第169話 何故逮捕?②
車に四人の刑事が乗る。
(狭苦しいなあ)
「さあ、行くか」
「どこに?」
「署だよ。当たり前だろ」
「そっか」
俺は、ふと考える。
(電話番であゆみも店にいたんだけどなあ)
刑事の口からは、あゆみの名前は最後まで出なかった。
(あゆみの事は、あえて言わなくていっか)
車は、ゆっくりと走り出す。
「あれ?刑事さんサイレンは?」
「急ぎじゃないから鳴らさないよ」
「そういうもんなんだ」
「お前、捕まったのに明るいな」
「そうですか?俺、別に悪いことしてないんだけど・・・」
「まあ、署でみっちり話は聞くから」
「はいはい」
俺は、これから執拗に刑事の取調べが始まる事とは思いもしていなかった。
向かった警察署は、歌舞伎町よりも遠く六本木の近くの警察署でもない。
(管轄のせいなのか?)
今まで来た事もない場所で車から降りても、どこなのかわからない。
(まあ、場所は関係ないか・・・)
着いてすぐ取り調べ室に入れられる。
「さ、手を出して」
「え?何?」
「手錠を外すから」
「あ・・ああ」
手錠をはずされる。
「ふう~」
(何か、すごく楽になった気分だ)
「さて、順番に聞いていくからね」
どこまで調べがついているのか見当もしない。
(とりあえずオーナーの名前だけは言わないようにするかな)
調書を書いていくうちに、細かすぎる事に嫌気が差す。
何月何日の何時何分に何をしていたかまで聞かれる。
何ヶ月、一年、二年も前の話を時間まで思い出すのは無理に決まっている。
「刑事さん、日記でも書いてない限りそんな細かい時間まで思い出せないっすよ」
「いいから思い出せ」
「思い出せって言われても」
(無理だって・・・)
それでも、しつこく何時間も思い出せと言う。
「今日は、思い出すまで終らないからな」
「無理ですって・・・」
「思い出したら呼べよ」
そういって部屋から出て行く。
「も~最悪」
俺はイスの背もたれに勢いよくもたれかかる。
「イテテ。このイス硬いよ」
何時間も何もない部屋で椅子にすわったまま放置。
暖房は、入っているが手足の指先が寒い。
結構苦痛。
「ほんとに日記でも書いておけばよかったよ。マジで」
俺は、椅子を後ろに傾けバランスをとりながらゆらゆら動かしている。
「やっぱり、どうやっても思い出せないよなあ」
そこに刑事がコップとヤカンを持って入ってくる。
「おい、昼飯にしよう」
「はあ・・・」
「何、食べる?」
(もしかしてカツ丼か?)
テレビの光景を思い出す。
「出前とるから、ここから選べ」
俺は出前のメニューを渡される。
「刑事さんのおごり?」
「自分で払うんだよ」
「だってテレビでは刑事さんが・・・」
「何?」
「いや何でもないっす。カレーライスで」
一番安いカレーにする。
結局、調書も進まず夜も更ける。
「もう11時か・・・もう今日は終わりだな」
「もう眠いっす」
俺は、ずっとあくびばかりしていた。
夕食も出前だったが、同じカレーを頼む。
「さあ、荷物を持って行くぞ」
「やっぱり帰してもらえないんだ」
「あたり前だろ」
俺は、初めて留置場に入る事になる。
静まり返った警察署の中に俺の歩く音が響き渡る。
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