第148話 転職④

実際に路上でビラを渡して雇っている店もある。

俺は、店に出入りしているので、とぼけるのに苦労する。

何時間も冷たい折りたたみ椅子に座らされ尋問。


(疲れた・・・いい加減終らないかなあ)


「これで全てか?もう言う事ないか?」


「はい」


「じゃここに名前とその横に指で押して」


「はい」


「チラシは全部没収するからね」


「はい」


もう二度とやりませんと書かされて、お叱りを受けて解放。

罰金刑3000円。

立小便と同じ軽犯罪になる。

立小便で捕まる事は、ほとんどないが・・・。


俺は、一応警察に後をつけられていないか警戒しながら店に戻る。


「お疲れ様でーす」


「おつかれ!遅かったね」


店長に、いきさつを話すが笑っておしまいだった。

俺は、懲りずにビラ貼りを続ける。

少し工夫をする。

時間をロスするが、貼る時に電話をかけるふりをしながら少し間を置いてから注意深く貼るようにする。


貼り子同士、いつも情報交換をしている。


「最近、取り締まり厳しいね」


「そだね。この街は、もうだめかな」


「店自体も結構捕まってるしね」


「俺、もう今月3回もやられたよ」


「マジ?」


「もう、この仕事は無理かもな」


「え?もうやめるの?」


俺は、驚いて聞く。


「二度三度捕まると取り調べも厳しくて、すんなり解放してくれなくなってきたよ」


「そっか。顔を覚えられたら俺達も終りか・・・」


「それに店が捕まる時って、客も一緒に捕まってるんだよ」


「そうなんだ」


「この地域も警察の手入れが厳しくなって、客がビビッって遊ばなくなってきたよ」


こんな内容の話が多くなっていく。

いつもように店に行くと店長が神妙な顔で話してくる。


「遼君、私ここを閉めて地元の大阪に戻るわ」


「そうですかぁ」


「あら、あんまり驚かないんやね」


「最近どこの店も、売り上げがないって言ってるから」


「頑張ってもらっていたのに、ごめんな」


「大丈夫ですよ」


店を閉めたと同時に美紀もソープに戻っていく。


俺は、また無職になる。

最近、時間のずれからか美紀とすれ違いの生活が続いている。

美紀は、仕事に行く準備をしている。


「遼、また何か仕事探さなきゃね」


「うん・・・」


「私が稼いでいるから、遼はのんびり遊んでいてもいいよ」


「そう言うわけにもいかないだろ?」


「遼の思うようにしていいからね」


「ああ、わかった」


俺には、ビラまきをした時に他の店のオーナーと顔の繋がりができていた。

すぐに次の職は見つかる。


同じビラまきの仕事。

そこは、俺がやっていた頃から悪質なビラの貼り方で有名な店。

だが、このあたりでは、一番繁盛している店。

事務所と女の子の待機所が二ヶ所の大所帯の店。


「美紀、バイト決まったぞ」


「へ~もう働くの?」


(あんまりうれしそうじゃないな・・・)


「当たり前だよ」


「ふ~ん、働き者なんだね」


「馬鹿にするなって。俺は、根っからの怠け者ではないんだよ」


「はいはい。それで?」


「ここの店」


俺は、そう言って店のチラシを見せる。


「あ~この店?」


「そうだよ」


「評判よくないよ」


美紀は、そう言いながらチラシをテーブルの上に投げ捨てる。


「いいんだよ給料さえもらえれば」


「それは、そうだけど・・・」


「また警察に捕まるよ」


「そん時はその時さ」


「私的には、家にいてくれほうがいいんだけどなあ」


「家にいても暇で暇で・・・掃除洗濯すぐ終っちゃうしさ」


「そっか・・・そうだよね。じゃ、がんばってね」


「おう」


(何か言いたそうだな)


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