第147話 転職③

客からの要望するタイプの女がいない時は、同業者に回したり回されたりしている。

この業界では、横の繋がりも大切になる。

客を回した場合は、店側の取り分を半々に分ける。

店によっては、四分六の所もある。

女の子の取り分は変わらない。


ホテトルなど暴力団の資金源とか一般に言われている。

実際は、そんなに儲けもなく、この界隈ではお金は流れていない様子。


経営者が、その筋だと直営店になるので話は別になる。

しかし、正月とか祭りなど、いろんな行事に花代という名目でお金を払う。

いわゆるケツモチと言う物。

近からず遠からずの関係が良さそうだ。


いつものように他店の従業員と一緒にビラを貼りに出かける。

もう慣れたもので一人でサッサと張っていく。

仲間と一緒の時は、なるべく先に電話ボックスに入る。

目立つ所に仲間より早く貼る為。


いつもの場所のボックスに近づいていくと、そばに若い男が立っている。


(邪魔だなあ)


少し不自然さを感じるがその男の身体をかわしてボックスに入り、ビラを貼って行く。


(え?)


傍の男がボックスに入ってくる。


(こいつもビラ貼りか?)


突然腕をつかまれる。


「何すんだよ」


俺は、腕を振り払おうとしたが強い力でビクともしない。

男は、俺の顔をジッと睨んでいる。


「はい、現行。」


(こいつ、何を言ってるんだ?)


さらに強く振りほどこうとしたが、相手はさらに強く握り締めて腕が離れない。


「警察だ!」


もう一人の男が走ってきて叫ぶ。


(けいさつ?)


俺は、二人に押さえつけられながら電話ボックスから出される。


「逃げるなよ」


「あ、はい」


俺は、返事をしながら回りを見渡す。


(あいつは?)


一緒にビラをまいていた男を探したがどこにも見当たらない。

逃げたのだろう。


(薄情なやつだな)


俺は観念して腕の力を抜く。

そうすると、刑事の手が緩まる。


「何で捕まったかわかるか?」


「さあ・・・」


俺は、白々しく答える。


「これだよ。ピンクチラシ」


「ああ・・・」


「こんなの貼っちゃいかんのだよ」


「はい、すみません」


「店の場所は、どこだ?」


「アルバイトなので店は、わかりません」


「じゃこのチラシはどうしたんだ?」


「路上でお金と一緒にもらいました」


(嘘くさいかな)


「まあいいや、じゃ写真撮るからこっち来て」


「写真?」


刑事が剥がした俺のビラを持たされ、それを貼っている姿の写真を撮られる。

何枚も何枚も違うアングルから撮られる。


「さあて、写真も撮ったし署に行くか」


「え?」


気がつくとパトカーがそばに止まっている。


「お迎えがきたんだよ」


「これで終わりじゃないんですか?」


「何を言っているの、これから取り調べだよ」


「・・・・」


(マジかよ・・・)


俺は、警察署に連れていかれる。

そして、取り調べ室に入る。


「ここでちょっと待っていろよ」


(何かこの感じ・・・久しぶりだなあ)


初めてではなかったので、緊張はしなかった。

未成年の頃、暴走行為と、車上荒らしで捕まった時に経験済み。


(しかし、気持ちのいい場所じゃないな)


待ってる間、俺は頭の中で思い出している。

捕まった時に質問の答え方をあらかじめ店のオーナーから聞いている。


「さあ始めようか」


「あれ?さっきの刑事さんは?」


「彼は、また次の捜査に出掛けたよ」


「そうなんだ」


「じゃあ最初から聞くよ」


オーナーから言われた通りの内容を刑事に話す。


「ビラは路上でバイト代と一緒に受け取りました」


「後は何も知りません」


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