「最近、お前変わったよな」


「とにかく早く帰ってきてよ~」


「もう切るぞ」


疲れて帰っても酔っ払った由美の相手をしなければならない。

俺は、家に帰らない日が増えていく。


「今日は、電話番でこっちの部屋に泊まるから」


「え~私に一人で寝ろって言うの?」


「ここでいるのも仕事だからさ、我慢してくれよ」


「相原と私と、どっちが大事なの?」


「お前、酒飲み過ぎだぞ。酔ってでも、そういう事言うなよ」


こんな会話が増えていく。

由美は、俺の居場所はわかっている。

相原や西城もいると思っているので、寮までくる事はない。

最近ここが、ホッとできる唯一の空間になっていた。


ある日、家に帰らないで寮から出勤する。

隼人が近づいてくる。


「遼さん、電話です」


「誰?」


「多分、由美さんかと・・・」


「またか」


「だいぶ酔っている感じでした」


俺は、隣の席にいた西城に声をかける。


「西城、今、いいかな?」


「はい」


「この席を頼む」


「はい」


俺は、京介を探す。


「京介さん、由美から電話出てもらえますか?」


「いいけど、どした?」


「最近、電話出ると中々切らせてもらえなくて・・・」


「大変だな」


「話すと長くなるので、忙しいとか適当に言って後からかけるって言ってもらえますか?」


「ああ、いいよ」


席で接客していると、京介が顔色を変えて慌てた様子で傍に来る。


(どうしたんだろ?)






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る