第144話 ホスト休業③
「そうだ。今の私の行っている店で何か仕事ないか聞いてあげようか?」
「え?何かあるの?」
「聞いてみないとわからないけど」
「じゃあ聞いてみてくれよ」
「わかった」
美紀は、着替えが終り、テーブルの上のグラスなどを台所に運ぶ。
「俺、片付けとくから置いといていいよ」
「サンキュー。じゃ、私、行くね」
「あいよ」
俺は、犬を抱っこする。
「いってらっしゃ~い」
俺は、美紀に向かって犬の手を持ってバイバイをする。
「いってきま~す。かわいい」
ドアが閉まってから、犬を放して立ち上がる。
「さてと・・掃除でもしようかな」
(しかし、客の事を考えないでの生活は楽だなあ)
初めての部屋に来てすぐに順応する自分を我ながら凄いなとしみじみ思う。
俺は、ここの生活が気に入りそうだ。
夜遅くに美紀が帰ってくる。
「ただいま~」
「おかえり」
俺は、台所で美紀を出迎える。
「飯、食う?」
「あれ?もしかして何か作ったの?いい匂いがする〜」
「カレー」
「やっぱり。材料買ってきたの?」
「ごめん、勝手にそこの財布からお金借りたよ」
俺は、タンスの上の財布を指差す。
「そうそう、言うの忘れた」
「ん?」
「そこに入っているお金は、使っていいからって言うの忘れていたわ」
「そうだったんだ。今の俺は貧乏人だから勝手に使ってごめん」
「あはは、気にしないの。でも遼が買い物に行って作ってくれのね~」
「カレーぐらい作れるさ」
「買い物姿、想像すると笑える」
「何だよそれ」
「うれしいな、ありがとう」
俺は、二人分のカレーライスをテーブルに運ぶ。
美紀は、部屋着に着替えてテーブルに座る。
「何か手伝う?」
「いいよ、ご主人様は座っていて下さい」
「あはは、私、主人なの?」
「そそ」
「何か楽でいいね」
「さあ、食おうぜ」
俺は、グラスに麦茶を注ぐ。
「乾杯」
「乾杯するの?お酒じゃないのに?」
「乾杯の気分だからさ」
そして、俺は麦茶を一気に飲み干す。
「そうそう、いい話もって来たよ」
「何?」
「仕事の話」
「へえ~何だろ?」
俺は、食べる手を止め美紀の顔を見る。
「うちの店のビラまきだよ」
「ビラまき?」
「そう」
「店の場所はどこだったっけ?」
「六本木」
「六本木かあ、遠いな」
俺は、美紀の部屋から六本木までの距離を把握してなかった。
「だめ?ここからは、近いはずよ」
「そうだっけ?ここから六本木までが、わからないな」
「歌舞伎町からは、確かに遠いだろうけど・・・」
中目黒から六本木は三駅の距離。
「六本木なんて、土地勘もないし俺には似合わなさそうだな」
「何、言っているの、住めば都じゃない?」
「住むわけじゃないけど・・・」
「遼のお客さんに出くわさないし好都合じゃない?」
「そっか、離れているから客に遭わなくすむのか・・・」
「そうそう、歌舞伎町の事も忘れられていいかもよ」
「そうだな」
「じゃあ明日から来て」
俺は、驚いた表情で美紀を見る。
「明日?早くない?」
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