第76話 同棲生活⑤

俺は、タクシーで向かいながら動揺抑えながら京介と話す。


「京介さん、すみません」


「最近、由美ちゃん荒れてたもんなあ」


「俺も何とかしなくてはと思いつつ、世話になってきてるから中々強く言えなくて」


「自殺なんてする子に見えなかったのになぁ」


「俺も最初は、あんなに嫉妬深い女に見えなかったです」


「ヤキモチ?そんなにすごいのか?」


「そりゃあ~もう段々エスカレートしてきて」


「それは、お前の事をどんどん好きになった証拠だろうな」


「そうなんですかね?」


「女は惚れると変わるものだよ」


「それなら嬉しい事なんですけど、仕事に影響するのは困りますね」


「そうだな」


「昔ホストと住んでいたらしく、そいつがナンバー1になったとか言ってたけど・・・」


「そんな話、してた?」


「自分がナンバー1にしたかのような言い方で、ちょっと嫌味な感じでしたねぇ」


「ふ~ん・・・そっか」


京介は、奥歯に物がはさまったような答え方。


(何だろ?何かありそうだな)


「何かありました?」


「実は、お前には話してなかったけど、由美ちゃん前の店の常連客だったんだ」


「え?前の店ですか?」


「そう、俺や相原が入店前によく飲みに来ていたらしいぞ」


「初耳です」


由美は、この店に来る前にいたホストクラブの常連だった。

俺が入った頃は、店に一回も来ていないので知らなかった。


「話さなくていいって、口止めをされていたからな」


「そんな話、誰もしてなかったですよ」


「訳ありだからしないさ」


「訳あり?」


(何だよそれ)


「そう、訳ありね」


「由美って、飛び込みの客でどこの店も指名はいないって・・・」


「俺も聞いた話だけど、南さん知っているよな?」


「はい。京介さんが一緒に住んでいた人ですよね?」


「南さんが、そう話していたよ」


「ちょっと待って下さい。あ~頭がこんがらがりそう」


「まあ、どうでもいいじゃん」


「いやいや、そんな訳には・・・じゃナンバー1って?」


「俺が聞いた話は、社長の女だって聞いたぞ」


「え!社長?」


「訳が、わかんねえ。京介さん、こんな時にそんな話をしないでくださいよぉ」


「いや、つい流れで・・・」


そんな話をしている間にタクシーが家に着く。


「京介さんさっきの話は、また後ほど」


俺は、続きが気になるがとりあえず急いでエレベーターに乗り部屋に向かう。


「ワンワン、ワンワン」


犬が鳴いている。


「腹が減っているのかな?」


玄関を開けて中に入ると、泥棒でも入ったかのように部屋の中は散乱している。


「わあ~ひどいな」


京介は、顔をしかめる。


「なんじゃこりゃ~酒くさ!」


隼人が浴室の入り口から顔を出す。


「あ~やっと来た。遼さんこっちです」


「どうだ?大丈夫?」


「多分・・・傷は深くなかったみたいで、すぐに血は止まりました」


「そっか傷が浅いなら救急も平気かな」


「ですね」


電話の時と違って、隼人は落ち着いている。


「酒の匂いがすごいな」


「相当飲んでいたみたいですね」


「まあいつもの事よ」


「絨毯も酒でぐちょぐちょです」


「それで酒の匂いが凄いのか」


歩くとジワッとにじみ出てくる。

靴下が酒でビショビショで気持ち悪い。

よく見るとウィスキーのビンが何本も転がっている。


「もう張り替えないとだめですね」


「オーダーで張った絨毯なのに台無しだ」


「もったいないですね」


こんな時に不謹慎な会話に思える。


「と、こんな話をしてる場合じゃないか!」





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る