第162話 変わり果てた女④

「ああ~これ?」


美紀の腕と足の皮膚が点々と赤く血が付いている。

毛穴の皮がえぐられたように、剥がれている。


「どうやったら、こうなるんだ?皮膚病とか?」


「違うよ」


「じゃあ、何だよ?」


「毛穴から虫が出てきたから、毛抜きでとったの」


「マジで言ってんの?」


「本当だって」


「虫が出てくるはずないだろ」


(やばいな)


「だって出てきたから・・・」


「で・・・全部むしりとったって事?」


「そう」


「お前、それって幻覚じゃない?」


「本当だもん」


「そっか・・・それで痛くないの?」


「うん」


(まずいなあ、重症だな・・・)


「まあいいや。とにかくやるだけやろうぜ」


「うん」


「汗をたくさん出して薬の毒素が出るように、暖房を入れるからね」


「うん」


「暑くても我慢しろよ」


「うん」


「ささ、君はこっちの部屋にいような」


俺は、犬を抱っこして隣の部屋に連れて行く。


これで準備は整った。

後は待つだけ。

みるみる部屋の温度が上がっていく。


(こんなんでほんとに上手くいくのだろうか?不安だ・・・)


そして、時間が過ぎていく。

俺はテレビを見ながらのんびり過ごす。


「ガタガタ」


「おっ!暴れだしたか?」


しばらくすると静かになる。


「薬ぬけたかな?」


しばらく聞き耳を立てて様子を見る。


「ガタン」


「まだかな?」


周期的に禁断症状が、きているような感じがする。


「ガタガタ」


「また来たかな?」


今回は長く暴れている様子。


(気になるな)


俺は、隣の部屋からドアを開けて顔だけ出して中の様子を伺う。


「どうした?」


「はずして!」


「おい!声がでかいよ。近所に迷惑だよ」


「お願い!」


(これはまずいな・・・このままだと近所で110番されそうだな)


俺は、周りを見渡しタオルを探す。


「あった、あった」


掛けてあった手拭タオルを丸める。


「美紀、これ噛んでいろ」


丸めたタオルを美紀の口に突っ込む。


「おっとその前に水飲ませておくかな」


タオルをとって水を飲ませると勢いよく飲んでいる。


「さて、これくわえて」


素直に口に入れる。


(おっ!)


「ウウウウ~~」


「獣のようだな・・・」


(逆らわないでタオルを噛んだって事は、やめようと頑張っている証拠だな)


しばらくそばで見守る事にする。

意思とは逆に身体をよけぞり縄をはずそうと必死の様子。

時折すごい力で暴れだす。


(やば!結び目が外れそうだ)


俺は、美紀の上に飛び乗る。

羽交い絞めにして両手、両足を押さえた。

紐がちぎれそうだ。


(すげえ、力。)


しばらくすると、ぐったりして静かになる。


「ふう~」


(やっとおさまった)


俺も抑える力を抜いて、口のタオルをとってやる。


「水・・・・」


「あ~ごめん、この暑さだ。脱水症状起こすよな。」


台所へ向かいグラスに水を入れる。


「はあ~俺も喉がカラカラだ」


その水を一気飲み。


「はあ~生き返ったあ」


俺は、イスに座る。


「一服でもするかな」


タバコに火をつける。


「フゥ~」


(あれ?何か忘れてるような気がするな・・・)


「あっ!美紀に水だ!忘れてた」





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